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渡し愛  作者: 稲穂ぴす
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01_鈴蘭

今日は生憎の雨。こんな天気じゃ教会のシスターさん達もきっと忙しいだろうな。お店の前に花を並べ出してゆくと、行き交う人から花を買う声が聞こえ、その度に店内を歩き回ってお目当ての花を探してくる。ある人は恋人の為に、ある人は家族の為に、ある人は大切な友人の為にとそれぞれにあった花を包んで差し出してゆく。

 このお店で働くようになってもう数年が経つ。最初は花の香りが好きで始めてみたいと思ったからで、この花屋の店主とは随分仲も良かったからすんなりと雇ってもらえた。そりゃ毎日花の事を聞きに来るもんだから嫌でも覚えちゃうよね。

 それから毎日此処で花達のお世話をしつつ、花言葉とかその花の特性について調べたりして勉強を重ねている毎日を送っている。

 少し狭く感じるこのお店にも沢山の花が飾られている。その中にある鈴蘭の世話をしていた時だった。


「へぇ、お嬢さんがこの花の世話をしているの?」

「あ、はい。何かお探しですか?」


 とても綺麗なラベンダーアメジスト色の髪と瞳を持つ男性とその男性よりも背の高いイエローカルサイト色の髪でサファイアブルーの瞳の男性が立っていた。二人共真っ白な法衣とミトラに描かれた協会の紋章を見る限り聖職者、つまり司教様である。

 このオリキュアル国で一番大きい教会があるこの街ではこういった格好の方を見る事は少なくない。それはこの街がほとんどこの教会の為にあるようなものだから。この場所ではどんな罪人も教会に助けを求めれば匿ってもらえる。つい先日も囚人がこの教会に助けに入っていったというのを聞いた位にこの教会の力は政府の権力とはまた違うものを持っているらしい。私も信者ではあるけど、シスターになれるほどではないな。

 ラベンダーアメジスト色の司教は近くにあったアサガオに触れ、花の様子を見ているのか植木鉢を少し持ち上げ、色々な角度から眺めている。時には土にも触れ、乾燥していないか、肥料の量は適切かまでしっかり見ている。この人も花が好きなんだろうなと見ていると、その横にいたイエローカルサイト色の髪の司教様もそれが気になるのか声をかけて色々聞いているようだ。

 何故かイエローカルサイト色の司教がチラリとこちらを見やる。それに首を傾げて見ていると此方へと歩み寄り声を掛けてきた。


「随分綺麗に手入れしてあるな。」

「もちろんです。」


 花は私の宝物ですからと言えば、少し驚いてからくしゃりと頭を撫でられて、レトがとても喜んでいると言われて改めて司教様を見上げて私は思い出したかのようにあっと声を上げる。


「お二方様、よろしければ店内に入って雨宿りでもしてください。風邪をひきます。」

「そうだね。少しだけお邪魔しようかな。」


 ね、ジークという声にイエローカルサイト色の髪の人も頷く。ラベンダーアメジスト色の人がレトと呼ばれる司教様でイエローカルサイト色の髪の人がジークと呼ばれる司教様と軽く認識していると、奥のほうで店長から声をかけられ、これから配達に出かけるので店番を頼みたいとの事に二つ返事で了承すると、綺麗に飾り付けられた花が沢山トラックに乗せられ、店長がそれに乗り込み、配達に出掛けて行ってしまう。

私にはまだ配達は出来無い、配達になる花達は基本的に加工を加えられたもので、これにはセンスや技術もいるので私にはまだ無理なのだ。

 店長が居なくなった店の奥に行き、ダージリンと林檎で作った紅茶をカップに注ぎ、砂糖とミルクを添えて持っていくと、其処にレトと呼ばれる人の姿がなくなっていた。


「あれ?えっと。」

「レトなら外に行ったぞ。」

「あら、そうですか。では紅茶が冷めてしまうかも知れませんね。」

「お、これはダージリンの匂いだ。」


 お手製かと聞かれたので、そうですよと返すと、飲んでみたいのか貰ってもいいかと言われカップと一緒にミルクと砂糖も添えて前に置くとカップに手を添え始める。砂糖もミルクも入れずに中に漂う紅茶の香りを少し嗅いで、ゆるりとした動作でカップに口を付ける。


「お、これうめぇ。」

「本当ですか?」

「おう。これはレトが知ったら喜ぶぜ。」


 戻ってきたら作り方を教えてやってくれないかと言われ、分かりましたと返答し、ちょっとしたお茶請けのお菓子をテーブルに追加で置いた。

その後、私はお客様が入店してくる度に対応しながら時折レト司教様から花の管理について問い合わせに受け答えをする。そんな私達をジーク司教様が紅茶を飲みながら眺めているうちに降りしきる雨は徐々にその勢いを緩め、最後には青空へと変わっていった。

 通りでは雨が止んだことを喜んで水たまりで遊ぶ子供達の中にジーク司教様が混ざっていき、肩車をしたりして遊んであげているのを見ながら花を求めに来るお客様にラッピングをした花束を渡した。

皆、花を購入して幸せそうに微笑みながら店を後にする。もう少ししたら店頭に出している花たちをしまう作業をしようかなと考えていると二人の司教様が私の方へ歩み寄ってきて何個か購入したい花があるとおっしゃったので、値段を伝えてクリスタルを受け取ると、それらをお渡しできるように鉢植えごと固定台に入れて倒れないことを確認して袋に入れてレト司教様にその袋をお渡しする。


「ありがとう。お仕事中に邪魔しちゃってごめんね。」

「いえ、司教様に来ていただけるなんて光栄です。」


 じゃあねと手を振るレト司教様とジーク司教様に手を振り返してから歩き去ってゆく二人を暫く見つめてから、花達を店内に仕舞う作業を進めていく。花には温度環境も大切で、常にベストな温度にしておかないと花によっては枯れてしまう。急ぎ足で花をしまっていると、さっき歩いて行ったはずのジーク司教様が足早に戻って来て、そこにあった鈴蘭を指差した。


「すまないが、この花を貰ってもいいか?」

「あ、はい。」


 急いで包み、持って行けばクリスタルを渡されるのでそれを受け取り、花を手渡そうとすると、イエローカルサイト色の髪の人は首を横に振ってこう言った。


「その花と花言葉をお前に。」

「え?」

「あと、オレの名前はジークだ。」


 それだけ言ってジーク司教様は真っ白な司教服をひらめかせながら去っていってしまった。私は腕の中にある鈴蘭を見つめ、店長に顔が赤いよと言われるまで呆然と立ち尽くしていた。



鈴蘭の花言葉は【幸福が訪れる】

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