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プロローグ

「おぎゃー、おぎゃー」


 西暦2085年。某月某日のある夜。東京都某区の住宅地に建っている二階建てのやや古い木造建築の一軒家の1階の照明が1つも付いていない真っ暗なリビングに1人の赤ちゃんがベビーベッドで寝ている状態で大きな泣き声をあげていた。


 見た感じ、誕生して間がない女の子の赤ちゃんで、生後2~3ヵ月といったところだろう。


 何故疑問形なのかと言うと、この子は約1ヶ月前に仕事が終わって帰路に立ったばかりの所の道端で、ダンボールの中に親に捨てられたであろう女の子の赤ちゃんを発見し、何故か放って置けず、女の子の赤ちゃんを抱えて家へ連れて保護をし続けたのだが、その赤ちゃんの事は何も知らないからだ。 


 ちなみにこの女の子の赤ちゃんには名前をつけていない。名無しのごんべでちょっと可哀想だなと思っているけど、仕事の都合でこの子に名前をつけてはいけない事になっているからだ。


「よしよし、もう大丈夫だからな」


 その赤ちゃんを泣き止まそうとある1人の男性が赤ちゃんを抱えてベビーベッドから出して、揺りかごを連想させる様にゆっくり揺らしたのだった。


 その男性の名前は、野上のがみ 幸太郎こうたろうという22歳の医者兼科学者の青年だ。

 医者兼科学者ってなんだか異色な職業を掛け持っているのだが、これはある事情があってこの2つの職業に属している。


 という訳で俺は今赤ちゃんにある事をするために一生懸命あやして赤ちゃんの機嫌を取ろうとする。


「すぅすぅ」   

 赤ちゃんはすぐに泣き止んだ。

 すると俺は暗いリビングの中でファスナーが開いていた黒いバックの中を手探りで何かを探し出す。


「あったあった」


 探し物がすぐに見つかって安堵の表情を浮かべた俺は、その黒いバックから取り出した物を眺めながら、不気味な笑みを浮かばした。

 その黒いバックから取り出した物の正体はなんと注射器だった。

 

 俺が注射器を持って何をしようとしているのだって?


 まさか何か依存性があって1度射ったらまともな精神状態を保っていられなくなる薬が投与されている注射器で、それを自身の身体に射つつもりだと思うか?


 いや、違う。

 なんせ彼は赤ちゃんに注射器の針を向けているから、自身の身体に射つ気はない。


 では、赤ちゃんに注射を射つつもりなのだろうか?


 今の赤ちゃんはなんらかの病気にかかっている様子はなく、寧ろ健康状態を保っている様にしか見えない。


 じゃあ、一体何のために注射を射つのか?

 と、その時だった。


「さぁこれで君も生涯病気にかかる事なく、豊かな人生を過ごせるよ」


 って、赤ちゃんに向かってそう呟くと、痛み止めの薬が付いてあるウェットティッシュを赤ちゃんの右腕に塗ると、彼は何の躊躇いもなしに、痛み止めの薬を塗ったところと同じところに注射器を射った。


「ばっぶー」


 注射を射たれたのにも関わらず、赤ちゃんは痛がる素振りを見せず、平然とした様子だった。


 だが、何故か赤ちゃんの様子がおかしい。

 どこがおかしいのかと言うと、赤ちゃんの身長がどんどん大きくなっているというところだ。


 外見は赤ちゃんのままなのだか、目を疑いたくなるほど、赤ちゃんは大きくなっていっている。


 大きくなっていると言ってもバレー選手やバスケット選手並みの大きさじゃない。それ以上に高く、SF映画に出てくる怪獣並みに大きくなっていたのだ。


「うわああああああああああああああああああああああ」


 赤ちゃんが大きくなりすぎたがあまり、家を突き破り家が崩れ出し、危機感を覚えたが、俺は逃げ切れずに家の下敷きになってしまう。


「誰か助けてくれ」


 俺は助けを求めようとしているが、周囲には助けてくれそうな人はいない。


 住宅地だから周囲に住んでいる全員が大きくなった赤ちゃんの存在に気づいて家に出て避難場所へ逃げまとっても不思議じゃないが、残念ながらその光景は西暦2085年の現在では赤ちゃんが大きくなるのは、なんら不思議でもなく、ごくありふれた光景だからここの住民達は避難場所へ逃げる事なく、いつも通りの生活を送っているだけだからだ。


 例えるなら、赤の他人の家が火事になっても消防署へ通報しないのという感覚に近い。


 家も2085年の現在では、大きな赤ちゃんに家を壊される心配がないくらい丈夫な構造なので、誰も赤ちゃんに対して恐怖心を抱いたりはしない。


 中には家の窓から大きな赤ちゃんを見たりする人もいるのだが、大抵は大きな赤ちゃんを見てもなんとも思っていないのが現状である。


 だけども、俺が住んでいた家は古い木造建築だったのと、内部から大きくなって家を突き破ったため、家が崩壊しまったという訳だ。


 実は俺が赤ちゃんに注射を射った理由は生涯風邪や熱などの病気や切り傷やかすり傷などの外傷を負うことがない万能薬で、健康体を維持させたかったのだか、失敗してしまい、突然変異で赤ちゃんが急激に異常に大きくなってしまったという訳だ。


 これは今起こってしまったあの女の子の赤ちゃんだけの件ではなく、世界中で同じ様な事態が毎年約100万件にも登っている。世界中で約100万件なのだから、当たり前の様大きな赤ちゃんがいるっていう事がわかる。


 赤ちゃんが大きくなる突然変異の名称はトールヒューマンズと呼ばれ、意味は英語で高い人間と意味だ。


 何故、突然変異で赤ちゃんが大きくなったり、いつどこで誰がなんのために健康体を維持出来る薬を作ったのかは、未だに分からない。


 俺があの赤ちゃんに注射を射った理由は、ただあの赤ちゃんに大きな病気にかかる事なく、健康に生きて欲しかった。


 ただそれだけなのに、こんな目に逢うとは。


 と、思っていたら、

 

「ばっぶー」

「ああああああああああああああああああああああああ」

 

 赤ちゃんが這い出した事によって、建物の下敷きになっていた俺は逃れる事が出来ずに、赤ちゃんの手でトマトの様に潰されて死亡した。



 

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