四話 気持ち
貴方は英雄を知っていますか?
英雄とはいかなる時も強く勇ましく
そして何者にも恐れず立ち向かう
それこそ英雄…
おばあちゃんは言ってた。
おじいちゃんは優しい人だって…
でもおじいちゃんは私が産まれる前に亡くなった。
「葵も好きな人を見つけたら幸せになれるか、よく考えるんだよ」
「しあわせ?」
「そう、幸せ」
「おばあちゃんは好きな人ができた時
どんなきもちだった?」
「そうね、私はおじいちゃんと出会った時…胸を抑える程心臓がバクバクしてね?ずっと側にいるだけで自然と笑顔になってたの」
あぁ、おばあちゃん….
今、おじいちゃんと一緒かな?
翌日
あれから若菜には「勘違いだろ」と言い
家に帰した。
結構大変だった…
'赤月の夜'か…
「さ〜くやくんっ!」
「!」
葵に裏から急に肩を強く叩かられた。
考えごとをして周りに気づいていなかったためか、ビックリしてしまった。
「な、なんだ?」
「あ、ごめんね」
手を合わせお辞儀してくる。
まぁ、別に良いんだけどな。
「もうすぐ始まる。組み分けって知ってる?」
「組み分け?」
「うん」
組み分け?なんだそれは?
クラスを分けるわけでもないし、
一体何を分けるんだ?
「組み分けっていうのはね?
生徒1人1人の能力の強さを測って、
'喜'怒'哀'楽'の4つの組みに分けられるの」
「順位とかあるのか?」
「順位とかは特にないよ。
生徒全員の平均を測ってそれぞれ強弱が無いように分けられるの」
喜怒哀楽は四字熟語の一つ。
人の感情を表す言葉。
恐らく配属される場所によって人の特徴があるのだろう。
例えば「喜」これは喜びを表すが、礼儀正しい人や感謝をよくしてくる人だろう。
「葵は喜か?」
「えっ?いや、まだ決まってないよ」
「そうなのか?」
「あのね?この制度は今年から導入されたの」
今年から?じゃあ俺達が一期生か。
誰もどこにも所属してない…となると
参考がないか…
「じゃあ誰も分からないことばかりなのか」
「そうだね、私も詳しくは知らないし」
数日後…
今日は組み分けの当日だ。
俺達は特に何も詳しい説明はされていない。
聞いたのは集合場所のみ。
「そろそろ時間か」
俺は席を立ち、集合場所である
'訓練場'へと向かう。
そういえば葵はなぜあんなに詳しく知っていたのだろうか?
「ったく、ずるいよなぁ」
「どうした?」
雅樹は不機嫌そんな顔をしながらため息を吐く。
「俺達2年生と1年生は集合場所しか聞いてないだろ?」
「あぁ、そうだな」
「でも3年生は詳しいことまで説明されたらしい」
3年生だけが?何の為に?
それなら俺達にも言っていいはずだが?
それに3年生しか知らないことをなぜ葵が知っている?
訓練場に入る扉の近くに来た時…
「止まれっ」
「え?何だ?」
雅樹は驚きの表情だ。
いきなり止まれと言われたのだから。
俺は壁に背中を当て、扉の近くを見る。
「ところでよぉ〜葵ちゃ〜ん。例の件は考えてくれたのぉ〜?」
「あ、あの、その、もう少し待ってもらえませんか?」
何だ?男2人組みと…葵?
何してるんだ?
葵は2人の男に攻め寄られている。
ってか、顔近いな。
「どうした?朔夜?」
「扉の近くに男2人と葵がいる」
「え?葵が?」
「何か困っている様子だが…」
少し聞こえづらいな。
俺はもう少し顔を出し声をよく聞いてみる。
「こ、婚約の件は、また今度で…」
「早くしてよぉ〜?こっちも時間ないんだから」
婚約?どういうことだ?
葵が?あのブサイクと?
葵は困っている、あのブサイクは喜んでいる…
あぁ、強制か?
「雅樹、ここは通れそうにない、先に裏扉から入ってくれ、俺は少しトイレに行く」
「そうか、わかった」
どうやら雅樹には今の会話は聴こえていなかったようだ。
さて、どうなってるのか…
「ねぇ?いいよねぇ?」
「いや、やめ、やめて」
何だあれは?ブサイクが葵の顔に近づいて行く。
地獄絵図とはこのことか。
一体何が…?
「葵ちゃんはさぁ?いつも断るよね?
どうして?そんなに僕とのキスはいや?」
「ま、まだ早いっていうか、その…」
なるほど変態のようだ。
まさか葵がこんなことをされていようとはな、助けるか?今は無理だ。
あいつらは扉の近くだ。
騒げば気づかれる。
今の俺の位置は…恐らく気づかれない。
俺は手に石を持ち投げて音を鳴らした。
「ん?何だ?」
「ちっ、行ってこい」
「はい」
もう1人の男がこちらに近づく。
10m…7m…5m…
もうすぐだ。俺は男の顔が見えた瞬間
男の顔を掴み、地面に叩きつけた。
「ぐはぁ…!」
「な、なんだぁ…??」
「な、何?」
地面に少しヒビが入ってしまった。
大丈夫だ恐らく死んではいない。
加減はちゃんとした。
「だ、誰だお前!?」
「うるせぇよ、静かにしろ。な?」
俺は一瞬の間に男の前に立ち。
人差し指を口に当て小声でそう言う。
あぁ、怖がるなよ。
別に殺すわけでもないのに、
男はただガタガタと震えている。
「さ、朔夜く、ん?」
葵は驚いている。
無理もないだろういきなり同級生が来たのだから。
「質問1、てめぇは葵に何を強要してる?」
「こ、こ、こ、婚約…」
「質問2、なんでだ?」
「あ、葵ちゃんが可愛いから…」
「質問3、どうしてキスを迫った?」
「そ、それは恋人としてキスは当たり前だし、それに!葵ちゃんはいつも断るから…」
恋人?葵がこいつと?
マジかよ…人は見かけによらねぇな。
葵の見た目は表すなら女神だろう。
クラスの葵を見る目を見たらわかる。
それに性格も良い。
もっとカッコいい奴といるかと思ったが
「恋人じゃないよ!」
「あ、葵ちゃ…ん?」
「私!この人と付き合ってなんてない。いきなり婚約しようとか言われて付きまとわれてて、それで…」
恋仲ではないのか。
まぁ、そうだろうとは思ってたが。
思い込みか…?
「な、なんでそんなこと言うだよ!葵ちゃん!」
「うるせぇって言っただろうが…」
俺は男を睨みつける。
怯ませるための単純な手。
思い通りに震えてくれた。
「そ、そうか…」
「あ?」
「お前は葵ちゃんのファンか?そうだな?だったら俺と手を組もう!それがいい!」
何を言ってるだ?こいつは。
ファン?手を組む?
俺はこいつの….
「おい…」
「な、なんだ?」
「なめてんのかてめぇ?今の立場分かって言ってんのか?」
「あ、葵ちゃん!助けて!」
男は葵に助けを乞う。
葵はただただ驚いている。
言葉も出せそうにない。
「ぁ、ぁ、いや、無理…です」
「え…?…ふ、ふざけんなよぉ!お前!
可愛いからって調子に乗りやがって!
お前なんか、可愛くねぇから!」
「おい」
「別に?俺は誰だって良いんだよ!」
「おい」
「お前を捨てることもできるんだよ!」
「おい」
「なんだよ…ぐはぁ!」
俺は男の頭を蹴った。
何故蹴ったかはわからない。
ただ怒りの気持ちがこみ上げた。
あぁ、リンクしたのか?
葵とあいつが?
場は静まり返る。
俺は葵に近づく。
「悪いな葵、なんか」
「ううん、ありがとう。助けてくれて」
「怖くなかったのか?」
「ちょっと怖かったけど、でも、朔夜君は優しい人だって私は分かってるから。
だから大丈夫だよ?」
「そうか」
怖くなかったのか、そうか
見せちまったなぁ…
口止めは…必要ないだろう。
「こいつは…」
「豚岡くん、ずっと追いかけられてて」
「放っておこう、時間がない」
「え?あ、うん。わかった」
扉に近づく時葵は…
胸を手で抑え、笑顔だった…
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