三話 不穏な動き
翌日、あれから俺は家に帰りそのまま眠りについた。
彼らがどうなったかは知らない。
だが、死んではいないだろう。
死んでしまったら大問題だ。
「どうした?朔夜。そんな思い詰めた顔して」
「いや、なんでもない」
昨日の奴ら、恐らくいじめグループのメンバーだろう。
あいつらを統括している奴がいる筈だ。
それは……
「そういえばこのクラスにS級が1人いるって知ってた?」
そう聞くのは葵。
転入初日に聞かされたことだ。
もちろん知っている。
だがそれがどんな人物なのかは知らない。
「知ってるけどそれが誰かは知らない」
「ん?知らないのか?」
「あぁ、章輝は知ってるのか?」
クラス全員知っているのだろうが一応聞いてみる。
聞かなくても大体検討がつく。
教室の隅の席。そこで一際気迫のある人物。あいつだろう。
「俺だけじゃなく、クラス全員知ってるぞ。」
「そうなのか、どいつなんだ?」
「教室の隅の席に余裕の態度をとってる奴がいるだろ?あいつだ」
あいつがS級。異常な程の強さを持つ能力者。兵器として使われることもある。
世界の人口は80億人。
その中に存在するS級およそ8人。
それ程S級とは高い存在。
数日後ー
「桐原さん!」
人気のない建物。もう使われていない工場だ。いじめグループの溜まり場。
「なんだ。俺は忙しい」
大柄の男。暗闇で顔は見えない。
いじめグループの一員であることは間違いない。
「あの転入生に仕向け出した4人がやられました」
「なに?あいつらが?」
「あの中にいた1人はA級、一体誰に…」
A級の1人を倒す程の能力者。
確実に実力を持っている。
でも一体どんな…
「決まってるだろ?」
「え?」
「あの転入生だ」
「あの転入生が!?」
2学期から入った転入生。あいつは別に強そうな雰囲気ではなかった。
なんの能力者だ…?
「どうしますか?やりますか?」
「いや、様子見だ。あいつの動作、癖、
あらゆる部位を見極める。
そのあとでぶち殺す。なんせあいつはS級の俺に歯向かったんだからな」
そこで桐原は笑う。頭の中で朔夜の対処方法をシュミレーションしているのだろう。
恐ろしい人だ。S級の桐原。
その力は本物だ。第一高等学校No.3。
こんな人でもNo.3かよ、S級ていうのはどれほどの高みなのだろうか。
計り知れない。
今日は学校が休みだ。他の奴らは遊びに出かけている。
今日一日寝ていよう…そう思ったのに
「なんだ?若菜」
「いえ、ちょっと顔がみたいなって…
ご迷惑でしたか?」
上目遣い、そんなの俺には効果がない。
休日は休む為にあるだろ、こんな日に
顔がみたいという理由で来るのか。
よくわからないな。
「まぁ、はいれよ」
「あ、はい」
そう言い部屋の中に案内する。
部屋の中は片付いている。
日用品ばかり不要な物は置いていない。
「適当に座ってくれ、茶を出す」
「すいません」
そわそわした様子だ。
てっきり雅樹達と出かけているのだと思っていたが違ったか。
「で、顔を見に来ただけなのか?」
「え?ま、まぁ…そうですね」
「それなら…」
「あ、あの!」
言おうとしたことを遮られた。
それにしても何を緊張しているのだろうか。会った時から変だった。
俺にだけ言葉が詰まったり、急に連絡先を聞いてきたり何がしたい?
「なんだ?」
「その、朔夜さんは昔私と会ったことがありませんか?」
昔?いつだ?誰と会ったかなんて重要ではない限り覚えていない。
「会ったことはないと思うけど…
人違いじゃないか?」
「朔夜さんは覚えていないかも知れませんが私は覚えています」
「?、いつだ?」
「'赤月の夜'せきげつよ」
「…!」
「といえばわかりますか?」
何…、赤月の夜だと?
なんで若菜がそれを知っている?
脳裏であの悪夢が蘇る。
3月4日、空に赤い月が現れた日。
あの娘を奪ったクソ野郎が生まれた日…
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