二話 いじめ
美里先生が教室に入る。こちらに掌を向ける。「待て」ということだろう。
「クラス長号令」
「起立。気をつけ、礼」
『お願いします』
クラス長の号令から朝の挨拶が始まる。
朝の挨拶は自身の状態を知らす一環でもある。かと言い特別な意味はないと思うが、どう思うかは人それぞれだろう。
「まずはまぁ、入れ」
そう言われて教室に入る。
見た目は普通といったところか、別に悪い印象があるわけでもない。
気になることがあるとするなら席がそれぞれ固まって配置されていることくらいだ。
グループに分かれている証拠だ。
「2学期からこのクラスに転入した朔夜だ」
自己紹介しろとばかりに視線を向けてくる。
自己紹介か、何を言えば良いだろうか。
「えー、2学期から転入しました。朔夜です。えー、よろしくお願いします」
パチパチ
渋々だが拍手が送られる。
歓迎されているとでも思っておこう。
「そうだな、まぁ適当に座ってくれ」
「はぁ…」
適当に座れとは、教師なのか?
空いている席を探す…が、席がバラバラだからどこに座れば良いのか分からない。
「ここ座れよ」
声をかけたのは1人の男子生徒、その周りは数人が固まっている。
俺はその席に近づき座る。
「悪いな」
そう言うと周りの生徒は笑顔になり。
「全然!気にすんなよ!」
「そうだよ、知らない人だらけでしょう?迷うのも仕方ないよ」
優しい人ばかりだ。初めての知人?といったところか。
「見て貰えば分かると思うけどこのクラスはいくつかのグループに分かれてる。
ここもグループの一つだ。グループに入るかはその人次第だ」
「じゃあ、別に入らなくても良いのか?」
「まぁ、そうだな。でも入ることを勧める。いじめの標的にされかねない」
グループに入らなければ1人になる。
つまりいじめやすい奴になるってことだ。
入った方が良いのだろうが今はフリーでいよう。
「考えておく」
「そうか?」
ーキーンコーンカーンコーンー
そう言うとチャイムが鳴った。
通常であればもうすぐ授業が始まるのだろうが、今日は2学期始めということもありすぐに帰宅できる。
「おっと、もう終わりか。俺らはこれから遊びに行くけどお前も来るか?」
「いや、別に良い。ちょっと用事があるしな」
もちろん嘘だ。単に面倒なだけ。
遊んでいても仕方ない。
「朔夜君来ないの?そっかぁ、じゃあまた今度遊びましょう?」
青い長髪を払い彼女は言う。
またはないと思うけどな。
「わかった。えーと…」
「あ、ごめんなさい。自己紹介してなかったよね?私の名前は葵。」
「俺は雅樹だ。そんで、こっちが章輝で、こいつが若葉」
「よろしく」
「よろしくお願いします…」
そうして俺たちは別れた。教室を出ようとした時妙に視線を感じた。振り返ると教室の隅の席に固まっている一つのグループがこちらを睨んでいる。
「なんだ…?」
そう呟き俺は教室をでた。
翌日席に座ると昨日の奴らが集まってきた。
「おはよう!朔夜!」
「あぁ、おはよう」
そう言ってきたのは雅樹だ。他の3人も後ろにいる。
「おはよう朔夜君…」
葵は手を口に当て、欠伸しながら挨拶をする。
「眠そうだな」
「うん、昨日ちょっとね?」
そう言い窓の方に目をやる。
恐らく昨日夜遅くにまで遊んだのだろう。その証拠に皆の目の下に隈が出来ている。
「夜更かしはほどほどにな」
「うん」
それから授業を受けた。
始めに能力の構成や種類だ。
一日ずつに違う能力について教えられる。今日教えられたのは転送【テレポート】
物体を違う場所に送ったり出来る有能な能力だ。
そして転送の上、超転送【テレポーテーション】
転送とは比べものにならないほどの質量を持つことが出来る。他にも転送距離、数などの性能が上がる。
復習しているうちに放課後になってしまった。まぁ、復習する意味はないんだけどな。
「あの…」
「ん?」
「ひゃっ!」
振り返る勢いに驚いたのか声の主は驚いてこけてしまった。
「ごめん、大丈夫か?若葉」
「う、うん」
手を差し出す。
恥ずかしいのか、顔を赤らめる。
「で、どうした?」
要件を聞く。ノートを見せてくれとかか?
「その、れ、連絡先交換しませんか!?」
教室に響くほどの声で叫んだ。
幸いにも教室には誰もいない。
「それくらいなら、まぁ」
「ほ、本当ですか!?良かった…」
安堵したようにホッと一息つく、交換して貰えないと思ったのだろうか?
1人目の連絡先だ。それに対する若葉はいくつかの連絡先を持っていた。
ついでに葵と雅樹と章輝の連絡先も教えてもらった。
若葉と別れたあと、校門に向かう。
すると校門には4人程の人影がみえる。
「朔夜くん?で良いかな?」
「そうだけど?」
昨日帰る時に睨んで来ていた奴らだ。
金髪にピアスと完全に遊んでるな。
金髪の色はごちゃごちゃ、染めたもので間違いないだろう。
「それで?何の用?」
「何、すぐ終わる」
「?」
すぐ終わる用?まぁそれなら良いだろう。校舎裏に誘導され、それについて行く。
人気の無い校舎裏、人の気配が一つもない。あるのは俺と他の4人だけ。
「すぐ終わるんだろ?」
「あぁ、じゃあ始めにお前グループに入ってるか?」
「いや?別に入ってはない」
何故グループに入ってるかを聞くかは分からなかった、可能性があるとするならそれは…
「そっか、じゃあ今からお前を
'虐める'わ」
'虐める'か…まぁそうだと思ってた。
手を出して来るのが意外と早かったな。
「ん?黙ってどうした?怖いのか?」
そう言い笑う。高笑いしながら今からゴミで遊ぶかの様に、虐めることが楽しいのだろう。いいねェ…
「アハハ!助けでも呼んでみろよ!」
「ギャハハハハハハ!!」
「アハハ!……は?」
つられる様に笑う。場が一変する。
灰色の髪は染め上がる様に黒へ。
青い瞳は血液の様に赤へ。
「おいおい、テメェ誰に口きぃてんだァ?」
目の前の少年がいきなり狂気に駆られた。見た目の変化。口調の変化。
まるで別人の様に変化する。
「は?…え、お前誰だよ」
「い、良いから!早くやろうぜ!」
そう言い1人の男子生徒が手から剣を生み出す。生産能力【クリエーション】か。
剣の出来は良いとは言えない。動揺したことによる誤作動。
「うわぁぁ!」
叫びながら剣を振りかざす。
右腕が飛ぶ。血しぶきが上がり、校舎の壁は真っ赤に染まる。
「は、ハハなんだよ。反撃もしてこねぇじゃねぇかよ」
安心したのだろう、しかしよくもまぁこんなことをするものだ。治癒能力を持った者がいるのだろう。
まぁ、必要ねェけどな。
「は?」
4人全員が驚愕する。
飛び散った筈の血が巻き戻る様に右腕に戻って行く。飛んだ筈の右腕が意志でもあるかのように戻って行く。
「お、おい!和馬!治癒はまだはやいだろ!」
「やってねぇよ!こいつ…勝手に回復してるんだよ!」
治癒能力でも壁に着いた血痕まで戻ることはない。
「物質操作【メテリアル】」
「え?」
「俺の能力だ。てめぇら運がわりぃなァ」
不気味な笑顔、まるで殺人鬼の様な態度。
「俺に恐怖でも与えようとしたかァ?」
「な、何なんだよ!お前!」
「俺がお前らに恐怖を植え込んでやるよォ!ギャハハハハ!」
「う、うわぁぁ!」
背中から黒い煙が上がる。その煙は一つの化け物の様に変化して行く。そして彼らを喰らう様に牙を剥き襲いかかる。
「ギャハハハハ!絶望しろ!お前ら誰に喧嘩売ったか分かってんのかァァ!?」
人気の多い町。学校からはさほど遠くはない。
「はぁ、やりすぎたか?」
彼らは黒い煙と共に空は舞っていった。
学校の近くにでも落ちただろう。
「やっぱり普通じゃダメだァ」
恐らく俺は変わらないだろう。
もし変われるのであればそれは恐らく
人生で一番絶望する日だ。
ご覧いただきありがとうございます。
今回展開が早いのですが、お許しください!
気になるところがあれば指摘の方宜しくお願いします!