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仮題 死神は愚者が見る完全世界の夢を静かに刈り取る  作者: 浦井朝時
1章「新夢遊病患者(ドリーマー)」
7/11

1章③

年は外観から察するに十歳前後といったところで、朝刊を広げると足を残したその体のほとんどが正面から隠れてしまっている。

その顔立ちは日本人離れしており、小さく、それでいて少女らしいふっくらとした顔面には、インディゴのように蒼い大きな瞳が二つ埋め込まれ、そのあふれんばかりの美しさを優しく補完するような丸みを帯びた眉、髪は生まれつきの輝く白髪が首元までのびるボブカットで整えられている。


まさにフランス人形の体現とも思えるよう可憐さを持つ彼女だが、キャンデーの白い持ち手部分を煙草のように口からはみ出してくわえ、目を細めて新聞を眺めるその表情は少女のものとは思われず、さながら朝食時のサラリーマンのようであり、また厳しい労働社会をまだ知らぬはずの少女には縁のない黒いスーツに身を包むその姿は、病院内を歩く人々の視線を一手に引き受けていた。


少女が洋風な顔に似合わない一言をつぶやき、ちょうど次の紙面に目を移そうと思っていた時、病室内が騒がしくなったのを感じる。

「ん、もう終わったんですか。」

ともう一度つぶやき、病室のドアを一瞥、新聞紙をぐちゃぐちゃにたたんで隣に投げ捨てると、

ほっ、とベンチから飛び降り、中で仕事を終えた同僚を迎えに行こうとする。

と、彼女が部屋に入るより先に自動ドアが開く。


 「あれーなんともお早いご帰還でございますねぇー。ゲーンくん。」

 「その呼び方は止めろ、セイーレ。」

 「なんか中もめてるみたいだけど大丈夫?」

 「問題ない。家族間同士のもめごとは、当局、引いては俺の関するところでない。」


中をのぞくと、今回の新夢遊病患者(ドリーマー)とその母親らしき人物が争っているのが見える。

といっても大声でわめき、二人の看護婦に抑えられていなければ今すぐにでも殴り掛かりそうな母親に対し、新夢遊病患者(ドリーマー)は殴られた勢いか、ベットから転げ落ち意識を失っているようだった。


 「相変わらず冷たいねぇ。」


といいつつ、自分もちらっと部屋の中をのぞくだけで興味をなくしたセイーレと呼ばれる少女は、仕事を終え職場へと戻ろうとする青年の背を追いかける。


男の名は零間(れいげん)(まこと)。やや身長は小さめだが中肉中背のどこにでもいるような体つきであり、髪も黒のショート、手入れをしていないのか少しぼさぼさしており、しかしそれがどことなく様になっているという風な容貌である。少女と同じスーツを身にまとった彼の姿は、後ろから見ればただの若めサラリーマンあるいは新成人にしか思えないだろう。


だが、彼を正面から見た者は、それとはまったく違った印象を受けることは間違いないだろう。

顔は細長く蒼白で、少し髪が眉にかかり、フレームの細い黒ぶちメガネの奥には切れ長の三白眼が鋭く光り、まるで今まで何度も修羅場をくぐりぬけてきたヤクザか、あるいは人を殺すことに躊躇をしない殺人鬼のような雰囲気を思わせる。

しかし、よくよく見るとその眼には極道者特有のぎらついた眼光や他者に向ける殺意といったものは感じ取れない。


 虚無


一度彼の瞳を見たものはそう思うに違いない。

この世全てのものに何ら関心のないかのようにものを映すことを忘れた瞳は、まるでスラム街の掃きだめで数十年と暮らしてきた物乞いの翁のようによどみきっていた。


だからこそ、彼と正面から対峙した人々の心には、その異質な鋭利さをもった外観に対する警戒の念よりも、何の感情の変化も表さない彼の昏い瞳に対する不気味さのほうが先んじて生じるのであろう。


「それにしてもさぁ、ゲンくん。」


と、そんな世間一般の評価には気にも留めないといった風に、零間の真横で共に歩を進める少女が語りかける。


「ちょっと最近仕事多すぎだと思いませんかねぇ?今週だけであたくし三件目ですよ?」

「俺は今日だけで三件目だ。」

「(死神)と一緒にしないでくださいよ。あたし達の仕事にはですね、(女教皇(プリエステス))としての繊細さや慎重さが求められるんですぅ。ゴリゴリの力押しのゲンくんとは使う神経細胞の数が違うんですぅ。」


自分の苦労に対する単純なねぎらいの言葉を望み薄ながらも求めていた少女は、いつもと変わらぬこの無神経な男の返答に諦めを感じながら、それでもたまには少しばかりの精神的成長をみせてくれてもいいんじゃないかと、頬をわざとらしく膨らませて応戦する。


「お前のやり方があまりにも非効率的なだけだ。単なる新夢遊病患者(ドリーマー)のログアウトなら話し合いは必要ない。」


まったく、この子はその無茶な強制ログアウトでAC部の職員の残業がどれだけ増えるか知らないから平気でこういうことを言えるんだよなぁ


「ぶぅー、あぁあー、いいですよねーゲンくんは。最初の原罪とかいうチート武器持ち出しぃ?君が改心させた新夢遊病患者の後処理であたしの残業スケジュールが埋められていくことなんて、君には全然関係ないですしぃ?」


因縁を吹っ掛けた自分が馬鹿だったという風に、少女の膨らんだ頬は毒気を失いみるみるしぼ

んでいく。


縦書きワードで書いてるとここに持ってきたときに改行が分からん、、、(笑)

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