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仮題 死神は愚者が見る完全世界の夢を静かに刈り取る  作者: 浦井朝時
1章「新夢遊病患者(ドリーマー)」
5/11

1章①


二〇五六年、アメリカ某大学の研究室における、人間脳内での伝達メカニズム大部分の解析、及び模倣実験の成功は、当時大きな話題と波紋を呼んだ。


これによって人類はついに仮想空間の実践的構築を成し遂げ、SF小説や映画、ライトノベル等で描かれてきた電脳世界における感覚器官の疑似的同調までに及ぶダイブインシステムを実現させる。

人間の頭に取り付けられたヘッドギア、通称案内人(translator)によって脳内における電気信号伝達に介入、そして案内人がその流れを数的アルゴリズム化し、バーチャル世界において適応可能の状態へと変化させることで、とどのつまり、人間の五感をそのまま仮想世界へと誘うことが可能にしたのだ。

この人類にとって、光明にも脅威にもなりうる技術は、国際機関によって管理、秘匿され、この技術が果たして安全かどうか、市民社会に出回ってもよい代物なのかどうかが長年にわたって議論、検証された。


最初に各国の代表たちがそろって俎上に載せようとした議題は、今までも多くの作品で題材として挙げられてきた「VR空間での身体的影響は、果たして現実の身体に影響するのか」もっと言えば、「VR空間の死は現実世界の死に直結するのか」というものである。

視覚や聴覚だけでなく、味覚、嗅覚、果ては触覚レベルまで再現を可能にしたこの仮想空間は、実際のところ現実空間と何ら変わりないものであった。

それゆえに、仮想空間内での行為や事象が現実空間における身体にも影響を及ぼすのではないかと各国の要人たちが考え出すのにはさほど時間はかからなかった。


まず、理論上ではそれはあり得ないと開発グループは断言した。

彼らの意見としては、案内人はあくまで脳内の神経伝達機能を「支配」するのではなく、「誤認」させるものであり、原理的には夢を見る状態と何ら変わりなく、現実における身体の感覚器官に影響を及ぼすことはない、とのことであった。

そして、五感を仮想空間内で共有するといっても、過度な感覚器官への刺激を感知した場合には案内人内に搭載された感覚リミッターが作動、案内人は即使用者とのリンクを解除するように設定されている。

つまり、仮にVR空間での致死相当のダメージが確認された場合、案内人が自動的にそれを感知し、仮想空間との接続が解除され、即座に対象の意識が現実世界へと帰還する、という仕組みを取っており、事実、マウスなどを用いた動物実験においても、VR空間において殺傷したマウスが現実世界でも死亡した、ということはなく、死亡することで接続を解除されたマウスが、生き返ったように動き出し、実験用ケースの中で元気に動き回ったという事例が何度も確認された。


しかし、その結果を聞いてもなお、各国の代表たちは依然として未知のテクノロジーの安全性における疑念が晴れることはなく、人体においてはどんな影響があるかわからないという名目のもと、頑としてこれを社会一般において実用化することに首を縦に振らなかった。


だが、ここで発明国であるアメリカが名乗りを上げる。死刑宣告を受けた囚人を実際に仮想空間へ送り込み、そこにおいて極刑を実行するという事実上の人体実験を行うと宣言したのだ。当然、各国からの人道的非難の声を浴びながらも、当国は実験を進めた。


結果として導かれた結論は「VR空間での身体的損傷は、生命体、含めては人体にとっても現実世界においては何ら影響がない」というものだった。

あらゆる方法による殺傷実験は、確かに被験者の精神に何らかの影響を及ぼしたものの、そのすべてにおいて科学者たちの言った通り、案内人が仮想空間内での死亡を察知した瞬間に、案内人による強制的ログアウト、仮想空間からの離脱が確認された。

そこでようやく、今まで反対し続けていた国々もようやく重い腰を上げ、案内人に身体的な刺激を測り、強制ログアウトを行う感覚リミッターだけでなく、脳波の乱れを計測し、極度の精神的ダメージに対しても強制ログアウトを実行することを可能とする心理リミッターの開発及びそれの案内人への内蔵を条件に、案内人の使用が国際会議での全会一致の可決によって実現した。


これによって、当初から危惧されていた仮想空間での「死」と現実世界での実際の死亡には関連性がないことが証明され、段階的でありながらも、全世界での公式な営利活動目的及び個人的な使用が是認され、人類は新たなもう一つの世界を手に入れたのであった。


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