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仮題 死神は愚者が見る完全世界の夢を静かに刈り取る  作者: 浦井朝時
序章「失楽園」
2/11

序章②

ああ、なるほど、そういうことか。


何を僕は悩んでいたんだ。

ふっと、あの黒い感情はどこかに消え去ってしまった。

そうか、彼女は僕のことが好きだったんだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ、なんでほかの女性は僕のことを?」

「当たり前よ、みんな君が好きなんだから。私と同じように逃げるにきまってるじゃない。」


なんだ、そんなことか。


現在、彼女の顔は真っ赤である。それは彼女が僕のことを好きだったからだ。

合点がいく。

 

彼女は僕のことが好きである。だから、その恋心が僕にばれないように意識的に避けようとしていた。

合点がいく。

 

今まで僕が会ってきた女性はいつも僕のことを避けるようにしていた。それは僕のことがみんな好きで直視することができなかったからだ。

合点がいく。すべて合点がいく。

 

十数年にわたる懲役刑が終わり、ようやく出所し久しぶりの外の空気を吸った元囚人のような気分だった。今までの暗い暗い過去が嘘のようだった。僕と彼女の世界は離れていく運命になどではなかった。むしろお互いに同じ感情をもって近づき合おうとすらしていたんだ!それがちょっとした勘違いで、ちょうど磁石の同じ極同士のように反発しあっていただけに過ぎなかった。

 全ての疑問が解消された僕は晴れ晴れとした気持ちで彼女に交際を申し込んだ。彼女の驚き様といったらなかった!涙をぼろぼろと流し、「私なんかでいいの?」と言い出す始末だ。まったく!僕がどれだけ前から彼女に恋していたかを、数学の授業のごとく論理的に、かつじっくりと何時間もかけて教えてあげたいくらいだ!。

 

その後、めでたく桐宮さんとの交際を始めた僕は確認のため、ほかの女性たちにも思い切って話しかけてみた。最初は相も変わらず同じ反応を示していた彼女たちであったが、桐宮さんにもやったように勢いで真意を聞いてみた。

 

結果は僕の結論通りだった。


彼女たちも僕にぞっこんのようだった。どうやら僕には女性たちを虜にするラノベ主人公顔負けの魅力があるようだ。女性からモテるというのはうれしい限りだが、ものには程度があるんじゃないのかと感じざるを得ない。彼女たちの惚れ具合をみると、無性にいたたまれない気持ちになる。彼女たちが愛しているのは僕だ。これからずっと僕を思い続けて一人で生きていくか、あるいは僕以外の男とくっつき、暮らしていかなくてはならないのはあまりにもかわいそうじゃないか。


 その旨を桐宮さんに伝えたところ、なんと彼女は彼女たちも一緒に愛してあげればどうかという提案をしてきた。自分の気持ちに素直になれないことのつらさは自分もよく知っている、そして、他の女性も自分と負けないくらい僕のことを想っていることも知っている、だったら、私はあなたを独占しようなんて思わない、そう言ってくれた。

 なんと慈悲深く、情のある女性なのだろうと僕がますます惚れ直してしまったことは言うまでもないだろう。やはり、外見というものは性格と密に関わり合っているのではないかと自分でひそかな仮説を持ちながら、僕はあらゆる女性の気持ちにこたえようと努力した。

 

 しばらくして僕は高校を卒業し、一年後桐宮さんと日本で結婚した。今では二人で一緒に同棲している。といっても僕ら「二人だけ」ではない。高校卒業後、僕は企業間でおこなわれる有名なパーティーに出向き、国際的に有名な貿易会社を経営している女性社長と知り合った。当然、彼女も僕にメロメロ。サウジアラビアに大きな別荘を造ってもらい、今までに知り合った多くの女性と多重婚を結び、仲睦まじく暮らしている。

 同じ人を愛するためなんだろう。今までも特にこれといった妻間でのトラブルもない。あるといったら今日はだれが僕と一緒に夜を過ごすかといったちょっとした小競り合いぐらいだろうか。

 ごめんな、みんな。

 僕も彼女たちにはまんべんなく愛を注いでいるつもりだ。だがそれは平等ではない。彼女、僕の人生の価値を一瞬にして逆転させてしまう機会をくれた彼女、僕の心臓をわしづかみにしているのに関わらず、他の女性のためにとあえてその手を放してくれた彼女、その人以上に愛することのできる女性は、おそらくこれから先も現れないだろう。


 僕は熱いシャワーを浴びながら、何度も繰り返しているこの分かり切った人生の回答を導いていた。

 白くフワフワのバスローブを身にまとい、まだしっとり濡れている髪の毛をくしゃくしゃと拭きながら、個々の別荘自慢の大浴場を出た。

 たしか、今は5階の検診室にいるんだっけか

 胎児と妊婦の健康チェックのために作らせた普通の別荘では考えられない施設だが、多くの女性と同棲するにあたって、あった方が便利だろうと思い付きでつけてみた。いまでは日々そのありがたみを痛感している。早くいかないと、、、


「あ、ダンナサマーー♡キグウだネ、こんなところで会うなんて。これもウンメイかな?///」


 腕に柔らかい感触があたる。豊満なバストと少し片言な日本語が特徴的なこのタイ人の子はシリポーンといい、みんなは猫が甘えたような声を出すことからニャオとよく呼んでいる。タイの別荘を建てる土地の下見ついでの観光最中に知り合った子だ。そんな彼女は今僕の腕にしつこく華奢な腕を絡ませ、その主張の激しい胸を知ってか知らずか押し付けながら、催促するように尻を振っている。


「ホラホラ、立ち話もナンだからーあそこのソファーに座ってイッパイおしゃべりシヨー。」


 まったく弱ったものだ。これから出産を間近に控えたうちのお姫様に会いに行かないといけなくちゃならないっていうのに。まあ濡れた髪を乾かすのにちょうどいいかと思い、いつも欠かさずに飲んでいる風呂上がりのコーヒー牛乳を片手に黒革のソファーに腰を下ろした。


「ニャオ、僕はこれから用事があるんだから早く手を放しなさい。」

「もーダメダメ。セイサイばっかにかまってたら、ソクシツたちがカワイソウダヨ。ダンナサマー次夜シてくれる日はいつカナ~?もうアタシ我慢できないよー♡」


 正妻やら側室やら、一体どこか学んだんだか。

 あ、そういえば楓のやつ最近ニャオに日本語教えてるって言ってたな。たく、何を吹き込んでんだか、、、仕方ない。ニャオが満足して自分の部屋に帰るまで、2階のプレイルームで適当に遊んでやるか、、、


「わかったよ、遊んでやるから2階行くぞ。」

「エ⁉ホント?ヤッタァーー♪」


 やれやれだ。今なら漫画やアニメの中でハーレム系主人公が味わう気持ちがわかるってものだろう。一生共感できない悩みだと思っていたが、まさかその機会がこうも早く来るとは思わなかった。

 そんなくだらないこととともに、僕はプレイルームでの行為が終わった後、彼女に一体どんな言い訳をつこうかを頭の片隅で考えながら、横でまるで明日が遠足の日の少女みたくうきうきしているシリーポンとともに、ソファーから重い腰を持ち上げ、2階へと続くシンプルながらも洗練された大理石の階段に足をか

グチュッ


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