序章①
・現実世界で冴えない男が異世界で大活躍!
・童貞の俺がある日を境に美女にもてまくるww
とかそういうのを見てて思わず書いてしまった愚書となります。
処女作なのでアドバイス等あるととても励みになるので、よろしくおねがいします。
序章 失楽園
世界は自分が思っていたほど残酷なものではなかった。
今まで母親以外の女性というものとまともに一度も話したことなんてなかった。いや、話せなかったといった方が適切だとおもう。関心はあった。しゃべりたいとも何度も思った。でも何度も拒絶された。
ある時は、学校の席替えで隣になった子に
ある時は道を聞こうとしてたまたま通りかかった女性に
ある時は親戚の集まりで来た自分のいとこだという女の子に
みんな、自分から目を背けた。まるで腫物を見るように。まるで、視界に入るだけで何かよからぬことが起こるのではないかと恐れているかのように。
幼かった僕の心はどれだけ傷ついたことだろう。世界が嫌になった。あらゆるものが嫌になった。
けど、僕はくじけなかったんだ。
あの日、忘れもしないあの日。僕は学校一の美女といわれる桐宮さんに声をかけた。
「桐宮さん、聞きたいことがあるんだ。」
心臓は早鐘を打ち、手は汗で濡れに濡れ、いまにもニチャニチャと音を出しそうだった。
僕の声に反応し、高嶺の花は一瞬こちらを振り向く。声の主が僕であると認識すると、驚いたように彼女のその大きな瞳はまた一層見開かれた。こちらに気づいてくれたと一瞬高まった僕の気持ちは、次の彼女の行動でまた鳴りを潜めてしまった。
いつも通りの反応、背き、振り向き、逃げる。まるで一瞬廊下の窓から強い風が吹いたように、彼女の白と紺の制服は激しく動き始める。離れていく彼女の背中。今までと同じ結末。変わらぬ運命。
そのとき、僕が何とかひねり出した一握りの勇気がなかったら、僕は今も孤独で寂しい運命を続けていたに違いない。その勇気は彼女が走り出すために動き始めた左手をつかむための原動力へ変わった。
一瞬世界が止まったように感じた。
周りの目なんて気にしていなかった。気にしていられなかった。僕は以前からつもらせていた彼女への淡く儚い感情と自分がなぜこうしてまで疎まれなければならないのかを彼女に聞こうという好奇心とで完全に支配されていた。そしてその二つの願望を一度に解決するために、今はまだ艶やかな黒髪に包まれた彼女の端整な顔立ちを見ようと、彼女の前に躍り出た。
正直、どんな顔をしているのか不安で不安でたまらなかった。当たり前だ。僕と会った後の女性の顔なんて、母親以外にしっかり見たことないのだから。
でも、今までこんな態度を貫いてきた結果がこれだ。自分の思いも伝えられず、ただただ眺めるだけで、同じ空間にいても別の世界で平行移動していくだけの関係。
そんな生活にもう耐えられなくなっていたんだろう。そんな絶対に交わらない運命なのであれば、それはそれで仕方ないのだろう。
だけど、なにも挑戦しないままその運命を享受するのは嫌だった。せめて、その運命を定めた神様かなにかに理由を聞きたかった。嫌いなら嫌いと言ってもらった方が、ずっといい。それがどんなめちゃくちゃな理由でも知らないよりかはずっといいと思ってしまった。
その答えが今日分かるかもしれないのだ。僕は逃げ道を遮られ戸惑う彼女の顔を覗き込んだ。
真っ赤な顔がそこにあった。
僕はこの顔を見たことがある。見たことがあるといっても当然現実ではない。
女の子と触れ合うことに憧れ、思わずインストールしてしまったかわいい女の子がたくさん登場するネットで話題になっていたアプリゲーム。内容こそ男性である主人公が、特にこれといった理由もなく、またはあり得ない出会い方で次々と恋していく少女たちとともに世界の平和を守る冒険に旅立つ、というどこにでもあるようなギャルゲーだったが、僕は主人公に自分を投影し、そこに出てくる女の子との会話に思い馳せることにかけがいのない幸福感を感じていた。
まるっきり同じだったのだ。今僕が目の前にしている彼女の表情と昔、僕が目にした主人公と話すゲームのキャラクターたちの顔が。紅潮した頬、潤んだ瞳とそれを際立だせる少し垂れた睫毛、しかしその瞳はこちらを直視せずに横へと流れている。
恍惚、それ以外の何物でもないその表情は、実際に現実では見たことのない僕でも恋する乙女のそれだと認めることにそう違和感は感じなかった。
では誰に?
先程までぐちゃぐちゃに混ざっていた僕の感情は、純粋な一つの疑問に統合された。
「ど、どうしたんだい?なにか、熱でもあるのかい?」
熱が有無についての質問は当然本心からじゃない。しかし、こうとでも言わないと次に言葉がつながらないような気がしたために、一番聞きたい内容の副文として添えただけのものであった。
「・・・・・・・・。」
相変わらず先程から沈黙を守る彼女。しかし、先程と唯一違うのは彼女には逃げる意思はもうなく、彼女の膝上のスカートはただ廊下の窓から入ってくるそよ風にふわりふわりと揺れているだけということであった。
「何か言ってくれよ。じゃないと・・・何もわからないじゃないか、なんで君がそんな顔をしているのか、なんで君が・・・いや女性が僕から逃げて行ってしまうのか。」
一方的な僕からの問いかけが続く。確かに桐宮さんと僕の世界は邂逅を果たした。だがいまだに二つの世界の時間は止まったままだ。
勇気を振り絞った結果がこれか。何も得ず、その代わりに新たな疑問が増え、その疑問にも僕はこれから悩み続けなければならないのか。
あの表情はなんだ?好きな人がもういるのか?いや、もしかすると僕の壮大な勘違いで、あの顔は恋をする乙女のものなどではなく、いきなり声をかけてきた男に対する恐怖した少女のものだったのではないか?いま、こうして逃げずに止まっているのはもう逃げられないと観念して、他の生徒や先生が通りかかるのを神に祈っているに過ぎないのではないか?
こんなことになるんだったら一握りの勇気なんて持つんじゃなかった。
「・・・・・・わからないの?」
「・・・え?」
突然動き出した彼女の唇が何を発しているのか、一瞬僕には聞き取れなかった。
「本当にわからないの?」
「・・・ああ、わからないよ。」
何を言っているんだこの女性は。それが分からないから僕はこれまでさんざん苦しい思いをしてきたんだ。何もしていないのに、仮にしていたとしてもその理由もわからないまま、僕はこの人生をずっと孤独に生きてきたんだ。それなのに、ようやく口を開いたと思ったら『わからないの?』だと?
ついさっきまで抱いていた淡い恋心は、一瞬でどす暗く、心を飛び出して目の前の彼女をも傷つけてしまうような感情にとって代わってしまった。
「わからないよ、わからないさ!君が僕を避けることも!僕が女性に避けられることも!僕が何でこんなに苦しまなくちゃいけないことも!すべてわからないよ!」
怒鳴ってしまった。仕方がないじゃないか。こんなにも苦しいのにこの子はちっともわかってくれないんだ。しょうがないじゃないか。
「・・・・・・・・・ちゃうじゃない・・・」
「・・・なんだって?」
なんなんだ全く、話すならもうちょっと大きく、、、
「私の顔が見られたらわかっちゃうじゃない。私の
・・・きみが好きって気持ちが・・・」