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秋山九十九の深夜食奇譚  作者: ざま菓子
4/5

午前二時過ぎの牛丼屋 三杯目

更新が遅れてしまい大変申し訳ありません。

正直筆者の私が少食になってしまって食事シーンが書きづらいのと、執筆速度を上げるために色々試行錯誤してますのでご容赦ください。



 深夜に感じた空腹を高カロリーな食事で埋める。甘美で背徳的な行為であり、大半の人間が寝静まっている時間帯によって生み出される非現実感によって非常識にさせられた人間の行う行為。



 午前一時頃、秋山九十九、三度見参ッ……! 最近友人に「深夜に牛丼なんて不健康だ」と言われたけど構うものか、今日という今日は仕方ないでしょう夕飯食べてないんだもん、だから夜にお腹空いちゃうんだもん!

 右手に持ったスマートフォンで予定を確認し、とにかく何も心配はいらないと改めて自分に言い聞かせながら、あの異世界じみているであろう空間へ足を踏み入れる……いや踏み入れようとした。



「あっすいません」

「おっと……いいえ、どうぞ」

 スマートフォンを見ていたせいで横から侵入してくる腕に気が付かなかった私はとっさに身を引く、すらりと伸びた腕の主は、これまたすらりとした線の細い印象を持つ女性だった。切れ長の目に艶のある長髪、猛暑の夏に適応した涼しげなノースリーブにワイドパンツという装い、ゆるい服装なのにどこか上品さを感じさせる、綺麗な女性だな……と、店内へ入っていく姿を見てそう思った。おっと、見とれている場合じゃない。私も店に入る。



 しかし、あんな上品な雰囲気を漂わせる女性でもこんな深夜に牛丼屋なんかに来るんだなぁ。と、なんとかしてあの女性を『自分側』へ引っ張ろうと頑張って思考しながら、なんとなくその女性の近くの席に座る。断じて何を食べるのか気になるわけではない。



 店内には私と上品な女性の二人きり、心なしか音量の小さいラジオだけが店内に流れている。

 そしてそろそろお馴染みになってきた日本語の流暢な外国人店員がお冷を持ってくる、昨今話題になっている外国人労働者に関する問題について彼はどう思っているのだろうか……いや、聞くだけ野暮ってもんだろうな、多分。



 お姉さんがテーブルのボタンを押してチャイムを鳴らす、それと同時に私の携帯が鳴った。こんなときに誰だ、お姉さんの注文内容を盗み聞きできないじゃないか、と思いつつスマフォを取る。

「はい、秋山です」

『秋山先輩!? 俺です! 八橋です!』

「なんだ京菓子か、どしたのこんな時間に」

 電話してきたのは八橋守やつはし まもる。一つ下後輩男子だ。やつはしという名前なので私は親しみを込めて京菓子と呼んでいるが、本人は別に京都とは何一つ関係はない。



 電話の内容はなんてことはない、明日学校にいる間工具を一部貸してくれというものだった。電話に出てしまう私も私だけど、切羽詰まってるとはいえこんな深夜に電話かけてくるなんてどうかしている。

 電話が終わるころにはお姉さんの注文は終わっていて、結局何を頼んだのかさっぱり聞こえなかった。京菓子め、今度会ったらペンチで鼻を捻じ曲げてやる。



 こうなってしまったらもう仕方がないので、私もテーブル上のチャイムを鳴らして店員に注文を言いつける。今日はとりあえずネギとたまごを乗せた牛丼「ネギたま丼」の大盛り、サイドにお味噌汁一つ。

 スマフォをいじりながら待つこと数分、驚いたことに私のネギたま丼と味噌汁の方が早く運ばれてきた。普通に考えれば先に注文したお姉さんの方が早いはずなんだけど……。まぁいいや、さっさと食べて帰るとしよう。



 軽快に箸を取り牛肉とネギをもしゃもしゃと頬張る、ネギという代物はもやしに次ぐ名脇役野菜だと心の底から思う。

「おまちド~サマ~」

 おっと、お姉さんのご飯が来たみたいだな。ちらっとお姉さんの方を見やる、するとそこには上品な印象には程遠い生姜焼き豚丼がどんと置かれていた。それも特盛、サイドにはキャベツの千切りとほうれん草のおひたしまでつけてある。



 上品なお姉さんという雰囲気を完全に覆しかねない豪勢なメニューに驚きを隠せない。人は見た目に寄らずというけどこれはギャップがあり過ぎる。とはいえ、私も似たようなものだしそういう人もいるだろう、私は特に深く気にせずネギたま丼を頂くことにした。


 十五分後


 肉の代表といわんばかりの牛肉と、野菜代表と言わんばかりのネギの二大勢力が口の中で絡み合うのを楽しんだ結果、私の目の前にはあと二口程で空っぽになるネギたま丼があり、お姉さんのテーブルでは牛丼特盛が空になろうとしていた。生姜焼き豚丼ではない、牛丼である。私が一杯食べきる内にこのお姉さんは二杯の丼を空けているのだ。そればかりか今店員が三杯目の丼を運んできている。



 この人並みならぬ食事量と速さは一体何事か!? ゆっくり自分のペースで食べていたとはいえ私はやっと一杯なのに! 食べるスピードに関しては私も決して遅い方じゃない、しかしこのお姉さん、それを超える速度と胃袋を持っているというのか。

 この女……タダ者ではない……! 私の大食い魂が負けるなと燃えている……!

 こうして不覚にも燃やさなくてもいい闘争心に駆り立てられ、数少ないネギたま丼の残りをかきこんで豚丼特盛を注文する。勝負あるのみッ!


  さらに数十分後


 おかしい、こんなことは断じてあり得ない……どうなっているんだろう?

 あれから私も3杯目の追加に突入しており、入店してから合計4杯分の牛丼ないしは豚丼を腹に入れていた。一方お姉さんはお上品な食事姿勢を維持しつつ既に合計7杯目に突入している……それも全て特盛で。

 あのお姉さん本当に人間? あのスラリとした身体のどこにその量が入っているんだ。お姉さんは涼しい顔して今も休まず箸を口へ運んでいるが、時折その切れ長の目が美味しそうに細めているところを見るとあれでも味わって食べているらしい。



 私は本能的に察する。こいつは化け物じみている……しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。私は正直言ってもう限界が近いが、いくらあのお姉さんと言えど生身の人間、もういい加減ペースが落ちるはず、ここで私がふんばって食べ続ければ速さで負けても量で逆転できるはず……!



「すみません、チーズのせ牛丼大盛り1つ、あと牛カレー大盛り、それからからあげと温玉お願いします」

 逆転できると最後のふんばりを見せようとした矢先の追加注文に私は危うく食べた物を戻しそうになってしまった。ふ、ふざけてる……この期に及んでまだ追加を頼むなんて、食道が異次元にでも繋がってるの?



 到底付き合いきれない、私は席を立ち、とても牛丼屋で一人計上するとは思えない金額を表示するレジに驚くことも忘れ、ふらふらとした足取りでダックスに跨る。

 世の中にはとんでもない胃袋を持つ人間もいるものだ。こんな敗北感を喫した食事は初めてだけど、食べた物は美味しかったので良しとすることにした。

たまーにいますよね、細身で全然そんな風に見えないのに尋常でない食事量の人。

今となっては羨ましいです。

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