これが異世界……!
母さんが俺の(?)部屋に入ってきてから少し経った頃、俺は大体の状況を理解した。
どうやら俺は母さんに異世界に連れてこられたようだ。
正直、もうそれは疑いようのない事実であることは間違いない。
「えっと……色々とツッコミたいことはあるんだけど、とりあえず母さんの横にいるのはだれ?」「まあ簡単に言えば、うちのお手伝いさんみたいなものよ」
母さんのその言葉に呼応して、お手伝いさん(仮)が恭しく頭を下げる。
おおすげぇ!ホントにお手伝いさんなんだ!
俺が感心していると、お手伝いさん(仮)が口を開いた。
「せっかく海斗様が望まれて来た異世界なのですから、とりあえず外に出てみてはいかがでしょうか?別にいきなり魔王に殺されたりはしないと思いますよ」
発言に若干のメタさを感じるけど、まあ俺だってここが本当に異世界なのか、というかとりあえず剣と魔法の世界なのかってことを見極めたいし。
もしそうなら本格的に筋トレしなきゃ。数年のニート生活で完全に筋肉持ってかれたからな……
そんなことを考えながら俺は階段を降りた先にあるドアに手をかけた。
「嘘……だろ……」
目の前に広がっていたのは、俺がまだ学校に行ってたころに描いた異世界の妄想画と瓜二つの風景だった。
今ではほとんど見ることもなくなってしまったレンガ造りの建造物。
コンクリートで舗装されていない石畳の道。
その上を歩くのはエルフ耳の少女やイケメン剣士だ。
すげー……すげーよ、ホントに異世界なんだ……
というかちょっと待て……
異世界ってことは幼女とイチャイチャできちゃうんじゃ……
その辺で迷子になってる幼女を助けて仲良くなっちゃったり、お兄ちゃんなんて呼ばれちゃってそのまま気づいたらエロい展開になったり?
……心が痛くなってきたからそろそろやめよう。
どうせコミュ障の俺じゃ幼女を見つけても話しかけられないしな……は……はははっ……
そんな風に悲しみにくれていると、異世界の住人とは思えない姿の美少女が歩いていた。
というのも彼女は制服を着ていたのだ。
というか周りをよく見てみたら制服を着た俺と同年代くらいの人がたくさんいる。
「まさかとは思うんだけど……この世界にも学校あんの?」
「そりゃあどの世界だって学校くらいあるわよ。海斗ちゃんも行く?」
いやそんな簡単に言ってくれてるけど、現役の引きこもりがいきなり学校行って会話するなんて無r……
「エルフ耳の女の子と仲良くなれちゃうかもよ」
「お母様!ぜひ、ぜひとも学校に行かせてください!」
「うふふ、じゃあ転入の手続きしとくわね」
まさか異世界の美少女と仲良くなるチャンスがこうも簡単に転がってくるなんて!
いや〜異世界最高ですわ!
いやでも会話ができないと仲良くするも何もないな……。
じゃあとりあえず街に出るか。異世界なら会話イベントが発生して当たり前だしな。
できればその相手は美少女がいいけど
「母さん、転入するって言っても今日すぐにってわけにもいかないでしょ。だからちょっと家の外回ってきてもいい?」
「別に構わないけど……そうね、万が一ってことを考えて、あなたついて行ってくれるかしら?」
母さんがお手伝いさん(仮)に目をやる。
え、あの人来るのかよ……。断然俺よりイケメンじゃねーか……。会話イベントなんて全部あいつに持ってかれねーか?
「じゃあいってらっしゃい!」
母さんに送り出されて俺たち二人は家の外に踏み出した。
ってあれ?よく考えたら俺コミュ障じゃん。それなのに二人きりで街を探索するなんて無理じゃね?
「海斗様、まずどこへ行きますか?」
いやちょっと待ていきなりそんな難易度の高い質問しちゃうの?やばいやばい。かと言ってずっと黙ってるわけにもいかないし……。
「か、海斗様、まさか顔が青ざめてしまうほど体調が悪かったなんて……そんなことにも気づけず申し訳ありません。」
え……?
「い、いいいや、ち、ち、違うんです」
「まさか呂律も回らないくらい重症だなんて……、いますぐ家に戻りましょう!」
10分後
盛大な勘違いをしていたお手伝いさん(仮)をどうにか説得した俺は、屋台が並んだ商店街を歩いていた。
「大変申し訳ありませんでした。海斗様には多大なるご迷惑をおかけしまして……」
「別にもういいですよ。ちゃんと喋れなかった俺も悪いですし。」
どうにか数年分のブランクを取り戻した俺はお手伝いさん(仮)と普通に喋れるようになっていた。
「あ、そうだ、二つ質問してもいいですか?」
「なんでしょうか」
「えっと一つ目は質問っていうよりお願いって感じなんですけど、あなたが使ってる敬語はちょっと違和感ある気がするし、あなたの方が年上なんだからタメで話してほしいと思ってるんですけど、どうですか?」
「タ、タメなんてそんな……仕える身の私が使っていいものではありませんよ。頑張って敬語は直します。だから、それはお許し願えませんか?」
まあそう言うだろうとは思ってたよ。仮にもお手伝いさんだしな。
「じゃあ俺もタメにするって言ったらどうですか?」
「そんなにこだわることですか……?でも海斗様が望むのならそうした方がいいのかもしれませんね。分かりました。これからタメ口で喋るようには努力します。」
「ありがと。じゃあこれからはお互いタメでよろしく。で、二つ目なんだけど名前、教えてくれないかな?」
いや年上にタメってこんな緊張すんのかよ……マジで手汗びっしょりなんだけど……
「ああ、そういえばまだ言ってなかったね。僕の名前はシェザルだよ。」
変にかしこまられるよりこっちの方が断然いいじゃん。言ってみるもんだな。
「シェザルか……じゃあこれからよろしく!」
こうして俺たちは遅めの自己紹介&タメ語解禁をしたのだった。
「まあ商店街に来たことだし、適当に店回って帰るか」
「そうですね……じゃなくて、そうだね」
シェザルはまだタメに慣れてないようだ。まあそれも当然っちゃ当然だけどな。
昔からお手伝いさんをやってたなら、ずっと敬語使わなきゃいけなかっただろうし。
そんなことを考えながら歩いていると、目の前に今まで見て来た屋台とは明らかに違う建造物が建っていた。
そこにあったのは、某眼鏡の少年が学校に入学するときに杖を買いに訪れた店と雰囲気のよく似た建物だった。
というか、よく見ると店の前のショーケースには杖のような形状の棒が置いてある。
「この店ってなんの店だか分かる?」
俺よりこの街について知っていそうなシェザルに尋ねる。
「多分だけど……魔法関連の店なんじゃないかな。というか、あんな短い棒を杖以外に使うっていうのはないと思う」
「ってことはさ、この世界って魔法使えるの?」
「そうですよ。魔法に興味があるのでしたら店の中を見てみましょうか」
シェザルはそう言って店の中に消えていった。
「まだタメ語慣れてないみたいだな」
独り言を呟いてから、シェザルの後を追うようにして店の中に入った。