引きこもり高校生の朝は意外と早い
「えええええええ!?」
「海斗ちゃん!そんな大声出したら近所迷惑でしょ!止めなさい。」
いやいやこの母親は何を言っているのだろうか。
「海斗ちゃんが行きたいって言ったんじゃない。何をそんなに驚くことがあるの?」
おい、異世界ってのは昨日の今日で行けるようなもんじゃなくないだろ……。
ヤバイ、頭がおかしくなりそうだ……。
しっかし、まさか冗談のつもりで言ったことがこんな結果をもたらすなんて……
人生何があるかわからないもんだなぁ。
そう、これは俺が昨日言ったくだらない冗談から始まった異世界生活なのだった。
今日もいつも通りの騒がしい1日の始まりを告げる音が響く。
「海斗ちゃーん、そろそろ学校に行ってみない?」
ドアをドンドンとノックする音とともに、最早目覚まし時計代わりの母親の声がする。
俺がこの部屋に引きこもり始めてから約3カ月も経っているのに、未だにこの言葉を聞かなかった日は無いんじゃないかと思う。
ホントごめんよ母さん……。
でも俺にだってどうしても曲げられないものっていうのがあるんだ。
あんな俺の趣味を馬鹿にするような奴らと同じ空気を吸いに行くためだけに朝早く起きて学校に行くなんて俺にはできないんだ……。
「ねぇ海斗ちゃん、もし海斗ちゃんが学校に行ってくれたらなんでもしてあげるわよ。何か欲しいものとかないの?」
おっと、俺を物で釣る作戦か?そんなアホみたいな手に乗るわけがない。
そりゃあ俺だってフィギュアとかポスターとか欲しいけど……欲しいなぁ……
いやいやそこで負けるな海斗よ。ここは絶対できないような要求をしてどうにか丸め込もう。
「じゃあ……異世界に連れて行ってくれたら考える」
「分かったわ!異世界に連れてってあげればいいのね!」
ドタドタという階段を走り降りる音がする。
あれ?俺確か学校行きたくないからって実現不可能な事として異世界への転生を条件にしなかったっけ?
なんで母さんは一切戸惑うことなく瞬時に返答してんの?しかも連れてってあげるって……
まあどうせハッタリだろうな。いくら俺だって本当に異世界に行けるなんて思ってないし、明日の朝には多分母さん覚えてすらないだろ。
またいつも通りのフレーズを目覚まし時計にして起きるんだろうなぁ。
じゃあ母さんもいなくなったことだし溜まってるアニメ今日の内に全部見ちゃおっと。
そう思って俺はパソコンの電源を入れた。
その日もいつも通りアニメを見たり、ネトゲでチャットしたりして、飯とトイレ以外で部屋から出ることなく1日が終わる。
はぁ……明日もこんなニート生活をするんだろうか。そろそろこんなだらしない自分に嫌気がさしてきた。もういっそのこと死んでしまおうか……なんてな
もちろんそんな勇気なんて持ち合わせてないヘタレの俺は今日も眠りについた。