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休日には出かけましょう!

 アラームの音が鳴る。

 目を覚まし、いつも通りに朝食の準備をする。今日は休日なので、別に朝早くから起きる必要などないのだが、なんとなくこの時間に起きるのが習慣になっている。


「ほら、起きろー」


 朝食の準備が終わったので、ベッドでまだ寝ている空を起こしに行く。


「うーん、まだ眠いです……」


 そういってなかなか起きようとしない。まあ別に休日だし寝ててもいいんだけどね。


「飯出来てんだから、起きてくれよ~」


 何度か肩を揺らしてみる。


「うーん?あ、おはようございます~……zzz」


「いや、寝るなよ!」


 起きたと思ったら、また横になってしまった。仕方がないので、一人で先に食べるとする。


 静かだ……。


 一人でこうして朝食を食べるのは、久しぶりかもしれない。空が俺の前に現れてから、ずっと誰かと一緒にいたからなぁ。


 ふと、ベッドでまだ寝ている空のほうを見た。いつもは笑顔で活発な彼女だが、寝ているときはおとなしいものだ。


 そういえば、俺って男だよな。どうやったのかわからないが、空に体を奪われてから、女としての生活にも少し慣れてきた。正直言って、女の子に興味がないわけでもない。俺もそれなりの年だし、少しは興味があったりする。ただ、やっぱりそういうのは苦手なんだよなぁ……。でもまさか、自分が女になってしまうとは、夢にも思わなかったわけだが。


 テレビをつける。今日は晴れ、お出かけ日和だそうだ。といっても外に出る気は毛頭ないんだけどね。休みの日くらいは家でごろごろしたいし。


「うーん?あれ、葵ちゃん起きるの早いですね」


 空は目をこすりながら小さくあくびをする。


「まあね。飯できてるから、早く食べてね」


 俺は空になった食器を台所に持っていく。


「そうだ。今日はお休みですし、どこかお買い物にでも出かけませんか」


「買い物?何か足りないものでもあったっけ?」


「はい。ちょっとお洋服でも見に行こうかな~と思いまして。せっかくですから、葵ちゃんの服も私が選んであげますよ♪」


 確かに。一応男物の服は何着かあるが、今のこの体系ではどれもぶかぶかで着られなかったんだよね。


「じゃ、頼む。あんまり服についての知識持ってないから助かるよ」


「はい!きっと葵ちゃんにピタリなお洋服を見つけてみせます!」


 彼女はとてもうれしそうな顔で返事をした。



「人多いな……帰ってもいいか?」


「今来たばかりですよ!?」


 俺たちは家から電車で約20分ほどの距離にあるショッピングモールに来ていた。休日だからか、かなりの人数が集まっている。家族連れや学生なども多いが、男女カップルできているやつらも結構いる。 


「確かに多いですね。前来た時にはこんなに人はいませんでしたし」


「前?空ってここに来たことがあるのか?」


 ちなみに俺は一度もここに来たことがない。というかまず、ショッピングモールなんてものに縁がなかったからな。ほしいものは通販使えば届くし。


「はい。まあ、私が幽霊になっているときのことなんですけどね」


「幽霊……。なんか、空も大変だな」


「はい、大変でした。気づいたら身体がふわふわ浮いてましたし」


 あのとき。俺がまだ男としての体を持っていた時。気づいたら空がいたりいなかったりしたあの状態って、よく考えると心霊現象だったんだな……。まあ、白い服着て長い髪を前に揺らしてる不気味な女よりははるかに平和な現象だとは思うが。


「でもまあ、それなりに楽しかったですけどね。壁をこうやってすり抜けたり、空を飛んだりできましたし」


「へえ、それは楽しそうだな」


 ちょっと幽霊に興味がわいた。空を飛んだり壁を通り抜けたり、なかなか面白そうだ。


「ただ、太陽が昇ると身体が溶け出します」


「え、まじかよ」


「はい。というかそれで一回死にかけました」


 ……人間とは違う意味で、幽霊も大変そうである。



「これとかかわいくないですか?」


 空がまた新しい服を選んで持ってくる。


「まあ、いいんじゃね?」


「むー、反応が軽いですね」


 空は不満そうな表情を浮かべる。


「そこは、かわいいですって女の子をほめてあげるのがマナーですよ?」


「かわいい」


「ありがとうございます♪ならさっそくこれを買いますね」


「いやちょっと待て。着てみないとどうなってるかわからないだろ。そこに試着室あるし、試しに着替えてみたほうがいいんじゃないか?」


「ああ、それもそうですね。じゃあちょっと待っててください」


 そう言って空は試着室に入る。

 それにしても……。


 俺はあたりを見回す。まさかこんな日が来るとはなぁ。一応俺も男だし、しゃきっとしてなきゃいけないんだよな。見た目女だけど。


 俺は店内を見渡す。やっぱり男物と違って、色々な種類の服がたくさんあるみたいだ。店の種類も豊富にあったし、正直俺にはどの服を買えばいいのかさっぱりわからない。そんなことを考えていると、試着室のカーテンが開いた。


「えへへ、着替え終わりました。どうですか?」


「……かわいいと思う」


「それならよかったです!じゃあこの服は買っていきますね」



 あれから何件か店を回って、今は休憩ということでコーヒー屋で一息ついているところ。


「結構な数買ったなぁ……」


 大きな紙袋が五つ。それなりに量買ったんじゃないかな。


「そうですね。いいものがいっぱいあったので、ついたくさん買ってしまいました」


 そういって笑顔でほほ笑む。おかげさまで、俺の財布の中は随分と寂しいことになってしまった。空は以前幽霊だったためかお金を全く持っていなかったので、結局すべて俺がお金を出した。ただでさえ食材買ったときに少なかった財布の中身が、さらに少なくなってしまった。これもう、バイトしなきゃだめだな……。


「葵ちゃんはほかに、行きたいところとかありますか?」


「いや、別に俺はいいよ」


「そんな遠慮しなくてもいいんですよ。せっかくなんですし、葵ちゃんの行きたいところにも行くべきです」


 うーん、行きたいところねぇ。


「……家?」


「いや、なんでですか。お店にしてください」


「じゃあ、しいて言えば、ゲームショップかな」


「はい!それなら早速行きましょう!」


 俺たちは席を立った。ここのコーヒー、味は悪くなかったな……。またいつか来よ。



「あ、これほしいな。あとこれも新作だし面白そうだし。でもこっちも捨てがたい……」


 俺は色々なソフトを一つずつ見ていく。


「へえ、いっぱいあるんですね」


「そうだな。いっぱいあって選べないな。あ、これもいい」


 これ高いな。中古で買ったほうがいいかな。でもこっちは安いな。どうしよ、でもこっちもいいんだよな。


「うーん……あまりよくわかりません。ゲームって、面白いんですか?」


「ん?なんだ、やったことないのか?」


「あ、いえ、やったことはあるんですけど、あんまりおもしろくなかったかな~と思って」


 そうなのか。それじゃ、パーティゲームにしよっかな。部室にテレビ置いてあったし、こっそりゲーム機本体を持ってこれれば部員みんなで遊べるだろうし。


「じゃあこれ買ってくるから、ちょっと待っててくれる?」


「わかりました。じゃあ外で待ってますね」


 そういって空は店から出て行った。


「う……金ないの忘れてた」


 残るは野口三枚のみ。だがしかし、俺は買うと決めたんだ。ここで買わないなんて選択肢はあり得ない!


「ありがとうございましたー!」


 そして店を出る。これで完全に俺の財布の中身はすっからかんになった。

 


 帰り道。電車の中にはあまり人はいない。窓から見る外の街並みが、夕日に照らされてとてもきれいだ。


「ほんと、今日はたくさん買い物しましたね~」


 彼女は席にまとめてある荷物を見て言う。


「ああ、おかげさまであり金全部なくなっちゃった」


「え、なくなっちゃったんですか!?」


「まあね。だから明日はバイト行ってくるから、留守番頼むよ」


「なんかごめんなさい……いっぱい買いすぎてしまいました」


 彼女は落ち込んだ表情をする。まあ確かに買いすぎた感は否めないが……。


「でもたまには、こういうのもいいんじゃないか?俺もショッピングモールとか行くの小学生の時以来だったし、結構楽しかったぞ」


「そ、そうですか?」


 おずおずといった感じで見つめてくる。


「もちろん。金はまた稼げばいいし、空がいてくれたから今日は楽しめたんだ。ありがとな」


「いや、そんなことないです……!」


 なぜか彼女は顔を真っ赤にして手を強く振る。


「葵ちゃんがいたからですよ。こちらこそ、今日はありがとうございました」


「うん。それなら、また今度どっか2人で出かけようか」


「そうですね。なら約束……です」


 夕日が沈む。今日もまた一日が終わった。一人暮らしをしていた時よりはずっと、毎日が楽しく感じる。こんな日が続けばいいのになと、外の景色を眺めながら思った。

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