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これからの日常の形。

 学校に着いた。

 まずはじめに目指すのはいつもの玄関。

 ……ではなく職員室へ。


 俺は転入生なので、一度それなりの手続きは踏まないといけないらしい。

 つい先ほど、


「私はこっちに少し用がありますので!」


 とかいって、空とは校門前で別れた。


 今は午前8時。

 ここ私立バルスト学園は進学校なので、他の生徒は朝早くから学校に来て補習を受けている時間帯である。


 人通りはほとんどないといって良い。

 それにしてもこの学校名、どこぞの破壊魔法っぽくておかしい。

 バ○スと唱えれば、そのまま学校が崩壊したりするのだろうか?


 職員室まで来た。ドアを2回ノックし、要件を告げる。すると、よく見知った先生がこっちに来た。まさかの、俺が男だった時の担任である宮原藤五郎先生だ。


「君が松風葵さんかな?」


「あ、はい……」


 つい低めの声で喋ってしまう。何度顔を合わせてもこの謎の威圧感には慣れない。


「なに、そんなに緊張することはないさ!もっと元気出していこうぜ!!」


 この先生は無駄に暑苦しいので苦手だった。


 担当科目は体育だし、正直かなり疲れる。たまに面白い冗談を言って周りの生徒から笑いを取っていたりもするが、そもそもそういう人種に耐性がないため、やっぱり俺は苦手だ。


 ……嫌な予感がする。


 この先生が出てきたってことはもしかしたら、俺が前居たクラスと同じなのかもしれない。もしそうなったら多分……。


 案の定、2-7と書かれた教室まで案内された。

 俺の元いたクラスである。

 中では授業が終わった後だからか、生徒同士の談笑が聞こえてくる。この時点で既に帰りたくなって来た。


 そもそも同じクラスだからといっても、全員と話せるわけではない。

 特に女子とは全く喋れていなかった。

 そんな俺が女としてこの教室に帰ってくるだと?


 ……これは死刑なのか神は俺に死ねと言っているのか……?


「今日は転入生がいる。みんな仲良くしてやってくれ!」


 そして宮原先生は教室に入るよう目で合図をしてきた。

 中に入る。


「「おぉぉ……!」」


 既に女好きのアイツが反応している。その他の男子もみんな目を輝かせてこちらを見てくる。

 対する女子も、


「なにあの娘かわいい……!」

「どこから来た子かな?もしかして彼氏持ちとか……?」


 といったような、興味津々な様子でこちらを見て女子グループ間で囁きあっている。


 ……なあ、みんな!俺、松風俊なんだよ!


 と言ったら何人が信用してくれるだろうか?

 多分、誰も信用してくれないだろうな……。


「松風葵です……よろしくお願いします……」


 緊張していたため、あまり大きな声が出せなかった。


「席は……ああ、留学に出た松風の席が空いているな。おんなじ松風なんだし、そこの空いてる席に座れ」


 まさか、元いた自分の席に座ることになるとは。


 しかも先生、今サらっと核心をついてくる発言をしましたよね?

 確かにおんなじ松風だし、問題ないですね……。


 俺の席は窓際の一番後ろ、そして端っこである。

 そしていつも俺にちょっかいを出してくる俺の友達が横に。

 とりあえずカバンを持って席に着く。


「それともう一人、転入生がいる」


 そういって先生はまた、教室の外に目を向ける。

 そして一人の少女が中に入って来た。

 

 ……はい?

 その子が自己紹介を始める。


「吉永空と言います。よろしくお願いします」


 礼儀正しく一礼をする。


「席は……松風の前だな、そこに座れ」


 彼女は俺の目の前の席に座る。


「では、次の授業も集中して受けるように!」


 そして担任の宮原先生は去っていった。


 ホームルームが終わった後、みんなからすぐに質問責めに合う。


「どこから来たの?」

「好きな食べ物はなに?」

「彼氏はいますか?」

「付き合ってください」


 俺は苦笑いを浮かべながら、答えられる質問だけ答えた。

 ってストレートに今告白された気がするんですけど!?


 空も俺と同じように質問責めに合っている。

 しかし向こうはかなり雰囲気がいい。

 楽しそうにクラスメイトと話をしている姿が見える。


「自分黒髪の娘が大好きなんです!付き合ってください!!」


 俺の席の隣のバカが真面目顔でそんなことを言って来た。

 こいつは長谷川大輝。

 俺が知っている中で一番の女好き。

 そしてその性格のせいもあって、見た目はそれなりにいいが彼女ができた試しがないらしい。


「え、えーっと……」

 

 というわけで、隣の席のバカの告白にどう対応したらいいのか困っていると、


「こら、なにバカなことやってんの、かわいそうでしょ?」


 いつも女子のリーダーである鈴木奈々さんが横から入って来てくれた。


「こんなバカのことは相手にしなくてもいいからね?」


 そう優しく微笑みかけてくれる。

 短い茶髪で、身長も今の俺より少し高めだ。

 今はなぜか彼女がとても眩しく見える。


 あれ?鈴木さんってこんなに優しかったっけ?

 いつもよくわからんファッションかなんかの話をしてたり人の悪口言ってたり、そういう記憶しか頭に残ってないんだけど……?


 そんなこんなでその後も質問責めに合い、次の授業が始まるまでは解放してもらえなかった。


 そして次の休み時間。

 さっきの時間は古典だったので、かなり眠かった。

 かなりヨボヨボしたおじいさん先生の声が、より一層眠気を煽る。


 このまま寝たい……。

 が、隣から強烈な視線を感じる。


「あの、何でしょうか……?」


 あまりにもこちらを凝視してくるので、つい反応してしまった。


「あ、いや、気にしなくていいよ!」


 そして隣の元俺の友達、長谷川は慌てて視線を逸らした。

 うわ、何だこいつわかりやすい反応するな。顔真っ赤だし。


「終わりましたねぇ」


 軽く伸びをしてこちらを振り向く空。


「というか、お前までここのクラスに転入してくるとか聞いてないぞ?」

 

「はい。びっくりさせようと思ったので」


 彼女は悪戯っぽくそう言って笑った。

 ……何故か数名、男子が鼻血を出して倒れているんだが?


「後、お前じゃないですよ。空です」


「……わかったよ、空」


 そしてまた眠い授業を受け続ける。


 そして昼休み。

 いつもなら俺はぼっちでここでメシを食うんだが……。


「松風さん!私たちと一緒にお昼行かない?」


 鈴木さんからそう誘われた。


「あ、よかったら吉永さんもくる?」

 

「あ、いえ。私は少し先生から呼び出されてしまいましたので」

 

「そうなんだ。じゃあ仕方ないね。松風さん、行こ?」

 

 そしていつもは全く話していなかった鈴木さん達のグループに加わることになった。



「へぇー!めっちゃ可愛いじゃん!」

 

「……えと、ありがとうございます」

 

「しかもめっちゃ礼儀正しいし!」

「うちらの前では、タメ口使ってくれてもいいよ?」

 

「えと……はい、頑張ります」

 

 女子五人に囲まれ、これはいったい何の拷問なのかと思いつつ苦笑いで過ごす。

 

「へぇ〜。松風さんのお弁当、可愛いね!」

「え、見して見して〜!」

「ほんとだ!すご〜い!」

 

 キャッキャウフフと話し合う女子達の雰囲気に、早くも疲れてきてしまった。

 学食に来たのはいいが、自分は弁当を持っていたのでそれを食べることにした。

 他の女子はみんなそれぞれ学食のようだ。


「もしかして、自分でお弁当作って来たりした?」


 しかし、鈴木さんは弁当だった。


「えっと……一応」


「へ〜!凄いじゃん!なら私のと少し交換こしない?」


 そしていくつかおかずを交換し合う。


「……この卵焼き、美味しい……!」


 普通に美味しかったので、思わず笑みがこぼれる。


 カシャッ。

 するとカメラのシャッター音がなる。


「ほら、やっぱり笑顔の葵ちゃんって可愛いよね!」

「わ、ホントだ凄い可愛い!私にもその写真送って〜!」

「いいよ〜!ちょっと待ってね」

「え、えーっと……」

 

 写真を撮られてしまい、つい恥ずかしくなる。


「ああごめんね?みんないつもこんな感じだから、ほら」

 

 そして鈴木さんはさっき撮られた私の写真を見せてくれる。


「ね?可愛く写ってるでしょ?」

 

 鈴木さんも満面の笑みである。

 俺は苦笑いを浮かべることしかできなかった。


 その後色々ガヤガヤと話が続いたが、そろそろ時間だということで、教室に戻ることになった。



 そして放課後。

 あー疲れた……主に精神的に。

 

「それじゃ、帰りましょうか?」

 

 空が振り返ってこちらを見る。

 

「……うん」

 

「あれ?ずいぶんしおらしくなりましたね?朝よりもずっと輝いて見えます」

 

「……いや、意味わかんないから……」

 

 本当にクタクタである。

 喋るのがちょっと辛く感じる。

 これのどこが輝いてるというんだ?むしろ一層暗くなった気がする……。

 

「あ、松風さん!今からさっきのメンツでカラオケ行くんだけど、一緒に行かない?」

 

 ………。

 

 俺はこの時、思った。

 やっぱり、以前の男としての気ままな生活の方が良かった……。

 

「よかったら吉永さんもどう?さっきは一緒に行けなかったし」

 

「はい、是非!葵ちゃん、一緒に行こ?」


「あ、葵ちゃん……?」

 

 そして結局カラオケに行くことになった。



 つ、疲れたー……。

 あの後妙にハイテンションな空気の中で約二時間くらいみんなとカラオケを楽しんだ。


 ……まあ、俺は楽しいというよりは地獄を見た気分だ。

 なんていうか、女子って怖い。みんな明るすぎて、俺にはとても、長時間みんなと一緒にいるのは無理だ。

 

「楽しかったですねー!葵ちゃん♪」

 

 そう言って満面の笑みで笑う空。

 

「っていうか、いつのまに葵ちゃんなんて名前で呼んでんだよ?」

 

「別に、女の子同士名前で呼び合うのは普通の事だと思いますよ?」

 

 そしてご機嫌な様子で鼻歌を歌いながら、彼女は歩いて行った。

 とりあえず一日何とかなったが、正直、疲れすぎて長く続けていける気がしない。


 ……しかし。

 まあ、空の元気な笑顔を見ていると、なぜだか自分も自然と笑みがこぼれた。

 

「これはこれで悪くないのかもな……」

 

 そして今日もまた、一日は過ぎていく。

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