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初めての通学路

 俺は松風俊。

 純粋な男子高校生だ。


 ……昨日までは。


 急な話でびっくりするかもしれないが、俺は今男ではなく、女として生活している。

 なに言ってんだこいつ?とか言いたくなるのもわかるが、安心してほしい。俺が一番なに言ってんのかよくわからない。


 だがしかし、俺が女になってしまった原因はすぐにわかった。

 最近俺は、ストレスか何かが原因なのか、よく美少女の幻覚を見るようになっていた。

 俺はなんとなく、空と呼んでいる。


 長い白髪に黒リボンの髪飾り。ちなみに俺の好みはロングの白髪の子だったりする。

 そんなわけで自分の好みドンピシャな少女が幻覚として見えてしまっていたわけで。

 ……俺の頭はもう、正直ダメかもしれないな……とか思っていた。


 何日かそう言う現象が続いたが、昨日の休日は少しいつもと違った。

 なんと彼女は幻覚ではなく、実在する人物だったということが判明したのだ。

 そして何を隠そう、まさにこの幻覚少女こそが、俺の身体を奪って勝手に女にしやがった犯人なのだ!


 俺の身体を返してくれと何度も泣きついて頼んでみたが、返すには一つ条件があるらしい。

 それは彼女と、一緒に暮らすことだった…。


 俺は制服姿で家を出た。

 10階建てのマンションに住んでいて、今から学校に登校するところだ。

 そしてエレベーターに乗り、高校のバッグから手鏡を取り出して自分の顔を確認してみる。


「……やっぱり、違和感しか感じんわ」


 ため息とともにそう呟く。


「よく似合ってますよ?制服姿、可愛らしいじゃないですか」


 そう言って隣でニコニコと微笑むこの事件の元凶。


「というか、ほんとに学校行かなきゃダメか?」


 知っての通り、俺はもともと男なんだ。学校でも少ないが知り合いはいる。まあ女友達なんてものはいなかったが……うん。ちょっと悲しいけどね。


「もちろん行かなきゃダメです」


 エレベーターが一階についた。そしていつもの通学路を歩いていく。

 今の俺は、自分の身体をこいつに人質にされているため、うかつに反抗することができない。


「安心してください。とりあえず松風俊さんは、しばらく海外に留学したとでも言っておきますので、ちゃんと出席点はもらえますよ?」


「お前なぁ……一体どうやって学校に手を回したんだよ」


 さっきの話もそうだが、コイツ一体何者なんだ……?

 しかも俺は新しく、この高校に転入することになったし。なんで自分が生活していた高校にまた転入するってことになってるんだよややこしいなぁ……。


「それは秘密です。それにせっかく若い身体を持っているんですから、ちゃんと青春を楽しまないと勿体無いですよ?」


「だから、俺はそんなに人と喋れないんだって!」


 仕方ないだろコミュ障なんだから。……アァ!?誰だ俺のことコミュ障って言ったやつ!!


「大丈夫ですよ。きっとその見た目なら、優しい人たちがたくさん話しかけてくれるでしょうし?」


「いや見た目で判断して近寄ってこられても……」


 多分そいつらどうせチャラ男とかしかいないだろうし……ってああ、真っ先にあいつの顔が浮かんでしまった。せめてアイツとは別のクラスになりますように……!


「結局みんな外見なんですよね……」


 すると彼女は何故かしょんぼりとした表情で俯いた。自分から言っといてなんだよ。昔何か見た目の問題で嫌なことでもあったのか?と疑問が湧いたが、特になにも聞かなかった。どうやって反応すればいいのかわからなかったし……。


 誰だ今俺のことコミュ障だって笑ったやつは!!?


「まあとりあえず頑張ってください。いつかちゃんと身体はお返ししますんで」


「ああ、それならいいんだけどよ。……よくないけど」


 できれば今すぐ返してほしい。


「あ、それと……」


 彼女は両手を後ろにして上目遣いにこちらを見てくる。


「私のこと、お前じゃなくて、空って呼んでください。……前みたいに」


 ………。


「断る」


「えぇ!?なんでですか!!?」


 名前を呼ぶのが恥ずかしい、とかそう言う理由では決してないからな!誤解しないでよね!


「以前私が身体を持っていなかった時は、あんなに優しく名前を呼んでくれたのに……」


 目に見えてがっかりとした表情をする。前って……俺が幻覚だと思って彼女をみていた時のことか?

 確かにあの時は空って、何気なく名前を呼んでいたが……。


「でもやっぱり女の子同士なんですから、名前で呼び合いましょうよ。そっちの方が自然ですから!」


 しかしすぐに元気な顔に戻ってこっちを見てくる。


 だが少し考えてみてほしい。あの時はまだ俺はそれを幻覚だと信じきっていた。

 そしてそれは実在しないものだと思い込んでいた。

 だから俺はなにも失うものはないと思って、何気なく名前を呼べたんだ。


 だがしかし、今は前と状況がかなり違う。

 彼女は正真正銘生きている人間だ。

 だから俺はそう簡単に名前は呼べない。


 ……つまりその、なんだ……恥ずかしいし?


「……ごめん、やっぱ無理」


「えぇ!名前を呼んでくれるだけでいいんですよ?ほら、空って呼んでみてください」


「………」


「照れないでください。顔が赤いですよ?」


「照れてねえし!ただちょっと暑いなぁって思ってただけだし!」


 あー最近は暑くなってきたな!それに昨日の雨は嘘のように快晴だしな!

 そしてそのまま適当な話をしながら学校に向かった。


 ……この先、これでやっていけるのか?

 俺は強い不安を抱いて、目の前に見えてきた高校に向かって歩く。

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