知らなかった
………。
そうだ。
俺は、彼女のことを知っていたんだ。
涙を浮かべたまま抱きついてくる美咲に、俺はただ呆然としていた。
「何やってんだよ、おまえ……」
彼女はただ、こう呟いた。
「うぅ……先輩は、私を、助けてくれました……!だから、今度は……わた、し、の………!」
………本当に、彼女は泣き虫なんだな。
いつかの日と、何も変わらずに泣きじゃくる。
ふと、俺の中で何かが動いた。
「なあ、美咲」
俺はそんな彼女を抱きしめ返す。
「それならさ……俺と付き合ってくれないか?」
彼女は身体をビクッと震わせたが、やがて涙も落ち着いてくる。
「………本当ですか?」
「………ああ」
俺は無言で、彼女を抱きしめた。彼女もまた、抱きしめ返してくれる。
やっぱり弱くなったな、俺。
そして俺らはしばらく一緒にいたままだった。
放課後、いつもと違って俺は家には帰らず、美咲と一緒に街を歩いていく。
でもお互い、何を話せばいいのかわからず、黙って歩いているだけだった。
「あ、えーっと、美咲は行きたいところとかある?」
「え?え、そうですねー………先輩はどうですか?」
「いや、折角だし美咲が行きたいところに行きたいなぁって」
「む、うーん……」
彼女は少し考えるそぶりをする。
「なら、ゲームセンター、とか……」
ゲーセンか……確かに、定番スポットだな。
「わかった、行こう」
俺と美咲はぎこちなく歩いていった。
「うわー、これ可愛いですー!」
ケージに飾ってあるぬいぐるみを見て、美咲は目を輝かせる。
「これ、欲しいの?」
「え?いや、別に無理に取らなくてもいいかなーって……」
どうやら落ちゲーの景品であるみたいだ。一度挑戦してみるが、うまくとれなかった。
「意外と難しいな、これ………」
「だから、別に無理しなくてもいいんだよー?」
心配そうに彼女は俺の方にくっついてくる。
ってちょっと近いって!?
彼女は気づいてないのか、何も気にせずぴったりとくっついてくる。なんか女の子独特のいい香りが漂ってくる。
俺が硬直したまま動けないでいると、美咲が不思議そうな顔をした後、一気に顔を真っ赤にして俺から距離をとった。
「わわ、わ!ご、ごめんなさいー!!」
そう言って背中を向けてうずくまってしまう。
「あ、いや、別に気にしてないから……!」
嘘だ。気になりすぎて固まってしまっていた。
ま、まあとにかく、頑張ってぬいぐるみを落とそう!
俺は再びコインを入れて、戦いに挑んだ。
5回目くらいにいい感じに引っかかって、見事に釣り上げることができた。
「ん、美咲にプレゼント」
「わ、わ、すごい!ありがとうございます!」
彼女はまた明るい笑顔で飛び跳ねるようにして喜んだ。
なんか見事にアームがラベルの方に引っかかってくれたので、たった5回目にして取ることができた。まあぶっちゃけまぐれではあるのだが。
「これ、ずーっと大切にしますね!」
ニコニコとぬいぐるみを抱きしめる彼女。
良かった、そんなに喜んでもらえるとは。
そしてその後しばらく、2人はゲーセンで色々な遊びをした。
ホッケーとかメダルゲームとかレースとか、やれることを精一杯楽しんだ。
なんだか久しぶりに俺も熱くなって、時間があっという間に過ぎていった。
「楽しかったです〜!」
ルンルン♪といったような感じでステップを踏んでいる彼女。かなり上機嫌である。
「良かった。正直何したらいいのかわからなかったし、美咲のおかげで楽しめたよ。ありがとう」
「それは私の台詞だよー!ほんと、ありがとー!」
まるで子供のようだ。ニコニコと笑う姿に俺は、やっぱり可愛いなとか思ってしまう。
そして俺らはそのまま解散することになった。
別れ際に見せてくれた彼女の笑顔を、俺はいつまでも忘れることができなかった。
読み返して見て、ひどい文を作ったなーとは思う。何回か改稿します。