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バイトライフ

 バイト訪問



 平日。俺はいつもと同じように朝食を作り、空を起こして飯を食べ、学校に登校する。

 そしていつもと同じように眠くなる授業を受け続け、放課後になる。


 今日は空が部活を休みにして、昨日話した神山さんのバイトのお手伝いに行くことになった。

 一応言っておくと、俺らが在校しているこのバルスト高校では、基本的にバイトは禁止ということになっているので、

 もしバイトをしたいのなら担当者からあらかじめ許可をもらってから、もしくは見つからないようにうまく隠れてやらなければならない。

 神山さんはあらかじめ許可をもらっているみたいなので、先生に見つかっても何の問題もない。

 ……まあ、俺たちがそのお手伝いをしているところを見られたら危ないかもしれないが。


「ここですね」


 空が前に描いてある看板を見て立ち止まる。


「ここが美咲ちゃんの仕事場なんですね。……ってわわ、車がいっぱいですよ!?」


 空が駐車場に止まっている車の数を見て驚いた反応をする。

 そりゃまあ、それなりに人気のある店だし。俺も初めて来たときは驚いたけど。

 長谷川と宮野さんはほかの人と約束があるみたいなので、今日ここに来たのは俺と空の二人だけだ。


「とりあえず、中に入ろう」

「そ、そうですね。とりあえず入りましょうか……」


 ガラス越しに店内を見てみるが、やっぱり忙しそうである。

 美咲はっと………いた。


「空、あそこに美咲いるぞ」

「え、どこですか?」

「右から三番目のテーブル。ほら、料理持ってる」

「……あ、いました!でも忙しそうですね。うーん……」


 弱ったな。このまま店の中に入ってもあまり美咲とは喋れなさそうだし、今思えば手伝いに行くと言っても死ぬほど忙しいんだよな、この店。

 空もさっきから考え事をしているみたいだし、今日はこのまま帰る感じになるのかな。


「よし、手伝いに行きましょう!葵ちゃん、行きますよ!」

「ああ、じゃあ帰るか……ってえぇ!?手伝うの!??」


 しかし空は手伝いに行く気満々だった。いやあの店の中の状況を見てよくそんなにやる気になれるよな!?

 改めて空の行動力の高さには驚きを隠せない俺であった。





「じゃあ今日だけ、よろしく頼むよ!」

「はい、がんばります!」

「あ、はい……」


 リーダー格のおっちゃんに元気な声で歓迎される。とりあえず俺の連絡先を使ってこの店の管理人とうまく話を進め、今日一日だけバイトを手伝えることになった。

 一年近くこのバイト先にお世話になっていたので、店長からあっさりと許可をもらうことができた。


「葵ちゃん、がんばりましょう!」

「はい。でも私厨房担当なので、接客よろしくお願いしますね」

「……ってえぇ!?一緒に接客するんじゃなかったんですか!??」


 なぜか驚いた顔をする空。しかし客からの注文が入ってくる。


「むむー……、とりあえず、がんばってきます」


 そして彼女はお客さんのほうへと向かっていった。





「………出来ました。次持って行ってください!」

「了解!お嬢ちゃん料理作るのうまいね。最近来なくなった松風のかわりに、頑張ってくれよ!」

「……………」


 黙々と炒めたり切ったり焼いたりその他もろもろの作業を進めていく。

 自慢ではないが、ここで働く料理人というのはそれなりに腕のある人しか採用されていない。

 なのでそれなりに料理の味もおいしくできているだろうし、実は接客業もかわいい人しか雇われていなかったりする。

 俺と空が簡単にバイトの手伝いとして認められたのも、俺のコネがあったからというだけではなく、単に条件をクリアできていたからというのもある。

 美咲も空も容姿はかなりいいと思うし、俺ももちろん料理できるし。だってここで一年働いてたし。


「いやー、今日は人が増えて助かるよ。それに松風ちゃんは接客も料理もできるし、しばらくここで働いてみない?給料弾むからさ」

「え!?いや、接客業はちょっと……」


 料理を作っている最中に、店長が作業をしながらそんなことを言ってくる。


「大丈夫だって!そんなにかわいい子が厨房でこもりっきりになって料理を作ってちゃもったいない!ほら、おっちゃんが仕事変わってあげるから、向こうで着替えてきなさい」

「え、ちょっとまって……ってなんでぇ!??」


 なぜか話の流れで厨房から追い出されてしまう。

 いやまて、これはマズイ……。

 何がまずいのかというと、俺は知らない奴とうまくしゃべることができないのである。コミュ障では断じてない。

 ただ、喋るのが苦手なので、接客業っていう仕事は、なんといいますか、俺には向いていないといいますか……。


 やっぱり無理かなーと思って厨房に戻ろうとしたが、俺がさっきまで作業をしていたところにはもうすでに他の人が入っていた。

 ………どうしよう、これ。

 もはや俺にはどうすればいいのかわからなくなった。




 店の中を空と美咲、その他スタッフが笑顔で接客をしている中、俺はただぼんやりと端のほうで立っていた。

 というか人が多すぎて思考回路がうまく回らない。

 どうしよう、いま誰かに声をかけられたらうまく返答できないかも……。


 すみませーん!注文いいですか?


 とか考えてたらまさかのフラグ回収。やばいやばいやばい………!


「…………え、えっと、なんでしょうか?」


 客から注文を一つずつ聞いていく。しかし手が震えてうまく機械を操作できない。

 くそっ……何やってんだよ俺……動けよ……!


「あ、すみません!注文は私が受けますから、もう一度メニューのほうを言ってもらってもいいですか?」


 すると美咲が横から割って入ってくる。

 彼女は俺に、向こうに行っててと目で合図をする。

 俺は急いで従業員用の部屋まで避難した。

 後ろ手にドアを閉める。

 そして俺はそのまま横長の椅子に倒れこむ。


「……あ、危なかった」


 とりあえず何とか危機を乗り越えられた、と軽く安堵する。

 もしあのまま美咲が助けてくれなかったら、いったいどうなっていたことか………。


「あれ、松風ちゃんどうしたの?もしかしてちょっと疲れちゃったとか?」


 ちょうど店長とばったり会ったので、自分はしゃべるのが苦手だと言って厨房のほうに担当を戻してもらった。





「終わりましたー……」

「うぅ……疲れたよー」


 従業員専用の休憩所で、俺らは休憩用の椅子に座った。

 学生組の仕事はこれで終了である。あとは残ったメンバーが俺たちの代わりを務める。


「まさか、こんなにバイトが忙しいものだったなんて、知りませんでした……」

「あはは……これが毎日続いてるんだよー」

「…………尊敬します、ほんとに」


 2人とももうくたくたといった感じで机に突っ伏している。


「それと葵先輩、仕事場で無茶しちゃだめですよー?無理なら無理って、ちゃんと言ってください」

「あ、はい……ごめんなさい」


 ホントにすいませんでした。今ここにいられるのも美咲様のおかげです。

 彼女はため息をついた。


「もう、おんなじ松風先輩みたいだなー、葵ちゃんは」

「………え?」


 ふと、彼女はそうつぶやく。

 同じ、松風……?


「あ、えっとね。今日は来てないんだけど、葵先輩が立っていたところを、おんなじ松風の、俊先輩って人が担当してたんだよー」

「へぇ、そうなんですか。………あれ?松風……俊先輩?」


 空がその名前を聞いて、ちらっとこちらに目をやる。さっと俺は彼女から目線を離す。


「はい、そうです」


 美咲は笑顔で、ちょっとだけ寂しそうに笑った。


「昨日は来てくれたんですけど、最近あまり顔を出してなくてですね……。なんというか、寂しいかなーって」


 美咲はテーブルに頬杖を突き、またため息を一つつく。


「もう少しくらい、一緒にお話しできる機会があるといいんだけどなーって………」


 それを見た空が、何気なくこういう質問をぶつける。


「………美咲ちゃん、その松風俊先輩って人のこと、好きなんですか?」


「え?いや、え!?わわ、そんなんじゃないよー?!」


 空がそう尋ねると、美咲はボッと顔を赤くして手をバタバタさせる。


「いや、別にそんなんじゃなくて!ただなんか、かっこいいなーとか思ったりしたりもするけど、いやそうじゃなくてですね!?」


「まあまあ、美咲ちゃん落ち着いてください」


 空は美咲の肩に手を置いて、ゆっくりとこうつぶやく。


「……もしかしたら私、その人のことを知っているかもしれません」


 空の目が一瞬きらっと輝いた気がした。その視線の先には、俺をしっかりととらえていた。





「いやー、惚れられちゃってましたねー、俊先輩?」


「頼むからやめてくれ……思い出すとマジできつくなるから……」


 俺は頭に手を当ててひたすら悶々としていた。


「これはこれで可愛いです………」


 空はなぜか目をキラキラとさせて俺のほうをじっと見つめてくる。しかし今の俺はそんなことには構っていられなかった。

 だって、さっきとんでもない事実を聞いてしまったんだから。


「あああぁ………!」


 再び頭を抱える。

 一体俺はどうしたらいいんだよ!?こんなの中学の時以来だしというかあの時よりもやばいんですけど!?

 いつもバイトで何気なく会話してて、中学の時に面識があって、それなりに相手のことを考えてて………って何だこれまじでわかんない………。

 俺の頭は処理限界を超えてバーストしてしまった。


「あれ、葵ちゃーん?大丈夫ですか?」


「……なに?」


「実は私、面白いことを思いついてしまったんですが……」


 そう言って空はにっこりと笑う。まるで何かを企んでいるかのように。


「えっと、………松風俊君!」


「……え、俊?」


 なぜか俺の本名をフルネームで呼ぶ。

 彼女は顔を赤くして俺のほうに向かって指をさし、小さな棺桶を手に持って、俺にこんな命令を下した。


「神山美咲ちゃんと、恋人になってください!」


「…………はい?」


 俺はその言葉の意味がよく分からず、そのまま立ち尽くすことしかできなかった。

思っていることを文章にするのって難しいですね……。こうしたらもっと見やすくなるんじゃないかとか、そういう意見があると非常に助かります。

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