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世界を救いに行こう!後編

 扉がゆっくりと開いていく。奥にはそれなりの広さがある空間になっていた。


「あ、なんかありますよ」


 宮野さんが部屋の奥のほうを見て言う。

 どうやら奥に、白い何かが描かれているようである。


「これは……魔法陣?」


 空が疑問顔で床に描かれた半径1メートルくらいの魔法陣を見つめる。

 描かれている魔法陣以外に、部屋に何か物が置いてあるわけでもないみたいだ。


「……!空先輩、上です!」


 え?といった表情を浮かべて、上を見上げる。


「ちょ、やばっ……!」


 俺は急いで空の手をつかみ、彼女を魔法陣から引き離した。

 彼女はまだ何が起こったのかわかっていない様子だ。


 直後、大きな音を立てて白い光線が魔法陣に落ちる。


「……空、大丈夫か?」


「……あ、はい。大丈夫です……」


 問題なさそうだ。心なしか顔が赤い気もするが、間に合ってよかった。


 魔法陣が大きな音を立てて光輝く。


(フフフ……よくここまで来れたな)


 するとその光の中から、人のようなシルエットが姿を現す。

 徐々に魔法陣の光が弱まっていき、その姿が鮮明になっていく。


(俺は、数多くのダンジョンでトラップの制作を担当している、マーズというものだ)


 そう言って彼は、魔法陣から地面に降り立った。


「ほ、ほね!?お化けなんですか!??」


 神山さんはおびえた声を出す。

 魔法陣から現れたボスは、身体にローブをまとっている骸骨の姿をしていた。


(む?はて、確か貴様は……)


 そういって骸骨は神山さんのほうに歩いていく。


「ファイア!!」


 それを空が止める。


「よくわかりませんけど、倒せば解決!ですよね!?」


 空は杖に火の玉を三つ生成して、強気に構える。


(ほう……それで俺に勝てるとでも?)


 しかし骸骨は余裕の表情を浮かべている。


「先輩、私も加勢します。危なくなったら盾もありますから」


「おう!俺が全力で空ちゃんを守るぜ!」


 宮野さんと長谷川も横に並ぶ。

 そして俺も空の横に立つ。


「とりあえず、みんなで頑張ろう」


「はい!もちろんです!」


 そして俺たちは、骸骨との戦闘を開始した。




 その1分後、見事にボスを撃沈。強そうなセリフを吐いている割には、サクッと倒せてしまった。


(ぐっ……やはり、そこの彼女、であったのか)


 骸骨は息を切らしながら、神山さんのほうを見た。


「……え、私ですか?」


 キョトンとする神山さん。


(まあ、それはいい……。今は、話すとしよう……)


 骸骨は天井を見つめて、語りだす。


(俺は300年位前、人間として暮らしていた……)




 ………骸骨は、魔物の姿になる前から罠を作ることに長けていた。

 自分で最高の罠を作ろうと、様々な研究を続けていたのだとか。


 ある日、いつもと同じように新しい罠を勘案しては作ったりを繰り返していると、骸骨兵が襲ってきて、俺は魔王の城まで運び込まれてしまった。

 そこで俺は魔王にこう言われた。


「おまえ、罠を作るのがうまいらしいな……?」


「……は、はいい……ちょっとは」


 俺はびくびくしながら黒い影を見つめる。


「………お前に二つの選択肢をやろう」


 陰から赤い目が俺を見つめる。それはほんとに怖い色をしていた。俺はおびえることしかできなかった。


「一つ、我がお前に、その研究の投資をしてやろう」


「ひぃ………え?」


 いきなりの話にぽかんとする。


「もしお前が望むのなら、罠を作るための素材と作業場を用意して使わせよう」


「え……ホントですか!?」


「ただし……!」


 その影はこう告げる。


「お前が人間をやめて、魔族となるのならば、の話だがな」


「な、なるほど……」


「もうひとつは、人間として、今この場所ではかなく散るか……」


「い、いや、魔族になります!」


 赤い瞳がこちらをじっと見つめてくる。


「……それでいいんだな?」


「も、もちろんです!自分の作りたい物を好きなだけ作れるのなら、もうそれだけで十分です!」


 若干怖かったが、罠を作り放題と聞いて、俺の本能が目覚めてそう答えてしまった。


「よかろう……。ならば、今日から貴様は、我らの一員だ」




「そのあと、俺は様々なダンジョンに派遣されて、自作の罠をいくつか仕掛けて回った。特に、管理の届きにくい場所なんかには、大量のトラップを用意した」


 そして骸骨は不気味な笑みを浮かべた。


「そこの女。あんた、いいセンスしてるよ。俺が作った罠に全部引っかかって……。罠を作るものにとって一番うれしいのは、相手が引っ掛かった瞬間を自分の目で見られることだ」


 ………そうだな。

 確かに神山さんは、ダンジョンのトラップを片っ端から発動させては大変なことになっていた。


「なんというか。おまえ………見てて楽しかったぜ、ありがとな」


 そう言った後、骸骨は空気中に吸い込まれるように消えていった。


「え、えーっと……?」


 ぽかんとした表情をする彼女。


「なんか、すごいシリアス?な感じでしたね……」


 空が何とも言えないような表情でそうつぶやく。


「そうか?俺にはただ、罠作って楽しかったー!って言ってるようにしか聞こえなかったんだが……」


「ははは………」


 簡単にまとめれば、長谷川の言っている通りである。

 俺は苦笑いを浮かべることしかできなかった。



 その後、無事に街へと帰還した。

 各々がレベルアップしていたので、それぞれステータスを上げておいて、続きはまた今度ということになった。




 その日の帰り道。


「いやー、面白かったですねぇ!」


「流石に大変でした……」


 俺と空、神山さんと、いつもと同じ帰り道を歩く。


「神山さん、ほんとにすごいですね。まさかあんなにトラップを発動させるとは思いませんでした」


 心の底からそうつぶやく。彼女以外にこんな強運を持っている人間を、俺は今まで見たことがない。


「うん、自分でもびっくりだよ……」


 対する神山さんは、もうくたくたといった感じに道を歩いていく。


「でも楽しかったです!美咲ちゃん、今日はありがと」


 でも空は、嬉しそうに神山さんに笑顔を向ける。

 つられたように神山さんも笑顔になる。


「なら、よかったよー。みんなで楽しめたのなら、それでいっか」


 空と神山さんは相性がよさそうだ。というか、考え方が似てるからなのかな?

 俺は二人の後ろを歩いていく。


「はぁ……明日からバイトです。がんばらないと……」


「バイトですか?美咲ちゃん、何のお仕事をしてるんですか?」


「えっと、飲食店で働いてます」


「おお!じゃあ私も今度、そのお店に遊びに行ってもいいですか?」


「もちろん!よかったらきてね。でも忙しい時はあんまりお話しできないかもしれないけど……」


「わかりました。ぜひ葵ちゃんと一緒に来ます」


「え、私もですか?」


 急にこっちに話が回ってきたので、つい疑問形で答えてしまった。


「うん。もしよかったら来てね」


 神山さんは笑顔でそう言った。



 ………来てね、というか。


 昨日顔出してるんだけどなぁ。


 美咲と空は仲良く会話をしながら道を歩いていく。


 もし俺が松風俊だってことを知ったら、美咲はどう思うんだろう。

 やっぱりいつものように、びっくりしたよー!とかいう反応をするのだろうか。


 …………まただ。

 たかが他人のことで、どうしてこんなに胸の奥が痛くなるんだ……。


「……?葵ちゃん、大丈夫ですか?」


「え?」


 どうやら、考え事をして足を止めてしまっていたらしい。


「ごめん、なんでもないよ」


「もしかして疲れちゃいました?ちゃんと先輩も休んでくださいね」


「うん。ありがと、神山さん」


「美咲でいいですよ」


「……じゃあ、美咲さん」


「えへへ……どういたしまして」


 なぜか美咲は嬉しそうに返事をする。



 そしてまた今日も、何気ない一日は過ぎていく。

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