世界を救いに行こう!中編
しばらく魔法を当てるための練習を続けていると、談話部の部員である宮野鈴奈と、神山美咲の二人がそろう。
ついでに長谷川も1分後くらいにきたので、これで談話部のメンバーが全員揃った。
「さて、私がパーティリーダーです!困ったことがあったら私に何でも聞いてください!」
空は元気な声でみんなに声をかける。
「……リーダー、愛と恋の違いって、何ですか……?」
「……………」
長谷川が至極真面目な顔をして空に問いかける。
当然空は固まってしまう。
「いや普通にきもいんですけど。ゲームの話なら何でも聞くってことなんじゃないの?」
宮野さんはツンとした表情で長谷川をにらみつける。
「いや冗談だって。そう怒らないでくれよ~!」
「?別に鈴ちゃんは怒ってないよ~。むしろ鈴ちゃんも知りたいんじゃない?愛と恋の違い」
神山さんは首をかしげながらそんなことを言ってくる。
「は、はぁ!?さっちゃんなんてこと言ってんの??!興味ないから男とかありえないから!」
「え、じゃあ鈴菜ちゃんは、その……女の子が好きなんですか?」
空がそう言うと、みんなが一様に赤い顔をする。長谷川はそのまま気絶。いい顔して倒れてた、うん。
「あ、まあ、人の趣味は人それぞれだし、気にしなくてもいい……と思う」
「そ、そうですよね。ほかの人が横から何か言うのも悪いですし……」
「鈴ちゃん……私、今までそのことに気づいてなかったよ。……ごめんね?」
「ああああああ!!もう!!なんでみんなそっち方向に誤解しちゃうんですかぁ!!」
若干涙交じりに宮野さんは叫ぶ。
神山さんはそんな彼女にゆっくりと近づく。
「鈴ちゃん大丈夫?ごめんね、ちょっと冗談が強すぎたかも……」
ひたすら泣いている宮野さんをなだめている神山さん。
なんだろうこれ、俺らが悪いんでしょうか……?
しばらくたってからまたゲーム再開。とりあえず宮野さんは恋愛自体に興味がないらしい。なんでかはわからないけど、男子を目の敵にしているのだとか。
長谷川だけにきつい態度をとっているわけではなく、大体みんな同じ反応で返しているらしい。
「じゃ、じゃあ気を取り直して、さっそく冒険に出かけましょう!」
設定で5人は様々な職業に分かれてステータスを振った。
一覧
名前 職業 ステ振り
松風葵 剣士 バランス
吉永空 魔法使い INT特化
宮野鈴奈 武闘家 STR強
神山美咲 僧侶 MND強+LUCK極
長谷川大輝 壁 DEF強
「壁ってなんだ……」
長谷川は自分で選んだ職業に、なぜか頭を悩ませていた。
「多分壁になって立ってれば仕事してるってことじゃない?よかったじゃん、楽な仕事で」
「え?あ、確かに!宮野ちゃん頭いい!」
「勝手にちゃん付けで呼ぶなキモイ」
「うぐっ……、でも、慣れてきた」
流石に何回も罵倒を浴びてきたからか、長谷川は宮野さんの攻撃に耐えることができた。
「これなら、使い捨てのいい壁になってくれそうだな」
「え……あの、松風さん?」
含みのある笑いを向けると、長谷川はおびえた表情をした。
まあ、半分は冗談なんだけどね。
「では早速、ダンジョンに向かいましょー!」
一人マイペースに我らのリーダーは道を歩いていく。
おいていかれても困るので、残り4人も一緒にその後ろに続く。
「あ、敵。召喚、壁!」
宮野さんは敵がいる方向に壁(長谷川)を展開した。
「いや俺そういう立ち回りなの!?」
「いいから黙って仕事しなさい!」
「おおぅぅ………」
遠くから撃ってくる弓兵の弓矢が、ぐさぐさと長谷川(壁)に刺さっていく。
一応全年齢版だからグロいことにはなっていないが、全身に矢が刺さって気持ち悪いことになっている。
「長谷川さんすごーい!あんなに矢が刺さってるのに、まだ体力が10分の1くらいしか減ってないよ」
「あ、違う違う。この赤いゲージは体力じゃなくて、この左にある緑色のゲージが長谷川の残りの体力だよ」
「え、……えぇ!?」
ステータスの見方が間違っている神山さん。彼女は僧侶(回復担当)なんだから、その間違い方は危険だ。
みんなの体力が減っているのに、まだ大丈夫だね~!とか言いそうだし。
「……ファイア!トリプルで!」
まるでアイスクリームを頼む時のような掛け声とともに、空が弓兵に向かって魔法を命中させていく。
ポイッ。………バタンッ(長谷川が捨てられて倒れる音)
「せいっ、どりゃあ!」
宮野さんは壁(長谷川)を捨てて弓兵に近接技を決める。
「よし、問題なく倒せましたね。壁も便利な使い道があるんですね」
「あわわわ、長谷川さん大丈夫ですか?今回復しますから……えっと、サンダー!」
長谷川の体に大きな雷が落ちる。
「いってぇぇ!?」
「うわあああ!ごめんなさい、間違えました!」
……なぜ、ヒールではなくサンダーを選んだんだ彼女は。電気ショックでも起こして心臓のケアでもしようとしたのだろうか?
「あー、その、長谷川さん真っ黒に焦げてますけど、大丈夫ですか?」
「まあ、ギリ生きてるからセーフ。多分次はさすがに死ぬ」
空は優しいな。こんな時にもちゃんとみんなのことを心配していて。
「じゃあ私がとどめを刺してあげます」
そして変わらず厳しすぎる宮野さん。
その後悲鳴を上げて長谷川は倒れるのであった。
なんだかんだでダンジョンに到達する。
「……遺跡、なのかな?」
先頭を空が進んでいく。
周りはレンガ模様が入った青緑色の壁で囲まれている。
「始まりの遺跡って書いてあるし、難易度はそんなに高くないと思う」
「あ、あそこにウサギがいる!」
神山さんが指をさす方向には、小さなウサギが遠くでぴょんぴょんと跳ねている。
「いや、多分敵だろ。一応ここダンジョンなんだから」
「先輩、もうさっちゃん行っちゃいましたよ?」
「え?」
気づけば神山さんはウサギのほうへ向かって走りだしていた。
「ちょ、神山さんストーーップ!!」
しかし声は届くことなく、神山さんはウサギのもとへと到着してしまう。
「あれ?神山さんはどこに行ったんですか?」
先のほうを一通り見ていた空が返ってくる。
「えっと、ウサギを見に向こうに行っちゃった」
「え、ウサギがいたんですか?!どこですか私も見たいです!」
「いやちょっと待て、ここはダンジョンだからな忘れてないか?」
「あ、あー……そうでしたね」
冷静な顔をしてうなずく空。
「確かに危険かもしれませんし、急いで追いかけましょう!」
そして残りのメンバーで神山さんの後を追いかけ……ようとしたが、なぜか向こう側から彼女が猛ダッシュで走ってきた。
「みんな逃げてーー!大変だよーー!!!」
その後ろにはたくさんの子ウサギたちが走ってくる。
「あれ?普通にかわいくないですか?」
空が不思議そうな顔をして言う。……が、それも一瞬のこと。俺たちはそれを見て、ぴたりと固まってしまった。
ニコニコと可愛い笑顔でぴょんぴょんと飛んでいるウサギの背中に、爆弾のようなものが取り付けられていたのである。
しかも、後ろから30匹くらい大量に数をそろえてこちらに向かってきているではないか。
「あ、まあ、うん。……逃げろーー!!」
「きゃあああああーーー!!」
「くっ、身代わりの術(長谷川)を使うしかない……!」
「待て早まるな宮野流石に俺でも死ぬから!!」
「みんなごめんーーー!!」
「何とか入り口まで戻ってこれた……。みんな生きてる?」
「い、生きてます」
「……問題ないです」
「死ぬかと思った(身代わりの術で)」
「大丈夫だよー、多分、生きてる……」
よかった。とりあえず死者は出てないみたいだ。
勢いよくみんなで走ったせいか、若干スタミナゲージが切れている。
「まさか、あんなかわいいうさぎさんが爆弾を持っているとは思いませんでした。さすがに怖かったですね……」
「多分あのウサギは、特攻自爆型かな。見た目が可愛くても危険な場所なんだし、油断しないようにね」
「な、なるほど。ごめんなさい、次は気を付けますね」
「さっちゃんは悪くない。そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ?」
「いやでも、みんなに迷惑をかけちゃったのは間違いないんだし……」
申し訳なさそうにする神山さん。
「いいんですよ、美咲ちゃん。これはゲームなんですから、楽しければ何でもオーケーです!」
長谷川も空の横に立つ。
「空ちゃんの言うとおりだ!こんな面白ハプニングが起こるのも、美咲ちゃんのおかげなんだぜ?謝る必要なんてないぞ!」
「み、みんな……」
神山さんは泣きそうな顔をする。
「さ、みっちゃん。一緒にがんばろ?」
「………うん!」
そして彼女は、これまで見た中で最高の笑顔を見せてくれた。
「………ごめんなさぁぁいいい!!!!」
あれから何回かダンジョン攻略に向けて俺たち5人パーティは探索を続けてきたんだが、ことあるごとに神山さんが危険なフラグを回収しまくって、
何度か街に撤退を繰り返している。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
いやまあ、流石にここまで外れくじを引いてくるとは思わなかった。確か2%にも満たない外れフラグも引いてくる限り、流石の強運だとしか言いようがない。
特に壁のスイッチで落ちる落とし穴とか、そもそも引っかかろうとしてもどこにスイッチがあるのか探すのも大変だし。
「ま、まあそんな日もあるだろ……多分」
「やっぱり、さっちゃんは色々な意味で運がいい」
「うぅ……」
そういう意味じゃやっぱり、ゲームでも神山さんはかなりの強運の持ち主だよな。方向性はあまりよくなさそうだけど。
「うーん、ちょっとここがどこだかわからないですね」
空がメニューにあるマップを見てそう言った。
普段フィールドを歩いているときは俺らの現在地がマーカーで示されているんだが、ダンジョンではその表示がない。
一応マップは表示されているけど、トラップなどで道のショートカットを繰り返すと簡単に迷子になってしまう。
「え、なんだなんだ。すっげぇやばそうな扉があるぞ!」
「扉?………あー、ありますね。なんかやばそうなやつが」
長谷川と宮野さんが曲がり角で大きな扉を見つけたらしい。
とりあえず俺らも二人のもとに向かう。
「うわ、ボス部屋だよこれ」
扉を見てすぐにそう判断をする。
どくろの装飾品に青いたいまつ、いかにもやばそうな雰囲気だ。
「いや、ここホントに初めのダンジョンなのか?ここにくるまですごい大変だった気がするんだけど」
「あー、まあ、簡単なはずです。……はい」
別段この場所のダンジョンは難易度が高いわけではない。ただトラップはどこのダンジョンに行ってもあまり仕様が変わらないから、それに全部引っかかるとなると……。
俺は何とも言えない表情で神山さんのほうを見た。
ビクッ、と体を震わせてきょろきょろと周りを見渡す彼女。
「いま、なんだかいやな予感がしたんですけど……?!」
俺はさっと目をそらした。彼女のせいにするのも酷だし、これはこれで楽しいからいいや。
「それならさっそく!ボスと戦って財宝を手に入れましょう!」
「おう!俺も空ちゃんと一緒に頑張るぜ!!」
「ちゃんと頑張ってよね、頼りにしてるんだから!………壁として」
「…………はい、善処します」
空、長谷川と宮野さんの準備は良さそう。
「神山さん、いけそう?」
俺は振り返って彼女に声をかける。
「うん。大丈夫だよ!今度はちゃんと、今までの分まで頑張るんだから!」
彼女は元気な笑顔を見せてくれた。
……やっぱり、美咲はいつも笑顔でいるほうが可愛い、かな。
「よし、じゃあみんなで行きましょう。空、先頭よろしく」
「はい!ではさっそく、突入です!」
そして俺たちはボス部屋へと入っていった。