とあるいつもの休日に。
こんなことがあったら嬉しいかも?とか思って書き始めました。
気付いたら、そこにいた。
周りは真っ暗で、物音一つしない。
体を動かそうとするが、感覚が麻痺してしまったのか、全く動かない。
なにもできないまま、ただ俺はそこで浮かんでいた。
でも一つだけ、分かることがある。
俺は大切な何かを、失ってしまったということだ。
……音?
微かに、だが確かに音がする。
(これは……雨?)
ポツポツと、やがて強く、はっきりと音が聞こえてくる。
もう、帰らなきゃいけない。
俺はそのまま意識を落としていった。
「ふわぁぁ……」
アラームの音とともに目覚める。今は午前7時。
とりあえず体を起こして、カーテンを開けに行く。
「今日は雨か……」
外は雨が軽く降っていた。
「今日の降水確率は60%だそうですよ」
「ふーん。久しぶりだな、こんなに雨降るの」
最近はずっと良い天気が続いていて、全然雨なんか降ってなかったのにな。
「梅雨ですし、この時期に雨が降ってもおかしくはないでしょうね」
「まあ、もう6月後半だしな。むしろ今までよく降らなかったな」
俺はいつものように机の前に座って、パソコンを開く。電源を入れ、パスコードを入れる。
……ん?
なぜかログインできない。試しにもう一度コードを打ち直してみる。
しかし、画面にはただエラーという文字だけが表示される。
「なあ空、もしかしてお前パソコンのパスコード変えた?」
そしてさっきまで彼女がいたはずのところに目を向ける。
……でも、そこには誰もいなかった。
「またか……」
幻覚。
最近学校でうまくいってないからなのか、俺は最近よく美少女の幻覚を見るようになっている。長い白髪、髪飾りに小さな黒リボン。まるでルビーのような紅い瞳をしている。
彼女は気がついたらそこにいて、そして知らぬ間に消えてしまう。そんなことがよくあった。
もう一度パソコンにコードを打ち直してみる。すると今度は問題なくログインできた。
「うわぁ……溜まってる」
いつも見ている動画サイトで、チャンネル登録している動画の通知が大量に来ていた。
もし今日が休みでなければ、とても全て消化することなどできないだろう。
そこでまた新しい通知が来た。まあせっかくなので、新しく追加されたものから順に見て行くことにする。
俺はつい先ほどきた通知をクリックした。
……。
………。
…………ん?
画面は真っ暗なままで、なにも変化しない。
これ再生されてなくね?と思ったが、ちゃんと動いてはいるようだ。
しかし真っ暗……なんなんだこれ?
もしかしたらバグったのかもしれないので、一旦動画を切ろうと思った。……が、微かに違和感を覚えて、画面を見る。
なんだ?いったいなにがおかしいんだ?
真っ暗なパソコンの画面には、鏡のように反射して自分の顔を映し出している……?
「自分……じゃ、ない!?」
見慣れたいつもの姿が映っているだろうと思っていたが、そこには見知らぬ少女の姿が映っていた。髪は長くて黒色で、瞳は紫。普通に可愛い。
……え?
思考回路停止中………。
復旧作業開始……。
……………。
……復旧作業完了。
そして結論。
「あ、これ夢か」
俺はそう判断した。夢ならば仕方がない。
喋ってみて気づいたが、声もいつもと違ってかなり高い。首についていた喉仏も無くなっている。自分の身体を見下ろすと、胸の谷間が見える。
「………」
頭が痛くなってきたので、そのまま寝ることにした。そしてベッドでゆっくりと横になる。
………。
ピンポーン!
チャイムの音。しかしこれは夢だ。別に出なくても問題ないだろう。
ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーンピンポーンピンポーン!!!
執拗にチャイムをラッシュしてくる訪問者。流石にこれじゃ眠れない……。
仕方がないので出ることにする。それにしても、タイミング悪いなぁ……。
「はーい、どちら様ですか?」
「あ、宅配便でーす!」
品物を受け取って家の中に戻る。
送り先は、俺の名前で松風俊様、そしてうちの住所がその下に書いてある。しかしこれ、依頼人の名前が書いていない。
まあ、とりあえず開けてみることにする。
箱はそんなに大きくない。縦30横20くらいの小さなダンボールだ。そして箱の中を見て見ると、スマホが入っていた。
「なぜに携帯……?」
取り敢えずそのスマホを取り出して見る。新品というわけではなさそうだ。ところどころ傷が入っているが、そんなに目立つわけではない。
すると、そのスマホに通知が来た。
なんだ?と思って確認して見ると……。
「イマ、アナタノウシロニイマス」
………はい?
そしてまた思考回路が停止してしまった。
(もしかしてこれってやばいやつ?後ろに何かいるパターン……ってなんだそれホラー展開かよ!?)
しかし、悪戯だという可能性もある。覚悟を決めて確認して見るしかない。そして俺はゆっくりと、後ろを振り返った。
……するとそこには、いつも俺が幻覚として見ていたはずの少女、空の姿があった。
「おはようございます♪」
「え、あー……おはよう?」
なんか今までと違う。
以前空を見かけたときは、そこにいるのかいないのかわからないくらい影が薄かったというのに、なぜか今の彼女はしっかりとそこにいるという感じが伝わってくる。
「身体の調子はどうですか?おかしいところはありませんか?」
えーっと……忙しいな。
さっきからなに考えてんのかわからなくなってきた。今日は休日だから休ませてほしい。
「ちょっと眠いかな……」
「そうですか。なら、これを飲んで元気になってください♪」
そういって元気ドリンクを手渡される。
俺はそれを一気に飲み干した。
「……はぁぁぁ!!??」
そしてやっと、今自分がいる状況を理解できた。
「え、なんで俺女になってるの!?てかこれ夢じゃないのかよ!!??」
「はい。何ならほおをつまんでみましょうか?」
そして軽くほおを摘まれる。うん、ちょっと痛い。
「いや痛いじゃねぇよ!どうなってんだこれ!?」
「ちょっと、落ち着いてください。ほら、これ飲んで」
そしてまた手渡された飲料を一気に飲み干す。
すると今度は、強烈な眠気が俺を襲った。
……静かだ。
聞こえてくるのは、時計が針を刻む音だけ。
なぜかとても居心地がいい。
寝返りを打とうとすると、「ひゃんっ!」と声が聞こえてきた。
それにしてもこの枕、気持ちがいいな。
このままずっと眠れそう……ん?
俺、今何してんだ?そしてついさっきまで起きた出来事を思い出す。そしてさっきの声、これはもしや……膝枕?
目を開けると、空の姿が目の前にあった。
「……って、ちょっとぉぉ!!?」
急いで転がって起き上がる。
「あ、起きましたか?とてもぐっすり眠れていたようなので良かったです♪」
時計はもう3時を指している。ってどんだけ寝てんだよ俺!?軽く7時間超えて眠っていた。
「で、この状況は何なんだ?」
とりあえず改めて、元幻覚であった少女空と向き合う。
「そうですね……何から説明しましょう……?」
そして少し思案顔をする。やっぱり、可愛い。何気ない仕草にもつい、俺は気を取られてしまう。
そして彼女は、俺に向かってこう言い放った。
「じゃあまず一つ。あなたの身体は、私が預かりました」
……は?
「どういうことだ、それ?」
「言葉通りの意味です。私はあなたの元の肉体を奪いました」
……はい?
「どうやって?」
「秘密です♪」
……。
つまり、俺はこれから女として過ごしていくことになるらしい。
……。
「ハァ!?俺の身体返せよ!このままじゃまずいって!」
「何がまずいのですか?」
当然のように白けた顔をする。
「……まず、学校に行けない。後身体に違和感があって落ち着かない。服も男物しかない。その他etc……」
「そんなの気にしなくても何とかなりますよ♪頑張ってください!」
「いや頑張ってくださいじゃねえよ!?」
頑張れば解決できる問題でもないと思うんだが!?
特に俺の友人に、
「俺、今日から女になったんだ♪」
とでも言ってみろ絶対別人だと思われてしかも女好きのやつからしつこく付きまとわれることになる……。
「そんなの嫌だァァァ!!!」
俺はやっぱり男として生きたい!
「頼むから返してくれよ!俺の身体!」
「ちょっと、そんな涙目で見てこないでください」
必死に泣き叫ぶ俺の姿を見て、彼女は俺から少し引き気味になる。
「確かに預かったとは言いましたが、返さないとは言っていませんよ?だから落ち着いてください」
「……え?」
すると彼女は、肩にかけていた可愛らしいピンクのポーチからハンカチを取り出して、俺の涙を拭いてくれた。
「……ごめん、ついパニクって凄いことになってた」
深呼吸をする。そして一度思考を落ち着かせる。
「……で、返してくれるのか?俺の身体」
「はい、いいですよ」
あっさり良いといってきた。
「なら、早く元に戻してくれ」
「ただし条件付きで、ですが」
「……条件?」
「はい。じゃないと、わざわざあなたから身体を奪った意味がありませんからね」
ニコッと笑う。可愛らしい。まるで小悪魔のよう……。
「で、条件って何?」
すると彼女は、真面目な顔でこう言ってきた。
「私と一緒に暮らしてくれるのなら、いつかあなたの身体を返してあげましょう」
……は?
こんな超絶美少女と暮らす?一つ屋根の下で?しかし今俺は女だ。何も問題ないのでは…ってそんな問題じゃないだろ中身は男だろ問題多有りだろ!?
「いや無理だろ!?流石にそれは無理だって!」
「拒否権はありませんよ?」
そして彼女はポーチからまた何かを取り出す。小さな棺のようだ。そしてその中には眠っている俺の身体が……。
「っておいそれ返せ!」
取り上げようとすると、それは目の前で儚く消えてしまった。俺の身体がァァッ!
「だから、条件を飲んでくれないと返しませんって言ったじゃないですか」
プンスカといった感じで怒られる。ああくそこんな状況でなに「あ、この娘やっぱり可愛い」とか思ってんだよチクショォォー!!
「……で、どうするんですか?条件を飲むんですか?それとも飲まないんですか?」
……。
この場合、俺はどうしたら良いんだろうか?
俺の身体は人質として取られている。
もし俺がこの条件を拒めば、きっと二度と男としての体には戻れないであろう。
そしてきっと、今ある日常は軽く崩壊するだろう……。
あれ?やっぱりこれ、俺に選択肢なくね?
「……分かったよ」
力なくうなだれる。
仕方ないよね、この格好じゃまともな生活なんて送れるわけがない。
「分かりました!今日からよろしくお願いしますね♪」
少女はニコリと、笑顔で微笑んだ。