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目覚め

「助け、て、XXX」


暗闇の中、女の声がする。


その声は今にも途絶えそうに切れ切れだ。


無性に声がした方に体を動かしたくなる。


待って、くれ、今助けて、や、る。


意識も朦朧とした中、何かに全身を絡め取られながらも必死に手を伸ばす、真っ直ぐに。


届け、届け!


男がそう念じると暗闇の先から、か細い白い手が伸ばされた。


「俺の、手を掴め!」


全身の力をひねり出して、互いの中指と中指がちかづく。


かすかに触れ合った次の瞬間。


その女の手は一瞬で冷たくなり闇の底へと重力に従い落ちていった。


冷たい鮮血があたりにほとばしる。


その瞬間あらゆることが男の頭をかき回すようによぎった。


お前が殺した。お前が殺した。お前が殺した。


ケラケラケラ。


違う俺じゃない!


俺は助けようとしただけだ!なのに急に、ーーーが......


そんな言い訳をするようにも聴こえる男の言葉を遮るかのように暗闇が少し明るくなって、何かが男の足元を掴む。


「タ……ス……ケ……」


男の目の前に血まみれの醜い首が恨めしそうに映った。


「うわあああああああああ!」


……どうやら悪い夢を見ていたようだ。


何を意味した夢かは、分からない。最後のあの首は誰のものだったのだろう……


少し怖いが、思い出そうとしても顔の部分が出てこない……


まるで黒いもやでもかかっているようだ。もう忘れよう……


ところで、ここはどこだろう。薄暗くて少し肌寒い。


体がすっぽり入る箱に入ってるようなので、中から力いっぱい真上のフタを持ち上げる。


そこから足をふらつかせながら、這い出てみた。


「うわ……なんじゃこりゃ」


今俺が入っていたのが、どうやら金銀や様々な宝石で彩られた棺であることに気づいた。


俺、こんなお偉いさんにいつからなっていたんだろう。思い出す記憶はほぼないが、普通に村人とかじゃないかな……


それにこんな豪華な金糸を使った旗まで隣に掲げられてるし……


紋章が描かれてるな、どれ、不気味な三つ目の竜のみたいだ。何を表してるんだろう……


薄暗い中ゾッとしたが、右の棺にも目がいった。


同じく装飾が施されているけど、俺が入っていた棺よりも少し贅沢さがないな。


あ、開けてみるか、中に人が入ってるかも知れないけれども。


ガタンッと大きなフタが床に降ろされ、中身が現れた。


女の子だ……さっきの金糸よりも輝く髪をした精巧な人形みたいな子がメイド服を着て、手をクロスさせた状態で眠っている。


こ、これは生きているのか?


恐る恐る震える手をその子に伸ばしてみる。


そして、肩に触れた瞬間。



「スリープ状態がマスターによって解除されました。これよりコード0はアクティブ状態に移ります」



「う、うわぁ! しゃ、しゃべった!」


驚きすぎてドスンッと無様に尻餅ついてしまった……悲しい……


「マスター、かなり驚かれたようですが、お怪我はありませんか?」


「き、君がいきなりうごいて喋ったからだよ! てっきり死んじゃっているのかと!」


「それは申し訳ございません。次からは起動動作を10分の1に修正しておきます」


そう言って、ぺこりと謝るメイド服の少女。


「ま、まあそういうことじゃないんだけどさ、そ、それより、質問が山ほどあるんだけど。答えてくれる?」


「なんなりと」


「マスターっていうのは?」


「マスターとは私の創造主であるお方です」


「……つまり、俺が君を創ったってこと?」


「左様でございます」


「信じられないな」


「私のデータではそうなっております」


なんてこった、こんな冴えない俺にとうとうかわいいメイドがついたのか。


しかも俺が創った。あ、へー(真顔)


普通ならこのことについて詰問すべきだろうが、今は現状が現状なのでそれを受け入れて別の質問をしよう。


「ここがどこか分かる?」


「お待ちを……ここは『プラネティア入り口ホール』です」


「プラネティア? 結局どこなのよ……」


「申し訳ございません。これ以上の情報はデータを検索しても得られませんでした」


そう言って、しょんぼりと肩を落とすメイド。


「い、いいってちゃんと質問に真摯に答えてくれるからありがたいし。ちょっと、今、目覚めたばかりで急なことが多すぎて混乱してたんだ。記憶が飛んでてね。どうしてここにいるのかも正直分からないんだ」


「マスター、そういう事ならば、このホール周辺を探索してはいかがでしょうか。何か有益な情報が得られる可能性があるゆえ」


「つ、ついて来てくれるかい?」


ただでさえ困惑している状況で、こんな薄暗い所を一人で歩き回ったら、俺チビっちゃう……


でも、これは自分より年下の子に夜、一人で怖くてトイレに行けませんって言ってるようで恥ずかしいが、もう恥を忍んで頼むしかない。


「もちろんでございます。マスターに同行し、身の回りのお世話をするのが私の務めなのですから」


「ふ、ふう、安心したよ」


もし断られでもしたら、白い目をされてでも土下座していただろうことは言えない。


「そ、そういえば君の名前は?」


「コード0、ゼロとお呼びください。マスター」


「ゼロさんね。じゃあ、ここら辺探索するか」


「かしこまりました」


周囲を捜索しているうちに色々なことがわかった。


一つは、ここが長らく使われていない遺跡のような場所ということ。


さっきから探索していても、意味不明な象形文字の掘られた壁とクモの巣だらけだった。


ただし、クモの巣に初めて引っかかってびっくりして叫んでゼロさんに飛びついたほどの俺がビビリだということは、ここでは追及しないとする。


二つ目に、ゼロさんと俺が棺で眠る前に、俺がゼロに2人の記憶を消失させて眠りにつけと命令したらしい。


そのため、ゼロさんには命令された記憶と基本データしか残っていない。


これではあまりゼロさんに頼れないかもな。


なんで俺は、そんな命令を下したのだろう。


というかゼロさんは記憶を消す能力があるのか。


そう自問自答しながら、ゼロさんから持ってる基本データについて尋ねているうちに興味深い話題が出た。


「マスター、あちらの構造物をご覧ください」


言われた方角を見ると、幅数十メトル(一メトルは一メートル)にもなる水路とその先に遺跡の壁に張り付いた閉ざされた水門がどっしりと構えられている。


当然水の流れは見てとれない。


「水門を制御できそうなレバーとか制御室とかは見たところなさそうだね」


「そのようです。マスター、壁沿いにここに来るまで鍵の掛かった部屋の扉がいくつもありましたが、他に鍵が掛かってない部屋がないか探されますか?」


「確かにそれも大事だけどね、こうも薄暗いところにいては精神面上ちょっと不安だから明るい場所に行きたいな。出口とかあればいいね」


「かしこまりました。では、そちらを優先させましょう」


そう言って、再びゼロさんは俺を先導して歩き始めた。


もうかれこれ数時間歩いているが、この薄暗いホールから抜け出せないでいる。


何もかもが静まりかえって、俺たちの足音しかしない。


ひょっとしたら……ここから出られないのではないかと思った。


このまま、死ぬまでこのホールをさまよって腹が空いて餓死するかもしれない。


いや、今はそんなに悲観的になるべきではないかもしれない。


そんな考えを抱いていては、ここから抜け出せない。そんな気がした。


するとゼロさんが振り向いてある提案をした。


「マスター、先ほどの水路を辿ってみてはいかがでしょうか。片方は閉じた水門でも片方は空いていたり何かあるやもしれません」


「確かに名案だな、それに賭けてみるか」



そう、確かに名案だった。


しばらく水路を辿ると、ゼロの言った通りで、薄い明かりが上から照らされた場所が先に見える。


そこに着くと、水路が上へと登っていっており、その両側には同じく上に登る階段があった。


「外に出られるのか?」


「可能性はありますが、別の部屋の可能性もあります」


「そ、う、だよな……」


俺がしょぼんとすると、ゼロさんが困った顔して励ましてくれた。ちょっと嬉しい。


さて、階段を登ろう。


一段一段登るたびに明かりが強くなってくる。


あと十段。


緊張する。違う部屋だったらどうしよう。


一抹の不安が残るがそれでも登る。


この上にあるのは、希望か絶望か。


今まで暗いところにずっといたからか眩しくて階段の先が見えない。


目を覆いながら足元を確かめるようにゆっくりゼロと進む。


そして、登りきった目の前にあったのは。






「外だーーーーっ!」





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