本田兄妹の休日前
「げぇっ、宿題に日記あるじゃん、めんどうだなぁ」
左斜め後ろの席から友達の嫌がる声が聞こえた。
6限目の授業が終わり、黒板に書かれた連絡事項や宿題をノートに写している時であった。
奏太の通う小学校では毎週金曜日の宿題として土曜、日曜の2日分の日記を書いている。奏太は(あー、今日は金曜日か)と、ぼんやり考えていた。
奏太は土曜、日曜の休日は殆ど友達と遊びに出かけている。遊ぶ約束は金曜日の昼休みに取り付けていたが、今日は休日の話をしていなかった。奏太は、帰りの挨拶が済んだら話しかけようと決めた。
「ごめん!今週の休みはじぃちゃんの家に行くんだ。」
「あ、そうなんだ」
「俺はサッカーの試合で無理。ごめんな」
「え、お前も?」
いつも遊んでいる2人が休日は遊ぶことができないと話した。2人同時に無理なんてあるんだな、と3人で話しながら帰る。
「じゃあ、じぃちゃんの家楽しめよ、お前はサッカーの試合頑張れ!」
「おう!ありがとな!」
「うん!ありがとう!楽しんでくるよ!」
わかれ道で奏太は2人にそう告げる。ここからは1人で帰ることになる。「じゃあなー」と言いながら家の方向へと向かった。
奏太は日記なら何を書くか悩んでいた。日記は原稿用紙一枚分である。家にいるだけの内容では奏太には半分程しか埋めることはできない。
「まぁ、なんかあるでしょ。あ、サッカーの試合応援にでも行けばよかったなー」
奏太は気楽に考えることにした。
「ただいまー」
「おかえり奏太くん」
姫香が出迎える。一瞬、奏太はいつものハグを警戒し、身構えたが、姫香は奏太の前で立ち止まった。
「言ったでしょ、嫌がることはしないって」
「う、うん」
少しがっかりしてしまう自分に奏太は嫌気がさす。
荷物を自室に置き、手洗いうがいをする。リビングに向かうと、姫香が思い出したように話した。
「あ、奏太くん、明日か明後日に予定ある?」
「ん、どっちもない」
「ほんと?あのね、お隣さんから遊園地のペアチケットを貰ったの。福引きで当たったんだって、一緒に行きたいなぁって」
隣の家には老夫婦が住んでいる。両親の不在が多い本田家をよく気に掛けてくれていて、お裾分けをしあったりしている。
「遊園地?行きたい!やったぁ!」
「じゃあ、明日行きましょうね」
「うん!」
この時の姫香の表情が楽しみにしているというよりは、少し緊張した表情であることは奏太は知らない。
「遊園地久し振り!楽しみだなー」
奏太は布団に潜る。明日が楽しみでいつも寝る時間の1時間前に眠ろうとしていた。明日乗るアトラクションのことを考えながら目を閉じる。姫香と2人という事はまるで気にしていなかった。
「早く明日になればいいのに」
独り言を言いながら奏太は眠りについた。
「んー、ワンピースがいいかなぁそれともショートパンツ?奏太くんはどれが好きなんだろ…」
姫香は明日の服装について悩んでいた。ベッドの上に服を広げて姿見で合わせる。
「遊園地だし、動きやすい服がいいよね、けどあんまり可愛くないかも」
姿見の前に座り込み、考える。
(でもよかった一緒に行けて、いつもは遊びに行っちゃうからダメかと思った)
姫香は緊張しつつも奏太を遊園地に誘った。奏太は何も考えずに誘いに乗ったと姫香は分かっていた。姫香はそれでも
「可愛いって思われたい。そうだ、奏太くんは青色が好きだよね、うん、これにしよう!」
姫香はショートパンツに青色のブラウスを合わせる。奏太の全力に付き合えるような動きやすさと異性として意識してもらえるような可愛さを持つ仕上がりになったはずだと姫香は満足した。
服をクローゼットに片付け、ベッドに入る。明日のことを想像すると、口元が緩んだ。
「奏太くん、楽しんでくれたらいいなぁ。」
「早く明日になればいいのに」