本田姉弟の少し特別な朝
奏太はベッドの上で明るくなりつつある窓の外をみていた。
「…眠れなかった」
時刻は五時半。いつもの起きる時間は六時半だ。刻々と姫香と会う時間が近づいている。
「はぁぁ」
奏太は大きなため息をついた。どんな顔をしていればいいのかわからない。寝不足が思考力を無くさせる。奏太が気づかないうちにいつの間にかリビングから姫香が朝食を作る音が聞こえていた。
手伝いに行かねば。と起き上がりドアノブに手をかけたが、姫香にどう接すればいいのかまだわからなかった。だが、今行かなくてもいずれ姫香は奏太を起こしに来るはずだ。悩んだところで無駄だと考えた奏太は覚悟を決めリビングへ向かった。
「おはよ、手伝うよ」
料理をする姫香の背中を見ながら声をかける。
「あ、奏太くんおはよう。じゃあこれ持って行って!」
「うん」
姫香はいつもと変わらない対応だった。むしろ少し冷たい気がする。奏太は昨夜の出来事は夢なのではと思った。
「奏太くん、昨日のことなんだけど」
奏太を見つめながら姫香は少し恥ずかしそうに話始める。
「いきなりあんなこと言われて驚いたでしょ、ごめんね。けど私、奏太くんのことがほんとに好きなの。私のこと考えてって言ったけど、すぐにっていう訳じゃないからね。奏太くんが大人になってからでもいいから答えを聞かせてほしいな。ううん、聞かせてください。」
姫香は焦ったようにベラベラと話し、奏太は目を丸くした。いつも余裕を持った話し方をする姫香がこんな話し方をするとは、それだけ本気なのかと自惚れた。
「…うん、いつ答えが出るかわからないけど、それでいいなら考えるよ」
少し前まで姫香にどう接するか悩んでいたのに、姫香の顔を見ると、自然とそう答えてしまった。
「!ありがとう。じゃあ、ご飯食べましょうか!あ、あのね、私、考えたの。奏太くんの嫌がることはもうしないって、だから、無理に『あーん』って食べさせようとしないからね」
「あ、うん」
奏太は嬉しい反面少し寂しかった。でも「あーん」してなんて言えなかった。
「ん!奏太くんはやく食べなきゃ!遅刻するよ!」
「え!」
時計を見ると七時十五分。あと十五分で家を出なければならない。奏太は朝食を急いで食べ、ランドセルを背負う。
「美味しかった!ごちそうさま、行ってきます!」
「はーい、いってらっしゃい」
奏太の背中を見送りながら、姫香は高鳴る胸を押さえていた。
「『美味しかった』とか初めてだ。〜〜嬉しいっ」
奏太はまた惚れ直された。