本田姉弟の夜長
奏太は風呂からあがり、ふらつく足でリビングに向かいソファに身を投げ出すように座った。奏太の様子がおかしいことに気がついた姫香は奏太に駆け寄った。
「ちょっと、どうしたの」
「んー、のぼせたみたい」
「ええっ、言ったじゃない、のぼせないようにって」
「うう、ごめん」
姫香は熱さまシートとスポーツドリンクを準備し、奏太にタオルケットをかけた。
奏太は痛む頭のなかで、姫香の行動についてまだ悩んでいた。
「治ったら今日はもう寝なさい。」
「うん、あのさ、姉ちゃん、風呂でのことなんだけど」
「ん?もう一回触る?」
「触んねぇよ!」
姫香は気にした様子もなく、普段通りに接してくる。奏太は姫香の行動は特に意味を持たないのかもしれないと思ったが、一応聞いておくことにした。
「なんであんなことしたの。」
「そうねぇ、奏太くんもそういう時期かなって」
「は?だからってあんなことしないだろ」
「奏太くんが最初に触れる女の子が自分以外の女の子だったらいやだし」
「何言ってんの」
姫香はいつも自分に好きだと言っているが、それはあくまで姉弟愛の話だと思っていた奏太は混乱した。今姫香が言ったことは奏太には姉弟愛の話には聞こえなかった。それは、まるで
「俺のこと恋愛対象としてみてるみたいじゃねぇか」
「気づかなかったの?」
「え」
「私、奏太くんのこと好きだよ。弟としてじゃなくて」
「それは、つまり」
「うん!奏太くんに恋してるの!」
「でも、自分のことお姉ちゃんって呼ぶだろ、弟としてみてるよな。勘違いじゃないのか」
奏太は姫香のことを信じられなかった。
「あー、それはね、小さい頃の癖だよ。奏太くんに恋してることに気づいたのつい最近だし」
「いつだよ」
「奏太くんが四年生の二学期ぐらいの時かな。奏太くん、女の子にラブレター貰ったって言ってたでしょ」
奏太は四年生の二学期にクラスの女の子からラブレターを貰った。どうやって返事をしたらいいのかわからず、姫香に聞いたのを奏太は覚えている。結局、その告白は断ったが。
「あの時ね、すっごく胸がモヤモヤしたの。私の奏太くんなのに、なんて物渡してんのよって。その時に思ったの、奏太くんの初めては全部私が欲しい。奏太くんを絶対離したくないって。なかなか意識させることができなかったけど、さっきのお風呂で意識したでしょ?」
奏太は否定できなかった。姫香を姉でなく女性として見始めてしまっていた。だが、姉弟だという考えはまだ捨てきれなかった。
「奏太くん、私のこと、考えておいてね。もう、自分のことお姉ちゃんなんて呼ばない。奏太くんが私に恋してもらえるようにがんばるから」
「でも、姉ちゃん!」
「もう、お姉ちゃんじゃないよ。姫香って呼んで」
「…っ、姉ちゃんは姉ちゃんだよ」
姫香は奏太に顔を近づける。奏太の身体はまだのぼせているため、動きが鈍っている。頭もうまく働かなかった。奏太がやっと理解できた頃には姫香と奏太の唇同士は触れていた。
「奏太、愛してる」
姫香の表情は奏太が見たことのない女性の表情をしていた。
「もう少ししたら、部屋で休んでね。私はもう寝るから。おやすみ」
「……うん。おやすみ」
リビングから姫香が姫香の自室に戻る。奏太はぼんやりとリビングの天井をみた。身体の火照りは風呂でのぼせたものとは違うものになっていた。
「…とりあえず、寝よ」
身体にかかったタオルケットを適当にたたみ、ソファに置く。リビングの照明を消して自室にもどる。奏太は姫香について考えることをやめた。
自室のベッドに寝転がり寝ようとするが寝付けない。
「あーっ、クソ!!なんなんだよ!」
奏太の中は姫香でいっぱいになっている。考えることをやめても姫香のことが自然と頭に浮かぶのだ。
奏太の夜は長い。