本田姉弟のお風呂
夕食を終え、姉弟で食器を洗う。
「奏太くん、これが終わったらお風呂にはいっておいで」
入浴の時間が奏太が一番警戒する時間だ。
奏太が湯船に浸かっていると、いきなり風呂場のドアが開く。
「奏太くん、背中流すね」
「…はぁ」
バスタオルを裸体に巻いて姫香がはいってきた。これもいつものことだ。奏太は持ってはいっていたタオルで前を隠す。
「言うの疲れた」
「え、何を?」
「なんではいってくるんだよ」
「?お姉ちゃんだから」
「はぁ?」
奏太が幼い頃は一緒に入浴した。だが、自分たち姉弟が異常だと知ったその日に奏太は一緒に入浴することを拒んだ。当時は姫香がそんなことではへこたれないと気づかなかった。奏太がはいった後から入ろうとしてきたのだ。その時は風呂場のドアの前に姫香が立った時点で奏太は気付いた。
「姉ちゃん?何やってんの」
「お風呂はいろうと思って」
「俺はいってるけど」
「知ってるよ」
「一緒にはいらないって言ったよな?」
「ダメ?」
「ダメに決まってるだろ!!」
翌日から姫香は奏太に気づかれないようにはいってきた。日々奏太が気付きにくくなっている。姫香は奏太と入浴することに本気を出していた。
「なんでいつもはいってくるかなぁ」
「だから、お姉ちゃんだからだよ」
「なんだよそれ」
「そのままの意味だよ」
姫香の意味のわからない理由を聞きつつ奏太は身体を洗ってもらう。
「俺も姉ちゃんの身体洗う」
「ありがとう!」
決して下心があるわけではない。そんなもの奏太にはない。単に姫香に頼りきりになるのが嫌なだけだ。
「…んっ、奏太くんは身体洗うの上手だよね。気持ちいいよ」
「変な声出すなよ」
「だって、んっ、ふ」
奏太はボディソープを泡だてたスポンジで姫香の脇腹を洗う。奏太も男だ。下心は最初はなかったが、胸に目が行く。大きいなと素直に思った。
「んん、奏太くんどこ見てるの?」
「!!別に、どこも」
「ふーん、そう?」
姫香は意地悪な笑みを浮かべる。
「いいのよ?少しなら」
「は!!?何が!?」
頭の中が一瞬真っ白になる。
「奏太くん、手、貸して」
姫香は奏太の右手首を掴み奏太の手のひらが姫香の左胸を覆うように触らせる。
「触ってみたかったでしょ?」
「〜〜っ、はな、せ」
奏太が掴まれている右手を戻そうとするが姫香の方が若干力が強かった。
「力が強い!」
「ん、奏太くん、…あっ」
ボディソープの泡で滑り、姫香の手から奏太の手首が抜けた。
「はあ、はあ」
「必死になってる奏太くんも可愛い」
姫香はのんきに身体についた泡を流し始めた。
「先にあがってるね。のぼせないようにしなさいよ」
「…」
奏太は放心状態だ。姫香が服を着て浴室を離れる。奏太はとりあえず湯船に浸かり直す。姫香とのやりとりを思い出し、自分の右の手のひらをみる。
「なんで、あんなこと」
いつもは抱きついてくるだけで自分に触れさせることはなかった。
自分の知らなかった姫香を知れたことに少し感激する。が、初めてみる姫香の行動に動揺して、うまく考えと感情がまとまらなかった。
奏太は生まれて初めてのぼせるまで風呂にはいることになる。