本田姉弟の夕方
奏太は十一歳の小学五年だ。姫香は八歳上の十九歳、大学一年だ。姫香は奏太を歳が離れた分可愛がっている。だが、その可愛がり方は並大抵ではない。奏太はそのことをつい最近知った。
同級生に同じく姉を持つ友達がいる。放課後、その友達と一緒に公園で遊んでいたら友達の姉が通りかかった。姫香ならば「奏太くーん!」と走ってきてぎゅうぎゅうと抱きしめてくるだろう。しかし、友達の姉は友達を無視して通り過ぎた。それに気が付いた友達は「あ、姉貴だ。」と言って終わった。奏太は「え、声かけなくていいの?」と聞いたが、「はぁ?いちいち声かけねぇよ」と当たり前のように答えた。奏太は、うちは仲が良すぎるのか?と考えた。それから友達にいくつか
姉に関する質問をした。「姉は着替えを手伝おうとしないのか。」「姉は食事を食べさせようとしないのか。」当たり前だと思っていたことが見る見るうちに異常だと判明した奏太は、普通の姉弟にならなくてはと焦った。そして奏太は姫香とのスキンシップを今すぐにやめたいと思った。その日から奏太は姫香に素っ気ない態度を取っている。
奏太は学校から帰ると姫香の熱い抱擁をすり抜け、「ただいま」と言った。姫香は奏太を後ろから抱きしめる。
「おかえり奏太くん!どうして正面から抱きしめさせてくれないの?お姉ちゃん寂しいよぉ」
泣きべそをかきながら抱きしめ続ける。
奏太は素っ気ない態度を取ると決めてからも完全には取れていない。今日も後ろから抱きしめることを許してしまった。奏太は姫香のことが嫌いではないため、姫香を甘やかしてしまっているところがあるのだ。奏太は甘やかしてしまう自分の性格に悩んでいた。
「奏太くん、今日は遊びに行かないの?」
「うん、みんな塾とか習い事だって」
「そっか、奏太くんは習い事とか行きたくないの?」
「んー、とくにやりたいこともないしなぁ」
そんな会話をしながら二階にある奏太の自室に向かう。姫香も一緒だ。部屋にランドセルを置き、一階の洗面所に移る。手を洗い、うがいをする。「うがいもちゃんとするなんて奏太くんえらい。お姉ちゃんますます好きになっちゃう」
「……」
毎日言うのだ。たまには無視もする。
リビングで姫香が用意したおやつ(姫香の手作り)を食べ、宿題をするため自室に行こうとする
「奏太くん、晩御飯は何がいい?」
「あー、からあげ!」
「はーい、できたら呼ぶね」
家の中で一人になる時間は少ない。奏太は自室に駆け込み一人の時間を全力で楽しもうと意気込んだ。