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3-デビルサマナーの乾小隊が未だにトラウマです(前)

「で、なんでこんなところでよりにもよって知り合いに会うかなあ……」

「あら。奇遇ね。財部の兄さん」


 巫女服を着た少女――遠矢のりこは、そう言ってにっこりほほえんだ。

 文面だけ見るとたおやかな仕草に見えかねないが、まわりをがっちり黒服SP達が取り囲んでいるのでそれはない。


(つうか、明らかにカタギじゃねえだろこいつら。たぶん銃器持ってるし)


 全員に不自然な胸ポケットの膨らみがあることを確認し、俺はげっそりした。


「んで、俺の帰宅路でどんな悪だくみしてんの? おまえ」

「失礼ね。悪だくみなんてしてないわよ。私はただ、買った物件の様子見に来ただけなんだから」

「物件?」

「このビル丸ごと」

「…………」


 だからなんでこいつは……まあいいけど。


「しかしビル見に来るのになんでこんなに人連れてきてるわけ?」

「いやちょっと事情があって……」


 直後。絶叫と共にばりーんとガラスが割れて、そのガラスと共に1人の男がゲラゲラ笑いながら地面に落ちてきてぐしゃっというへんな音がした。


「……ダメだったみたいね」

「いや大事だよ! なにがあったんだよ!」

「いやね、このビルなんかへんなものが憑いてるっぽいのよ。いま落ちてきた男は自称霊能者で、払ってやるって言うからひとりで突撃させたら結果はご覧の通り。……松島まつしま、救急車は呼んだ?」

「ぬかりありません、社長」


 横に控えていた黒服SPが言った。


「……社長って、なんの会社やってんだ?」

「たいした肩書きじゃないわよ。土地転がしの名義用。私の名義でやると、年齢とかでいろいろ面倒でしょう?」

「まあ、それはそうかもしれないけど」

「この祟りがあるという噂のビルを格安で買い取って、適当に除霊のまねごとをしてから転売すれば大もうけと思ってたんだけど……ガチだとは思わなかったわ。大損害よ」

「霊障をなめるからだ。ただの噂話だけじゃ、格安ってレベルまで値段が下がることはまずありえねえよ」

「あら。そういう話するってことは、あなたも専門家?」

「いや俺はちょっと霊感があるだけ」

「専門家なら話が早いわ。はい前金の百万円」

「おまえ俺の話聞いてる!?」


 かるーく差し出された札束を押しのけて叫ぶ。


「小切手のほうがいい? 奇遇ね、私もよ。札束は見た目のインパクトはあるけど、かさばってどうも嫌でね」

「だから話聞けよ! 俺は専門家じゃねえって!」

「いいじゃないのべつに。専門家名乗っていたのがあのていたらくなんだから、もう肩書きにはなにも期待しないわ。代わりにあなたが役に立って」

「あのな……まあいいや。じゃあ今日は下見ってことでいいか? 本格的に払うのは知ってる専門家にやってもらうから」

「了解したわ。頼りにしてるわよ」


 はあ、と吐息して、俺はビルの中に入った。


「暗いな……電気は通ってるのか?」

「契約は続いてるはずだけど」

「うわっ!? なんでおまえビルの中入ってくるの!?」

「様子見でしょ? 私も見たいわ。人間があんな面白おかしく発狂する現象なんて、興味深いじゃない」

「おまえ、底知れぬ度胸持ってるなあ……」


 実害が出てる霊障を見ておいてこの態度。さすがはガチ犯罪者と言わざるを得ない。

 ちなみに褒めてない。


「ていうか、黒服は連れてこなかったんだな」

「頼りにならない相手は連れていかない主義よ。

 それに、なにかあったときに救急車呼べる人間が全滅してるというのも嫌だしね」

「どっちも正解ではあるんだが、だったらおまえも外に出てるのが大正解なんだがね……っと、危ない!」

「きゃ!?」


 俺は遠矢を押し倒してかばう。頭上を、かなり濃い霊気が通過していくのを感じた。


「おいおい、一階からあんなのが徘徊してるのかよ。冗談じゃねえぞ」

「……責任はちゃんと取ってね」

「そしておまえは錯乱してんじゃねえよ」

「あら失敬。暗闇で押し倒されたのでてっきりそういうシチュエーションかと」

「呑気だな……べつにいいけど」


 この瘴気ただようビルで桃色妄想とか、マジ無理なんだけど。


「で、これからどうするの?」

「そうだな。とりあえず瘴気の中心点を探って、それから店長に報告かな」

「店長って?」

「俺のバイト先の。ガチの霊能者だ」

「ふうん、そうなんだ」


 言いながら階段を上がる。


「階段の怪談……ふふっ」

「あまりにもベタすぎるネタを出されると、笑っていいのかどうかってレベルで反応に困るんだが」

「ベタは基本ってことでしょ。悪くないわ。

 ……あれ? 二階、素通りするの?」

「震源はもっと上だ」

「へえ、そういうのがわかるんだ。便利ね」

「俺にはおまえの利殖能力のほうが便利に見えるけどな。なんだその資産」

「あれは余興よ。私の本業はしがないクラッキング」

「クラッキングって、ハッキングのことだよな?」

「まあ、一般用語としてはそういうことね。

 ただコンピュータに詳しいひとにとって、ハッキングってのは「こんぴうたのすごい使い方」という意味なんで、悪用前提であるクラッキングとは普通分けるわよ」

「あ、そう」


 あんまり興味ない雑学知識ではあるが、わかったことがひとつある。


「つまりお前、悪用しているっていう自覚はあるんだな」

「なかったらクラッキングなんてできないわよ。危なっかしくて。

 反社会的行動をやるなら、最低限反社会的であるって自覚がないと。リスクの自覚がない悪党なんて反吐が出るわ」

「…………」


 うわあ、ガチで自分のこと悪党って言っちゃったよこの子……


「なんでうちの妹のまわりにはこんなロックな生き方してる女子ばっかりが集まるんだ……?」

「類は友を呼ぶって言葉、知ってる?」

「知りたくない! そんな言葉は知りたくない!」

「あ、そう。どうでもいいけど、もう四階だけどいいの?」

「どんどん瘴気が濃くなってるからな。まだ上だ。

 ……つうか正直、次の階が震源でなかったら俺は帰る。俺の手に負えるレベルを完全に超えてるからな」

「そう。まあ、判断はそっちに任せるけど――」

「危ない!」


 ぐいっと引き寄せた、その後ろを光の球みたいなのが抜けていく。

 遠矢はうっとり顔で、


「強引に引き寄せられるとどきどきするわ……そっか、お化け屋敷に入るカップル達ってこういうのを楽しみたかったのね」

「こっちは心臓ばくばくだけどな。

 つうか、マジでいまのやばい霊だったぞ。取り憑かれたらおまえ、一文無しじゃ済まないよ?」

「あら、でも人買いに売られたら、兄さんが責任持って買い戻してくれるんでしょ?」

「誰が兄さんでなんの責任だコラ」


 ジト目で問う。


「で、五階だけど。ここが中心点でいいの?」

「どーもそうっぽいな……このビル何階建てだっけ?」

「六階建て。上の上が屋上ね」

「りょーかい。さて、どうしたもんかな。中心点に直接向かおうにもちょいと霊が濃すぎてどうしたもんだか……」

『あのう』


 唐突に上から声がした。


「押し売りはお断りだ」

『あ、いえ。決してご迷惑はおかけしませんから。ちょっとお話を』

「セールスマンはみんなそう言うんだ」

『はあ。せえるすまんというのはどのようなお方でございましょう』

「しまった……時代的に横文字通じないタイプか」


 観念して俺は上を見上げる。

 そこに、うっすら透明な人間の形をした霊がいた。

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