1-俺の妹と前科者クラブ(後)
一方、なぜかドヤ顔で髪をかき上げているのが我が愚妹である。
「ふ……どうですのお兄様。我が前科者クラブは」
「ああ。終わってるな。いろいろ」
少なくとも教育上は近寄っちゃいけない場所というのはよくわかった。
「ていうか、なんで女だけなの?」
「男どもは揃って他校とのしばき合い――じゃなくて交流試合に出た結果、こうなりました」
「…………」
ああ。みんな塀の中ってそういう……
「さて、次はあなたの番よ」
唐突に犯罪巫女が言った。
「なにが?」
「自己紹介。私たちだけにさせるというのは、ちょっといただけないわ」
「ああ、そういうことね。
俺は財部一真。名字でわかると思うが、ひよりの兄だ」
「前科はどういう経緯だにゃん?」
「ねえよそんなもん! 勝手に人を前科持ちにするな!」
つーか、おまえらと一緒にするなよ。
「ちなみにひよりちゃんは義妹だにゃん? それとも実妹だにゃん?」
「実妹だよ! なんだその義妹って!」
「知らないのにゃん? 昔はソフ倫の審査が厳しかったから、義妹にしないとえっちできなかったにゃん」
「興味ねえよ! へんな業界の常識を押しつけるな!」
「まあいまは実妹でも普通に通るけどにゃん。というか、ヒロイン全員実妹というゲームもそれなりの量あったはずだにゃん」
「滅びてしまえエロゲ業界!」
「いやまあ、でもヒロイン全員が実の娘ってゲームよりはましだと思わないかにゃん?」
「いいよもうエロゲの話は!」
「なるほど。では実物の話をするとして、いつごろひよりちゃんを収穫するご予定かにゃん?」
「収穫ってなんだよ! ねえよそんな予定!」
「ちなみに日本の伝統だと十四歳くらいというのが定説だにゃん。いまが食べ頃だにゃん」
「その数字はどこから出てきたんだ……?」
「源氏物語の紫の上だにゃん」
「意外と由緒正しい!」
「おほほ。ご安心くださいませお兄様。わたくしは凡百の妹キャラと違って、お兄様のことはマジでアウトオブ眼中です」
「うるさいよ知ってるよ気持ち悪い!」
つうか俺の方がアウトオブ眼中だよ。マジで。
「というわけでお兄ちゃん。つれないひよりちゃんは放っておいてホテルでお金いっぱいくれないかにゃん?」
「悪いが俺は昔から年上のほうが好きなんだ」
「日本人なのにロリ好きじゃないのは非国民だにゃん」
「なんで!?」
「や、でも実際なんかそういう圧力感じないかにゃん? 小学生は最高だぜとか、言わないとなんかまわりから浮いちゃう的な」
「あー、なんかわかんなくはないけど……」
でも非国民は言い過ぎだろう。
「ていうか実際ちょっと聞きたいにゃん。年上のどこらへんが具体的に好みだにゃん?」
「どこ……って、表情が多いだろ、基本的に年上のほうが」
「む。そうなのかにゃ?」
「俺はそう思うんだが」
表情豊かな子供、というのは幻想だというのが俺の持論である。
基本的に表情というのは相手に与える印象をコントロールするために後天的に獲得する物で、子供はそれを意図して作れない。
「むう……でもその説だと、お兄ちゃんは十年後には年下でもいいやって言ってそうな気がするにゃん」
「あー。まあ二十超えてればいいかなって気もしてるからあながち間違いでもないな」
「ということは十年経ったら晴れてロリコンだにゃん!」
「ロリコン……なのか? それ?」
俺の知ってるロリコンと違う。
「なるほど。ではひよりちゃんの収穫時期の話に戻ると六年後ということに」
「ならねえよ! なんでこんなん収穫せにゃならんのじゃ気色悪い!」
つうかその話に戻るな。
と、犯罪巫女がそこで口を開いた。
「なんなら私を収穫してもよいわよ。ブラザーライクだし」
「え、ブラザーライクって口からでまかせじゃねえの?」
「いや、出所自体はのぞみのでまかせだけど、でも考えてみればこの四人は全員年上好みだし、案外的を射ている表現かも」
「のぞみってそこのエセ猫?」
「その覚え方で行くと、罰ゲーム明けにはわたしが認識できなくなってるにゃん」
「私がどう覚えられているかにも興味があるわね」
「え、犯罪巫女だけど」
「なんで私が巫女なのよ」
「犯罪には反論しないのな……いや。だって巫女装束着てるじゃん。学校なのに制服も着てないし」
「家のしきたりだって言ったら普通に通ったわよ、巫女装束」
「そ、そうなのか」
「ええ。よくあんな口から出任せが通ったものだわ」
「…………」
ひどい話である。
「ちなみにその猫は御前崎のぞみで、私が遠矢のりこよ。覚えておくといいわ」
「ああ、わかった」
「ちょ、あたしは!? あたしの名前は!?」
「あ、そういえば聞き忘れてた。これはどんなふうに認識してたのかしら?」
「え? 金髪」
「軍服には反応なしかよ!」
「だってどうせそれもエセだろ?」
「うるさいよ! ていうかあたしにも聞けよ! なんでこの服着てるのかって!」
「家のしきたりじゃないの?」
「ちげーよ! どういうしきたりだよ!」
「じゃあしきたりでもなくそんな服着て恥ずかしくないの?」
「いきなりすげえこと聞くなあんた! もうちょっとマイルドに聞けないの!?」
「ああ、ごめん。つい本音が」
「ぐぬぬ……と、とにかく! あたしは転入生だから着る服がないって言ったら好きな服着てていいよって言われたからこうして着てるだけなんだからね! 勘違いしないでよね!」
「いや勘違いって……まあいいや。じゃあな金髪」
「名前を聞けーっ!」
「だってどうせおまえアルシンド桜とかそのへんの名前だろ?」
「なんで往年のサッカー選手みたいになってんだコラ! あたしの名前は――」
「お兄様。その名では次からタイトルが『俺の妹は落ち武者ヘアー』に変更されかねません。ご留意を」
「ああそっか。わりぃ」
「無視すんなー!」
「ごめんごめん。で、桜。なに?」
「桜じゃねえよ!」
むきーと暴れる金髪。
「おっと。もうこんな時間か。俺もうバイトだわ。じゃあな」
「いってらっしゃいませ、お兄様」
「いつでも来るにゃん」
「じゃあね」
「ちょ、ちょっと! あたしの名前を――」
がらがらがらぴしゃん。扉が閉じた。
「さ、帰るか」
まあ、かなりハードな環境だったけれど、妹がこれ以上の非行に走る要因はないだろう。濃すぎるから。
とはいえ、このまま手をこまねいて、また留置場にあいつを迎えにいくのもごめんなのだが……
(それはまた、バイトが終わり次第だな)
考えながら、俺はその場を後にした。