9-ラーメン大好きアルシンドさん(前)
「うおお桜ー! 会いたかったぞー!」
「ちょ、なにそのテンション!? なにがあったの!?」
俺が泣きながらすがりついたのに対し、慌てながら桜が答えた。
時刻はもう夜。あれからいろいろあった。いろいろありすぎてもう俺はボロボロである。
「いや、ていうかマジでなにがあったのよ。なんかアンタ心なしか全身煤けてるし、昨日の夜帰ってからいままでの間になにがあったわけ?」
「少なくとも三回拉致された」
「なにがあったわけ!?」
俺が聞きたい。
まあUFOとMIBに拉致されたのはまだいい(よくない)。それで眠れなかったせいで朝バイト後にうっかり寝落ちしたらおまんじゅうに呪術でつきまとわれたのは本当に意味がわからない。泣きたい。
おかげで疲れもとれてない。なにか癒やされるものはないかと飢えていたところに通りかかったのがこのエセ軍服だったのである。
「な、なんであたしが癒やし枠になってるかはわからないけど、まあ、お疲れ……?」
「うう……こうやって話してても宇宙人も仙人も悪霊も出てこない。やっぱり俺にとっての癒やしはおまえだけだよ桜……」
「どんだけハードな世界転がってんだよアンタ……ていうか、昨日会ってからまだ一日しか経ってないんだけど、そんなひどい一日だったの?」
「まあなー……しかし長い一日だったな。まるで公開してから4年間ほったらかしだった、みたいな」
「なんの話だよオイ」
ジト目で突っ込む桜。
しかし、この一日で桜を見るだけで泣きそうになるほど追い詰められるとは思わなかった。ここはこの、本作品随一の癒やし系妹であるこの軍服にいいもん食わせてやらんといかんな……
「よし! ラーメン食いにいこう!」
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「ほんとにおごってくれるの? なんの裏表もなく?」
「しつこいなあ。俺が桜相手に嘘つくわけないだろ」
「いや、だってなんか裏がありそうだし……それにほら、女子中学生にこんな接待とか、いまどき流行りのパパ活? みたいで、なんか気が引けるっていうか……」
「ラーメンでパパ活気分かよ。安いなおまえ」
「そ、そういう言い方やめろよ!」
言いながら俺たちは、俺のなじみのラーメン屋へと入っていった。
ここは、いわゆる「家系」という系統のラーメンである。このタイプは俺的には、最初はうまいけどだんだん濃い味に辟易してくるのが通常なのだが、この店にはそれを回避するための無料の具材があって、それで気に入っているのだった。
と、カウンターに座っている少女が俺に気づいた。
「あれ、兄者じゃん。どったの?」
「なんだよユリーカ、今日はここで一人で食べてたのか?」
「ひよりちゃんも誘ったんだけど、なんかあの子は今日はカップラの気分だって。そっちの子は?」
「ああ、こいつは桜と言って、ひよりの友達なんだ」
「……ど、どうも」
ちょっと照れたように桜は返して、
「ってちょっと待て! さっきからスルーしてたけどあたしは桜じゃねえよ!」
「え、いまさら?」
そこはもう諦めたと思っていた俺は普通に驚いた。
「そんなことより座りなよ。ボク、まだ地球のご飯に慣れてなくてさ。どのメニューがおいしいか、教えて欲しいんだ」
「ま、それは構わんけど。基本は定番の醤油ラーメンでいいと思うぞ? 麺のかたさとかも基本は「ふつう」で。凝るのは二回目以降でいい」
「へえ……そうなんだー」
「そうだ。せっかく居合わせたんだ。おまえにもおごってやるよ、ラーメン」
「ホント!? 兄者だいすきー!」
大喜びのユリーカ。
一方で、なんとなく面白くなさそうなのが桜である。
「……この子もアンタの妹分なの?」
「まあな。昨日なりゆきで知り合った」
「わりと節操ないよね、兄貴ってさ」
「なんでおまえむくれてるの?」
「む。なによう。兄者はボクの大事な兄者なんだからね。文句があるならボクに言いなよ」
「なにおう! 昨日ぽっと出で知り合っただけの新参者が偉そうに!」
「いや、言っとくが桜、おまえと出会ったのも昨日だからな?」
なぜ古参妹顔しているのか、このエセ軍服は。
しかしこんなところで変なバトルに入られてしまうと俺は困る。というか、店主がすでに、けんかの気配を察して迷惑そうな顔をしている。
「よし、じゃあ古式ゆかしき決闘と行こうじゃないか」
「は? 決闘?」
「なにそれ? 兄者どういうこと?」
「なに。ここはラーメン屋。そしてラーメン屋でバトルと言えば、やり方は一つしかないだろ?」
「「どういうこと?」」
首をかしげる二人に、俺はぴっと指を立てて言った。
「グルメバトル。よりうまいラーメンの食い方をした方が勝ちだ」
ちなみに本文中で4年間と書いてますが、この話を「7.」まで書いた最初の時期は2013年なので今回の更新は8年ぶりです。




