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8-兄貴と私と平将門(後)

「さて、明らかに不審な謎生物を助けてみたはいいんだが……」


 鉄格子に引っかかって脱出失敗していた体のその生物(?)をとりあえず机に置いて、俺は静かにため息をついた。

 それは名状しがたき狂気の生物だった。

 顔はどことなく憎たらしい張り付いたような笑み。その下はなにもなし。首すらない。形状はドラクエのスライムに近いものを彷彿とさせるが、まんじゅうの方が近い気がする。移動するときはぴょんぴょん跳ねて進んだり、不条理に飛行したりする。

 ジョジョっぽく言うなら……我々はこの謎生物の名を知っている。

 いや、このおまんじゅうの形と、明らかにsoftalkなボイスを知っている。


「どう見ても『ゆっくり』だよな、これ」

「ゆっくり?」


 松島は首をかしげた。どうやら彼は、ネットカルチャーには疎いようだ。

 一方、ゆっくりの方は精一杯愛嬌を振りまくウザいウインクをして、


『ぷるぷる。ぼく悪い暗黒大魔王じゃないよ』

「悪くない暗黒大魔王を見るのは初めてだな」

「財部の兄貴。その言い分だと、暗黒大魔王自体は現実で見たことがあるのか?」

「いや、いまのは言葉の綾だけどさ……」


 とはいえ、『悪くない暗黒大魔王』を自称する謎生物と出会ったのも初めてである。

 暗黒大魔王を名乗る中学校の同級生ならいたので、今回のは自称基準ですら記録更新だと言える。

 …………

 やめよう。同級生の中二病の話をほじくり返すのは。


「って、よく考えたら暗黒大魔王って、ついこの前聞いたワードのような気がするな」

『あの巫女じゃない?』

「どの巫女だよ。おまえも巫女じゃないのか」

『誰が巫女やねん。しばくぞ』

「そこはゆっくりじゃないのか……は、ともかくとして。つまりお前が、野依が命がけで封印していたっていう魔王?」

『魔王じゃない。暗黒大魔王』

「そこにこだわるんだ。ていうか名前あるんだろ。話せよ」

『平将門だよ?』

「…………」

「…………?」


 俺は机に突っ伏した。

 一方、松島は首をかしげて、


「誰だよそれ。はらたいらの親戚か?」

「世代がわかるぞおっさん。

 ……じゃねえ! いくら首だけ関東に飛んでった逸話があるからってゆっくりはねえだろ、ゆっくりは!」


 平将門と言えば、平安時代に新皇を自称して関東で反乱を起こしたという経歴を持つ、ニンジャスレイヤーなら間違いなくアーチ級以上のニンジャだったであろうすごい人だ。

 だが、彼は最近ゲームでも有名な俵藤太=サンによって討たれ、斬首されるも、その執念で首だけが関東に向けて飛んでいったという逸話を持っている。

 そう。首だけが。


「『平将門が首だけで動けた理由はゆっくりだったから』なんて学説、出てきたら歴史学者が頭を抱えるぞ……」

『いや、私もゆっくりにはそんなになじみがないんだけどね? なぜか気づいたらこのおまんじゅうボディになってたんだよね』


 自称、平将門であるゆっくりはそう言って自分の身体をきょろきょろ見た。


「ていうか、昨日の霊障の禍々しさがかけらもないんだけど。どこいったんだよあの力」

『それも不明でね? いや、たぶん昨日の霊障が大正時代の頃の私だったと思うんだよね。だけど復活してみたら見事なおまんじゅうボディで、これじゃ荒俣宏先生に申し訳が立たなくなっちゃうんで困ってるんだよね』

「そこかよ困ってるポイント。ていうか、おまえ封印されてたくせに、野依よりだいぶ現代事情に詳しいな?」

『そこはほら、全国に首塚とかあるから。そこを通じていろいろ情報が集まってくるんだよね』

「首塚で祀ってもらえてるんだから祟るなよ……」

『それはそれ、これはこれ。

 まあ実際あんまり不自由はないし、荒魂あらみたまだった頃に常に抱えていた恨みから解放されてすがすがしくすらあるんだけど。でもなんか急にこうなった理由がわからなくて不安だから、相談相手として君を呪術で呼んだんだよね。そこのところ、なんとかわからない? 財部の兄貴さん』

「おまえまで兄貴呼びするのかよ……」


 俺はうんざりして言った。

 とはいえ、相手は平将門。

 日本有数の祟り神であるし、未だに呪術が使えることもわかっている。無碍にしたら本気で祟られかねない。

 店長に助けを求めてもいいけど、確実に有料プランになるし……それに、この状況でここに駆けつけていないってことは、店長はたぶん、状況を理解していてなおかつ、助ける必要がないって判断したんだろう。

 なので、少し真剣に考えてみる。


「とりあえず、心当たりは?」

『ないから困ってるんだけど』

「そうだな……じゃあこっちから、仮説をいくつか提示するか」


 俺は考えつつ、言った。


「まあ、普通に考えると……『習合』したんだろうな」

『ベン図書く? ホワイトボードないから、机に直でやるしかないけど』

「その「しゅうごう」じゃねえよ。習合ってのは、違う宗教の違う神様が同一視される現象のことだ」

『ふむふむ。たとえば?』

「ヒンドゥー教のシヴァ神は大黒天として仏教に入って、大国主という日本古来の神と同一視された。こいつは七福神にも入ってる、神道でめっちゃ有名な神だ」

『はー。ほー。なるほど』

「財部の兄貴、詳しいな。家は神社仏閣か?」

「いや。これは高校の部活動で得た知識」


 感心する松島に、俺は正直に言った。

 いや……ゲーム同好会だったけどね……メガテンの悪魔の由来とか調べてたら、気づいたらえらく偏った知識が身についていたわけで。


『それはわかったけど、じゃあ私はいったいなにと習合されたわけ?』

「biim兄貴じゃね?」

『…………』


 そう。これならだいたいのことは説明できる。

 2011年頃から急激に日本の一部の動画サイトで盛り上がった、ゲームのタイムアタック実況動画。タイムアタックであるのに記録よりエンタメ性を重視し、必要あらばつまらない箇所は倍速する点、また細かい知識の補完のために独特の画面構造を作る点、その他チャートの完成度の高さや一部のネタの取り入れ方のうまさなどが評価され、最初の投稿者の名を冠して『biimシステム』と呼ばれたその形式は、『日本独自のインターネット文化』としてメディアにも取り上げられ、高く評価されている。

 そしてそのシステムの大きな特徴のひとつが、『解説にsoftalk等の合成音声を使用し、その解説するキャラクターとしてゆっくり系の誰かを採用する』というものである。

 もちろん他にもゆっくり、そしてsoftalkが使われている動画は存在する。だが、カテゴリレベルで大量の人間が参加し、さらにその文化の大本が一人の人間に絞られ、『親』等の語を使って崇拝の対象になっているbiimシステムカテゴリは、信仰の一種として解釈できる。


「で、平将門って言ったら首だからな。首から上だけ=ゆっくり=biimシステムって形で習合されて、祟り神要素が抜けてRTAの神に変容したってことなんじゃないか?」

『じゃあ私、これからメガトンコインの神になるの?』

「いや、その辺はまだなんか操作できる箇所あるだろ。クソゲーの神とかホモの神かもしれんし……」

『どっちも嫌ですぅーーーーーー! あーーーーー! なんで私がこんなことにぃーーーーーーー!』


 ゆっくり特有のしまらないsoftalk声で絶叫して暴れる平将門。


『どうして……どうしてこんなことに……』

「まあ……たしかにどうしてかはわからないんだけどな。習合されるにしてもなにかきっかけがないといけないし」

『こんなことならエロゲRTA動画を大量にマイリストしてなければよかった……むしろ最近ニコニコでそれしか見てないし……』

「明らかにそれが原因じゃねえか!」

『だってだってだって他人の解説でエロポイントを説明されるとなんかめっちゃエロく感じてぶっちゃけ直接絵を見るより興奮するっていうかいとをかしっていうこの感情を理解できないとかお前それでも男子かこのこのーーーーーーー!』

「話を逸らすな! あともうおまえは荒俣宏さんに謝れ!」


 祟り神じゃなくてエロ神だった。

 ふー、と一通り暴れておとなしくなった平将門は、急にシリアスな(ただしゆっくり)顔になった。


『しかし、そうだとすると少し深刻な問題が出てくるんですけど』

「なんだよ。平将門がゆっくりになった以上に深刻な問題があると?」

『いや、文通というかメル友がいてさ。藤原純友って言うんだけど』

「……まさか」

『同種カテゴリ扱いなんでたぶんあっちもゆっくりになってると思うんだけど、どうすればいいと思う?』

「知るかああああああああああああああああああああっ!」


 俺は絶叫した。



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 結局、ことは平将門についてはもう手遅れとして、藤原純友はなんか店長がうまいことするからということで一件落着を見た。

 そして平将門はというと、このビルの守護神として新たに祭り上げられることになった。屋上に社も建て直すらしい。

 名付けてゆっくり神社。

 ……ありがたくねえな。ていうか賽銭強奪されねえかな。元ネタ的に。

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