7-叛逆の物語は普通にハッピーエンドだと思うんだけど(後)
がー、と自動扉が開いて、入ってきたのは。
「ほれ紹介するぞ御前崎。このひとがこのコンビニの店長だ」
「どうも。店長です」
「って魔法少女にゃー!?」
御前崎が絶叫した。
「? なに言ってんだ御前崎。とうとう発症したか?」
「ひとを病気みたいに言わないで欲しいにゃん! それよりこのひと、どっからどう見ても魔法少女じゃないかにゃん!」
「なにがだ? 店長はちょっと黒マントと黒ローブをつけてつばの広い帽子をかぶるのが好きなごく普通の女子じゃないか」
「お兄ちゃんの目は節穴かにゃん!?」
よくわからんことを言ってぷるぷる震える御前崎。
と、店長が口を開いた。
「……ふむ。君はお兄ちゃんと呼ばれているのか」
「え? ああ、なんかそうみたいですね。べつになんか理由があるわけでもないと思うんですけど」
「ならば私は兄君と呼ぼう」
なぜに。
やだなあ。なんか出てくる女子みんなから兄と呼ばれてる気がする。そのうち妲己まで呼び出したら俺は泣くぞ。
「それで兄君。メールでだいたいの事情は聞いた。なんでも、その娘の不幸をどうにかして欲しいということだったが?」
「はい。そうなんですけど」
「かなり難しいな」
難しそうな顔で店長が言った。
「マジですか? 店長がそんなこと言うの、珍しいっすね」
「ああ。なんか知らんがその娘、呪われてるぞ。深刻に」
「ええー!? なんでにゃん、聞いてないにゃん!?」
がびーんと叫ぶ御前崎。
俺もさすがに驚いて、横から口を挟んだ。
「深刻な呪いなんですか?」
「深刻でない呪いなんてないよ。
なにか心当たりはないのか? 猫娘」
「猫娘じゃないにゃん。御前崎だにゃん」
「のぞみ、なにか心当たりはないのか?」
「なんで下の名前知ってるにゃん!?」
御前崎が絶叫する。
これ最初はびびるよなぁ。俺も「マジでこのひと千里眼か」とガクブルったものである。
実際には、自前の情報収集ルートで会う人間のプロフィールをあらかじめ調べ上げておいているだけらしい。
…………
いや、それはそれで引くけど。
「で、心当たりは? なんかそこはかとなく禿げた中年男の呪いのような気がするのだが」
「ああ、それなら四日前のあいつで間違いないにゃん」
「そうか。ではあと三日の命だな。かわいそうに」
「冗談じゃないにゃん!?」
「マジですか?」
「ああ。一週間後に効果を発揮するタイプだ。致命率50%程度かな」
あっさりと店長が言った。
御前崎は頭を抱えて、
「あんのハゲ……ホテルで部屋に入るなりいきなり抱きついてきたから頭にきてスタンガンで気絶させてお金だけ財布から抜き取って逃げただけだってのに、よりによってとんでもないことしやがるにゃん……!」
「いやおまえそれ普通に地獄に落ちる所業だと思うが」
「おまえじゃないにゃん。御前崎にゃん」
「黙れこのエセ猫」
店長はしばらく黙っていたが、
「よし。ではこのシールをやろう」
と言って、ポケットから黒いシールを取り出した。
「? なんだにゃん、このシール?」
「適当にかばんにでも貼るがよい」
「んー、わかったにゃん。よいしょ……っと」
ぺたり、と御前崎がシールを貼った。
「ああ、それでいい」
「でもこのシールってなんのご利益があるのかにゃん?」
「ああ。そのシールを付けるとだな」
「うんうん」
「死ぬ」
言うと同時に、御前崎の身体がごとんと地面に転がった。
「え?」
「ほら死んだ」
ぽかーんとしていると、御前崎の身体から霊体がむくむくと上がってきて、
『にゃ、にゃー! 死んでる、わたし死んでるにゃん!』
「……よくそれでその口調崩れないなおまえ」
『そりゃ普段から使ってないと崩れちゃうからにゃん。
……じゃなくて! どうしてくれるにゃん、これマジやばいにゃん!』
「大丈夫。そのシールで死んだ人間は決して成仏できない。たとえ生き返れなくても、永遠に浮遊霊としてこの世をさまようことになる」
『どこが大丈夫なんだにゃん!?』
「つまり死体がまだ蘇生の余地があるうちは、霊体的に取り返しがつかないことにはならないので。死体が腐っちゃったらもうダメだけど」
『さっさと戻すにゃーん!?』
大暴れする御前崎。
俺はちょっとだけ冷や汗を垂らして、
「だ、大丈夫なんですか? マジで?」
「はっはっは。大丈夫だよ兄君。たぶん」
『たぶんってなんだにゃー!?』
「よし、これで呪いは死んだと判定されて消滅だ。兄君、シールをはがしてくれ」
「え、ああ。はい」
ぺりぺり、と俺はシールをはがした。
「これどうするんですか?」
「えい」
ぼしゅっ。と、店長がライターでシールを焼いた。
「うあっちぃ!」
「よし、これで大丈夫だ。後はちょっと心臓マッサージしてやれば治るぞ」
「心臓マッサージ……って、自分がですか?」
「他に誰がいる」
「……店長はやる気ないんですね」
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「というわけでお兄ちゃん、おっぱい触ったから一万円にゃん!」
「生き返り際にいきなり元気だな……」
ていうか、いい加減懲りることをしろよ、こいつは。
「ああ、その一万円は蘇生料として御前崎が私に払うべきだな。そして私はそれを兄君にバイト代として渡す」
「な、なにーっ!? 完全無欠にロハになる仕組みができあがってるにゃん!?」
「ああ、呪いのお祓い料は別料金だぞ。メールで指定した額振り込むように」
「ううー、今回わたしマジただ損しただけにゃん……」
「振り込まないと呪いをかけるぞ」
「もう金輪際あんなのはごめんだにゃん!」
ぞぞぞっ、と鳥肌を立てて御前崎。
「まあ穏便に済んでよかったと言っていいのかな……」
「ああ、そうだにゃん。霊体になったときにちょっとインスピレーションが湧いたにゃん、お兄ちゃん」
「インスピレーションって霊感って意味あったよな。霊体で霊感って……まあいいや。なんだ?」
「新しい魔法少女もの企画だけどにゃ、こうなったら一部の業界で有名なひとを無理矢理二次創作的に魔法少女にしてしまうという手で行くといいのにゃ。そう、たとえば夜闇の魔法少女柊れんj」
「そこまでにしておけよエセ猫」




