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6-やはりトーキーは邪道だと思うのですよ(前)

「というわけでこのハリウッドと炊飯器を組み合わせたまったく新しい売り文句、『全米が炊けた』についての意見が欲しいのだけどどう思うかしら財部の兄さん」

「それ最近じゃむしろ古典じゃね。

 ……じゃねえ! というか、そんなことより遙かに聞きたいことがいろいろあるんだけど、まずそもそもなんでここにいるんだよ犯罪巫女!」


 牢屋の中である。

 いかにもグレイとか捕らえてます的な、簡素だがえすえふを感じさせる部屋の中で、巫女装束だけが超浮いてる。


『わたくしも、いまはそんな時ではないと思うのですよ。のりこさん』


 と、浮き上がってきたのは野依たえ。昨日の夕方にこの犯罪巫女、遠矢のりこの守護霊になった、元退魔師である。


「あ、ああ。そうだよな。こういうとき常識人がいると助かる――」

『新大陸の野卑な映画などに媚びを売ってどうするのです。この現代でこそ、我が大日本帝国独自の映画文化をですね』

「常識人じゃなかった!」

『というか、トーキーは邪道でしょう。やはり映画は弁士が解説してこその味がありまして』

「現代に無声映画作ってる国なんてほぼねえよ!」

『なんと』


 野依は目を見張った。


『嘆かわしい……それでは弁士さんたちは商売あがったりではないですか。おかわいそうに』

「そもそも弁士って、この令和の世じゃ見たことねえけどな……」


 時代が百年近くずれてる。

 と、そこで遠矢が首をかしげた。


「いや。いるわよ普通に。弁士」

「へ? マジで?」

「だって古い無声映画流すなら必要でしょ。伝統文化に近くなってるけど、私は実際に見たことあるわよ」


 遠矢の言葉に俺は新鮮な感動を覚えた。

 そうか……こうして文化は保存されていくんだなあ……


「って話がずれてる! そもそもおまえなんでここにいるんだよ!」

「なに言ってるのよ。兄さんがいるところに私がいることになんの問題が?」

「俺は拉致られてきたんだよ! ていうか、おまえもそうなのか?」

「そういうことになるわね」


 遠矢は言って、軽く髪をかき上げた。


「ユダヤ資本がえらく派手に動いてるから気になってつついてみたんだけど、やぶへびだったかしらね」

「おまえはまたそういう規模のよくわからん話を……」

「だってイスラエル軍関係だったら資産増加のチャンスじゃない。それでてっきり」

「……もうなんも言う気になれねえよ」

「でもなんで兄さんがいるのかはよくわからないわね。ていうか、この組織はなんなの?」

「MIBっつってたぞ。宇宙人でも監視してんじゃねえの?」

「ふうん。変なことしてる連中ね」


 言って遠矢は考え込み、


「資本主が誰かが問題よね……利益を得そうなのは……」

「おまえのその考え方はある種敬意すら覚えるな」

「やっぱロシア系かなあ。NASAは案外クリーンなのよね、私が調べた限りじゃ」

「俺に言われても」

「野依ちゃん、試みに聞くけどロシア語できたりしない?」

『できますよ?』

「マジかよ!」

『ええ。わたくし自身は参加してませんが、聞くところによるとひとつ上の世代は日露戦争の裏で呪術による妖怪大決戦を敢行していたらしく、露西亜語は基礎教養のようになってございました』

「うわあ……」

『かの有名な征露丸も、本来は呪術的な意味を込めた丸薬だったのですよ?』


 次々明らかになる衝撃の事実である。


「なるほどー。じゃあ出たらそっち系つつくかな。セキュリティは西側より甘めの傾向あるしね、あっち側」

「どうでもいいがどうやって出るんだよ。ことによってはずっと閉じ込められたままの可能性だってあるんだぞ」

「ああ、それは大丈夫」


 遠矢はあっさり言った。


「すぐ開くから。待ってれば」

「……え?」


 瞬間。唐突にすげえ警報が鳴った。


「うわ、なんだ!?」

「ほら兄さん、言ったとおり開いたでしょ?」

「え? あ、マジだ」


 遠矢が言うとおり、部屋の扉はあっさりと開いていた。


「でもなんでだ? ここぞと言う時に助けに来てくれるヒーローでも雇ったのか?」

「そんな生物実在するの?」

「いや知らねえけど。でもヒーローでないなら誰が――」

「私に決まってるじゃない」

「…………」

「捕まったときに備えて、念のために時限式のウィルスを仕掛けておいて正解だったわ。さ、さっさと出ましょ」

「もうやだこのクラッカー……」


 えすえふにはハッキングは付きものとはいえ、この用意周到さは空恐ろしいものがある。


「出ないの?」

「え……あ、ああ。出るけど」

「そう。じゃ、ついてきてくれる?」

「どこ行くんだ? ていうか、俺、妹探さないといけないんだけど」


 あとついでに一緒に拉致られた宇宙人も。


「え、ひよりん捕まってるの?」

「ひよりん……また微妙な愛称だな。

 まあそうなんだよ。だからちょっと探してくるんで、おまえらは一足先に逃げるという感じでここから先は別行動で」

「なに言ってるのよ」


 遠矢はあっさり言った。


「私がひよりん見捨てて逃げるわけないじゃない。見損なわないで」

「そ、そうなのか……?」

「ええ。それにこの組織乗っ取ってから探した方が効率的でしょ?」

「…………」

「じゃ、そういうわけで行きましょ。兄さん、野依ちゃん」

『かしこまりました』

「はぁ……」


 どこまでもオフェンシブである。遠矢。知ってたけど。

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