5-既知との遭遇(後)
「あら、意外と早かったですわねお兄さごはっ!?」
操縦室に腕を組んで仁王立ちしていた我が妹は、ねんどろいどミクダヨーの直撃を頭に受けてひっくり返った。
先制攻撃が肝心である。
「ななな、なにをしますのお兄様!? いきなり飛び道具とかタマとタマタマが惜しくないのですかしらね!」
「やかましい。つうかなんでおまえ俺に縄かけてあんなとこに放り込みやがった。説明しろコラ」
「え、ああ。それは縄が余ってたのでなんとなく、ノリで」
「アホかあああああ!」
絶叫する俺。
言うまでもなく、なんで俺がこのオチを理解してたかというと、例のすぐほどける縛り方がこの馬鹿妹のクセだからである。
手先が不器用なせいであれしか結べないんだよな、こいつ。
「というか、わたくしの方こそ聞きたいですわ。道中に手配してありました警備ロボはいかがいたしましたの?」
「あれだったら、『警備ご苦労さま』って手を振りながら来たら普通に通してくれたぞ」
「な、なんですってー!?」
がびーんと叫ぶ我が妹。
まあ、予想通り。
この妹のおつむ的に、警備システムなんて高度なものをまともに扱えるわけがないのである。
「どうせ、『不審者はやっておしまい!』とか適当なコマンド出してたんだろ。そんなもん、堂々としてりゃ引っかからんわ」
「ぬ、ぬぐぐぐ……! お兄様のくせに生意気ですの!」
「あのう……ちょっとつかぬことを伺いたいんだけど、ボク」
「なんですの!? いまわたくしは絶賛激怒中ですのよ!?」
「いやさ。なんでボクの兄者がそこに転がってるの?」
「ち、違うんだユリーカ! これは……!」
「えい!」
「げはっ!?」
妹のキックで車田飛びする宇宙人兄。
「いつ人間語を話していいと言いました? 豚は豚語を使いなさいと言ったでしょう?」
「す、すみませんブヒ! わたしが悪かったですブヒ! だからもっと踏んでください!」
「……うわあ……」
どうやってこの宇宙船を乗っ取ったのか聞くつもりだったが、この状況を見ると聞くまでもないな……
ユリーカと呼ばれた宇宙人妹はそれを見てかっとなって、
「な、なんてことするんだよ! 兄者を殴っていいのはボクだけの特権なのに!」
「あら。でもあなたの兄上はわたくしの足のほうがお気に入りみたいでしてよ?」
「そうですブヒ! キレが違うでブヒ!」
「うわああああああん! 兄者の馬鹿あああああああっ!」
ユリーカがマジ泣きした。
俺はどうしたもんかなーと思いつつも、
「まあいい。ともかくアレだ。帰るから地上に降ろせ、ひより」
「あら。お断りしますわ」
「なんで!?」
「だってせっかく宇宙パワーを手に入れたんだし、地球征服とかしたいじゃありませんの」
「そのポジションは宇宙人のもんだろうが! 地球人がやるんじゃない!」
「我々は皆宇宙人……そう、宇宙船地球号の乗組員ですわ!」
「いいこと言ってる風に装ってるが、やってることは脈絡のない侵略行為だからな!?」
つうかやばい。ここで妹を止めないと、まじめに地球の未来が危うい。
くそ、どうにかしないと……
「ところでおまえ、どうやってこのUFO操縦してるの?」
「それは簡単ですわ。この円盤は優秀な管理コンピュータによる自動操縦ですの。ねえ、ぴゅうた君?」
『イエス、マイマスター』
「いやおまえ、その名前つけるとすごい8bit臭がするんでやめたほうが……まあいいや。
で、なんでおまえマスターになってんの?」
「あら。ぴゅうた君は優秀ですもの。この場にいる中で最も立場の強い者を自動選別してマスターと認識するフレキシブルシステムを有しているのですわ」
「なにその自爆システム……」
「日和見システムって言うんだよ」
なぜか得意げにユリーカまで言った。
……大丈夫なのか宇宙文明。この調子だとわりと本気で心配なのだが。
まあいいや。とにかく、今回はそれで対処法がわかった。
「おい、ぴゅうたとやら」
『なんですか馴れ馴れしい。マスターでもないのに呼び捨てとは』
「俺はひよりの兄で、保護者だ」
『…………』
ぎょろ、と天井につけられているカメラが動く。
少しの沈黙。
『失礼しました。なんなりとご命令を、マスター』
「あああああああああっ! お兄様、なんてことを!」
「うるせえ黙れ。あー、とりあえずさっき飛び立ったところあたりに降りてくれるか? 適当に周囲には宇宙パワーで隠蔽してな」
『了解しました』
ひゅいーん、と軽やかな音がして、UFOが着陸態勢に入る。
「さ、帰るぞ。ひより」
「……まあ、しょせん思いつきの征服でしたし、べつにかまいませんけど。ところでお兄様」
「ん、なに?」
「家、燃えてしまいましたけど、どうします?」
「そうだったぁ!」
問題はなにも解決していない。
「ていうかそこの豚男に聞きたいんだが、なんであんなことやったの?」
「わ、私はこの前、不条理にひよりお嬢さんに投げられて……」
「怨恨の線か」
「いや。クセになってしまってな」
「最悪だ! つうかそういうキャラだった!」
「それでひよりさんにもう一度しかってもらおうと探していたら男が一緒にいたので、ついかっとなってレーザー砲を撃ってしまった。兄とは知らなかった。悪気はなかった」
「それを悪気と言わない文化は地球にはねえよ!」
「お兄さん! ひよりさんを私にください!」
「テメエに兄と言われる筋合いはねえ!」
「んー、ボク、もう兄者はどうでもいいや。縁切ろ。代わりにあなたを兄者って呼んでいい?」
「そ、そんな。ユリーカ!?」
「おほほほ。わたくしのお兄様を兄と呼ぶとは、そんなにわたくしのポジションを奪い取りたいのならば挑戦を受けてもよくってよ?」
「なによう偉そうに。地球では実妹より義妹のほうが、結婚できる可能性とかあるから立場が上なんだよ。ボク知ってるもん」
「その知識間違ってるけどな」
ていうかここでもエロゲ時空の話か。滅びればいいのに。
「ふ……なんとでも言いなさい。ユリーカ、あなたにはわたくしにはない大きな欠陥を持ち合わせていることに気づいてなくってよ?」
「な、なんだよそれっ。ボクは妹として完全無欠であろうと日々努力してるんだからねっ」
「簡単なことですわ。
――この作品のタイトル、一度思い出してご覧なさい?」
「……………………」
「………………」
「…………」
ユリーカのほほに、冷や汗が伝った。
「ぜ、前科……ないとダメなの?」
「そういうことになりますわよね?」
「で、でもボクいちおう南オクラホマ星の王女だし、ちょっとそれは……あ、でもそうか。地球の基準だとボク、もう前科持ってるかもしれない」
「ちょっとそれは聞き捨てならんが……なんだその前科って」
「地球征服未遂」
「おまえも征服する気だったんかい!」
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そんなこんなで着陸した。
「まあ、家はボクが宇宙技術でなんとかするよ。たぶんどうにかできると思う」
「そっかー。便利だな宇宙」
和やかに話しながら宇宙船のタラップを進む俺たち。
「ううう……ユリーカ、考え直してくれ! あ、アレはちょっとした気の迷いなんだ!」
「いやあ……ちょっとさあ。あそこまでブヒブヒ言っといて気の迷いはもう無理だよ、元兄者」
「う、うわああん! なんでこうなった!」
「いや、身から出たサビ以外の何物でもないだろ」
というか、うちの妹なんぞに入れ込むのが悪い。
身内だからよくわかるが、どう考えても核地雷だろうこいつ。
「なにか不埒なことをお兄様が考えてる気配がしますわ……タラップから蹴落としてもいいかしら」
「いいわけねえだろ。ほら、降りる……ぞ?」
下っていく途中で、俺はそれに気づいた。
UFOを取り囲む、日本人離れした体躯の集団。
全員が黒スーツ黒革靴黒ネクタイに身を固めた黒帽子の偉丈夫で、それがずらりと並んでいる。
その一人がこちらに丁寧に礼をして、それからこう言った。
「こんにちは。MIBの者です。……ご同行、いただけますか?」
どうやら。
まだ、今日の夜は、終わっていないらしい。




