5-既知との遭遇(前)
「ありのままにいま起こったことを話しますわお兄様。わたくしが帰ると家が焼失していたのです。なにを言ってるのかわからないと思いますが……」
「いやわかるよ! めっちゃ焼け落ちてるよ家! なんなんだよこれ!」
絶叫。
かつて我が財部家があった場所には、木材の燃え残りとおぼしきものがあるだけの、残骸が残っているだけだった。
「つーか、家計簿! 預金通帳ー! 銀行印も確実に燃えてる! あーもう、これどうすりゃいいんだー!」
「ご安心くださいお兄様。こんなこともあろうかと、警察には通報しないでおきました」
「しろよ! なんでしないんだよ!」
「だってお兄様。通報してしまっては犯人が警察にマークされてしまいます。それでは私刑できないでしょう?」
「そんな理由で通報控えるな! ていうか待て。それ以前に、なんで事件性のある案件だとわかるの?」
「だってわたくし、恨まれるアテは山ほどありますもの。そのわたくしの家が燃えて事件でないはずがないでしょう?」
「偉そうに言ってるが、要は身から出た錆ってことじゃねえか!」
「錆……それは鉄分の酸化作用。酸化作用すなわち燃焼ですわ。あら、火事といい感じにつながりましたわね」
「よくねえようまくねえよ人生やり直せ!」
頭を抱えながら言う。
ああもう、こういうのが嫌だから俺は平穏に過ごせる人生を送ってるというのに!
「つうか、せめて直近のに絞っていいから、こういうことをやられる悪質な相手の心当たりとかないの?」
「んー、そうですわね……直近だと……たぶんあれですわね」
「あれ?」
「ええ。ちょっと電波の入った酒飲みに『俺はナントカ星の王子様だから俺と付き合えばお姫様だぜー?』とかナメた口をききながら肩に手を回されたので、ついぶん投げてしまったのですが」
「それは……こう、コメントに困る相手だな……」
言ってること自体は法には触れないものの、なんか無性にセクハラに近い嫌気が差す言葉ではある。
「で、でも言動が電波だからってそいつのせいというのは、さすがにちょっとおおざっぱ過ぎるんじゃ……」
「あら。でもお兄様。根拠はそれだけではないのですわよ」
「ん、他になにが?」
「上をごらんください。明らかに未確認飛行物体的なブツが、レーザー砲の照準をこちらに向けておりますわよ?」
「んぎゃあああああああ!? マジもんじゃねえかああああああ!」
叫んで俺は走り出す。即座に、レーザー砲が俺のさっきいた場所を撃ち抜いた。
ひよりはのんびりとそれを見守りながら、
「お兄様。わたくしを置いて一人で逃げ出すのは、少し薄情じゃありません?」
「やかましいわ! つうかあれ、なんかさっきから照準が俺を狙ってるように見えるんだが!? なんでおまえじゃなくて俺なの!?」
「日頃の行いのせいじゃございませんの?」
「おまえにだけは言われたかないわぁああああああああああ! ちくしょうどこだ! 警察、いやそうじゃない、地球警備隊とかないの!? このあたりに!?」
ばきゅんばきゅんと連打されるレーザーから逃げながら叫ぶ。
「よく避けれますわねお兄様。上を見ながら走ってるわけでもないのに」
「運だよ! そしてなんで俺がこんな運を天に任せる系ピンチに遭わねばならんのじゃあ!」
「あらお兄様。あちらをごらんくださいませ」
「無茶言うな! そんな暇ねえよ!」
「でもほら、もう一機援軍とおぼしき円盤がこっちにやってきましたわよ?」
「どーしてここでさらにピンチになるんだよ!」
「わたくしに言われましても……あら?」
「どうした!?」
「いえ。後から出てきた円盤が、前の円盤を攻撃してるので」
「うお、ホントだ!?」
なにこの宇宙大戦争。
後から出てきた円盤は、実弾兵器っぽいものをどぱらたたたと撃って前の円盤に攻撃。
前の円盤も慌てて交戦しようとしていたが、いかんせんこっちに砲門を向けていたせいか動きがにぶく、直撃をいくつも食らってしまった。
「おお! やったぜ正義の円盤! やっぱり悪は最終的に滅びるんだな!」
「……結果的に自分の身が守られただけで正義とか悪とか言い出す兄の頭が少々本気で心配ですが、それはそれとしてお兄様?」
「ん、なに?」
「あの円盤、こっちに落下して参りますけど、避けなくてよろしいのですか?」
「んぎゃー!?」
--------------------
「で、気がついたらなんでこんな状況?」
「ボクに言われても困る」
縛られた俺が言った言葉に、やはり縛られた女の子が言った。
どうやら、場所は倉庫みたいなところのようだが……置いてある物品がなんか無国籍。
マトリョーシカとねんどろいどを同じ場所に置くなよ……
「というか、ここどこ?」
「宇宙船の倉庫だよ」
「宇宙船……? なに、俺、宇宙船に詰め込まれたの?」
「まあねー。いわゆるひとつのアブダクションってやつ?」
「気楽に言われても困るんだが……そっちは? やっぱりどっかでさらわれた?」
「いやボクはこの宇宙船の船長」
「誘拐犯側じゃねえか!」
しまった。つい油断した。この状況で会う奴がまともなやつのはずがないじゃないか。
「なにか失敬なことを思われてる気がするよ」
「失敬でもなんでもねえよ。つうか、なんでおまえまで転がされてるの?」
「それがよくわかんないんだよねー……時系列を追ってもどうにも腑に落ちないっていうか」
「とりあえず俺がここにいる理由も含めて詳しく」
「うん。まあ、簡潔に言うとさ」
「ふむふむ」
「ボクの兄者が地球人にうつつを抜かして勝手に女の子を漁ってたからむかついて撃墜したんだけど、そのあと兄者を回収しようとしたら頭にがつんと衝撃が走って、気づいたらこんなことに」
「…………」
はいはーい。よい子の賢い読者諸君。以後、今回のオチをばらすの禁止でーす。
「なにか心当たりない?」
「ありまくる。ただ、なんで俺が狙われていたのかはその説明だと一切わからんが」
「ボクに聞かれてもわかんないよ」
「はぁ……使えないやつだな」
「やっぱり失敬だねキミ!」
「まあいいや。じゃあとりあえず脱出するけどおまえどうする?」
「脱出って……え、でも縛られてる状態でどうやって?」
「こうやって」
俺はそう言って、ぱらっとあっさりひもをほどいて立ち上がった。
「うわ、なんで解けるの!?」
「いや、この結び方マジ簡単に解けるんだよ。ほれ、おまえも解いてやるからちょっとこっち向け」
「……ぱんつ見たら殺すよ?」
「誰が見るか!」
言いながら、ぱらっとほどく。
「ホントだ。というか、これひょっとしてボクも手をちょっとひねればほどけたんじゃあ……」
「だからそういう結び方なんだって。ほれ。いくぞ」
「え、行くってどこへ?」
「操縦室とか艦橋とか、そういうとこってないの?」
「あるけど……でも、警備ロボとかが行く手を遮ってると思うよ。敵に乗っ取られた以上は」
「警備ロボかあ……なんとかならねえの? たとえばおまえが手を交差させるとビームが出て敵大爆発とか」
「なんで光の国基準なの? 普通に光線銃とか使おうよ、宇宙人として」
「俺は宇宙人に光の国ネタが通じたことのほうがびっくりだよ。
……まあ、実はなんとかするアテはあるんだけどな。てなわけで案内してくれる?」
「わかったー。こっちだよ」
というわけで、俺たちは歩き出した。




