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4-金竜山かっこよかったよね(後)

「ふ……帰ってきたわよ、女狐!」


 河原にて。

 桜は自信満々に、そいつに向かってびしっと宣言した。


「あァ?」


 対して、その女はぎょろりと目をこちらに向けた。

 ロングスカートに木刀にマスク。

 うわあ……こんな典型的スケバンぽい人間、初めて見た。

 恥ずかしくないんだろうか。ついでに夏場はかなり暑そう。


「なんだよ負け犬さんかよォ。性懲りもなくまた来たのかァ? ん?」

「その威勢も今日までよ。今日は、とびっきりの助っ人を用意してるんだからね!」

「……助っ人頼りなのに無駄に威勢いいよな、おまえ」


 ジト目で言う。

 というか、ここに来るまで用件をちゃんと説明されてないのですが。


「あのさ。俺、女の子とは戦いたくないんだけど」

「大丈夫。戦うのはちゃんと男とよ」

「はン。その通りだ。――カモン、マイダーリン!」


 女の言葉に応えて、一人の男がぬっと姿を現す。


「ははは、アタイのダーリンは最強だぜェ!? なんたってこのアタイが選んだ男なんだからな!」

「時給八百円だっけ?」

「う、うるさい! それは言うな!」

「彼氏を金で買うとか……はっ、情けないにも程があるわね。同じ女としてげんなりだわ」

「やかましいわ負け犬! その金ですら彼氏を買えないいくじなしのくせに!」

「うううううるさい! アンタほどあたしは終わってないの!」

「……すごい帰りたい……」


 なにこの低レベルな喧嘩。

 まあ気を取り直して、俺は男の方を見る。

 すげえガタイがいい。

 いちおう俺も長身なほうだが、相手のほうが10センチはでかいんじゃなかろうか。

 筋肉量もプロレスラーかってレベルだし……うわあ。やばそう。

 やってる武術は……


「ええと……剣道っすか?」


 俺が言うと、男はうなずいた。


「よくわかるな。足か?」

「そうですね。足運びには特徴が出ます」

「そうか……なるほど。わかるものか」

「武器はないんですか? その木刀を借りるとか?」

「いや。いくらなんでも女子中学生のキャットファイトに武器持ち出したらいかんだろう」

「あー……そうっすね」


 常識人だ! 俺は不覚にも感動した。

 最近へんなのばっかりと会ってたからなあ……


「まあ、しかし雇われた以上は金額分働くわけだが。

 君はどうだ? なにか義理でもあるのか」

「いや、成り行きでちょっと。

 まあ、腕試しってことにしときますよ」


 言って、俺は軽くジャンプして足の具合を確かめる。


「ボクシングか?」

「そんなとこです」

「ふむ。面白い。

 ――では、始めるか」


 男が言った直後。

 弾丸のように飛び出してきたその男のタックルをサイドステップでよけながらジャブ。対応して回し蹴りを放つ男からスウェーして離れ、さらに踏み込んできた相手の手刀をパーリングしつつ目潰し代わりのジャブ。そして離脱。


「アウトボックスか。こざかしい。

 だがそのスタイルがいつまで持つかな!?」


 言って男は再び弾丸のように飛び出してくる。カウンターで当てたいところだが、この体格差だと普通に倒せない可能性があり、そうすると一気に不利になる。

 だから再びサイドステップしつつジャブを当て、離脱――しようとしたのだが、相手はジャブを強引に無視してこちらを掴もうとしてきた。全身に怖気。とっさに手で払い落としたが、相手の射程にモロに入っている。拳が振り上げられ、俺は防御の構えを取り、


「ふん!」

「ぐえ!?」


 防御の上から叩かれて軽く吹っ飛ばされてたたらを踏む。

 やば――ここまでパワー差があるのか!

 防御してもダメージが通るとなると、正攻法は無理だ。しかもまだ相手は近い。こうなれば――


「うりゃ!」

「む!?」


 相手に抱きつくようにしてしがみつく。


「クリンチ……!? 試合場でもないのにそんな技法が通用すると――」

「いやあ、そりゃ違うっすよ」

「なに? ……!」


 相手が驚愕したのがわかる。

 ボクシングスタイルだった俺のスタイルは、すでにぜんぜん違うものに変わっていた。

 その手は、相手の背中までまわり、ズボンのベルト部分をつかんでいる――そう、


「相撲は経験ないっすか? がら空きっすよ」

「な、なんだと……!」

「知ってるっすか? 相撲ってのはね、タックルからのテイクダウンに特化した格闘技なんすよ。そのままじゃ使いにくいっすけど、ちょっとアレンジすれば実戦でも十分使える……ってね!」

「う、うおおお!?」


 投げた。

 上手投げで、相手を思いきり転がし、あおむけになったところにマウントを取って、鉄槌を――

 振り下ろす直前で、ぴたりと止める。


「……と。このへんにしときます?」

「そうだな」


 相手は笑った。

 俺は相手の上からどいて、手を差し出す。


「ナイスファイトっす」


 相手は吐息して、その手をつかんで立ち上がった。


「すっかりやられてしまったな。……体格差はかなりあったはずだが、見事だ。どこで鍛錬を?」

「親父に習ったのと、妹と喧嘩してるだけっすよ」

「それでここまで強くなれるのか。よい才能だ」

「まあ、しょせん遊びっすよ。武器持ってるあなたにゃ勝てる気がしませんしね」

「そりゃ、本業だからな」


 言って男は、剣呑に笑った。

 桜はなぜか少し不満そうに口をとがらせ、


「むう……なんかえらくさわやかに勝ちやがったわね」

「おまえは俺にどんな残虐ファイトを期待してたんだ」

「まず金的」

「妹じゃあるまいしそんなんやるか!」


 というか、風評被害だよなこれ。あの妹のせいで俺までへんな風に見られてる。


「ぬぐぐ……こら彼氏! 貴様なんで負けてんのじゃコラァ!」

「仕方ないだろう。実力勝負なんだから、上手なほうが勝つ」

「ううう……くそ、仕方ない。今回は負けを認めてやる。だが見てろよ。次は、次こそは泣かしてやるからなァ! あっはっは!」


 言って女は、無駄に偉そうに高笑いする。

 ふと、気になった。


「ところでおまえら、元々なんで喧嘩してたの?」

「「こいつがあたし(アタイ)のおやつを食べた」」

「……仲良しじゃねーか」

「「どこが!?」」

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