0-序
「時にお兄様。中学2年生であるところのわたくしは少年法で前科というのは帳消しにされるはずなので、このタイトルは看板に偽りがあるのではありませんか?」
「ええい、出だしからメタネタ禁止!」
ぶつぶつつぶやく妹を制止する。
まったく危険な妹である。だいたい、『俺の妹は補導歴6回』では語呂が悪いじゃないか。
細かいところには目をつぶるものだ、うん。
「お兄様。こちらのネタを禁止しておきながら自分で引っぱるのはいかがなものかと」
「うるさいよ。つーかなんだよ。おまえ今度はなにやった」
「いえ。ちょっと繁華街にて酔漢さまの股間にドリルキックをば」
「またそんな外道な……からまれてうざいからって、やっていいことと悪いことがあるんだぞ」
「うふふ、それは勘違いですわお兄様。わたくしはからまれたからキックしたのではなく、自分から喧嘩を売ったのです」
「より悪いわ!」
「だって相手が酔っ払いなら、よほどのことがない限り世間は相手が悪いと思いますでしょう?」
「最悪だー!」
というか、そのメッキが剥がれているから補導されるのだが、この妹にはその自覚がないのだろうか。
ないんだろうな。馬鹿だから。
「いま、微妙にお兄様のこちらを馬鹿にする目線が気になったのですが、股間蹴っていいですか?」
「机の向こうから蹴れるもんなら蹴ってみろ。
つーか、そのけんかっ早い気性はなんとかならんのか、マジで……まあいい。ほれ、差し入れだ。ココアシガレット」
「お兄様。火」
「ココアシガレットに火ぃつけてどうする気だテメエ。つうか、おまえここで吸う気?」
「まさか。タバコはもうこりごりです」
「ダメだこいつ。早くなんとかしないと……」
当然ながら、ここは留置場であって、怖い人に監視されているのだが。この妹の度胸はちょっとすごいものがある。
いや、やっぱ馬鹿なだけだな。
「しかしそれにしても、差し入れにココアシガレットとはなんとも気の利かない兄ですね。思春期の妹を餌付けすればどうにかなるというさもしい発想にがっかりです」
「おまえな……なにが望みだったんだよ。ファッション誌とか?」
「いえ。ただ脱走に必要な器具を用立てて頂ければと」
「死んでもやらん。つーかおまえは一度マジで塀の中に入ってこい」
半眼で言う。
「というかなあ。おまえちょっと平和なことできねえの? マジで俺、もう留置場来るの飽きたんだけど」
「麻雀は役のひとつすら知りませんの」
「平和なことじゃねえよ。つうか知ってるじゃねえか」
「まあ、まじめに申しますが、わたくしだって平和な活動も致しますわよ。最近は中学でも同好会に所属していたりしますし」
「なんて同好会?」
「前科者クラブですの」
「嫌すぎる! つうか認可降りねえだろそれ!」
「あらやだお兄様ったら。正式な部活動ならともかく、同好会なら教師の許可はいりませんわよ。お兄様も通っていらしたんだからおわかりでしょう?」
「そういえばあの中学はそうだったな……いや。しかしその名前のクラブに複数人いるというのはちょっと、それだけで嫌なんだけど」
「大丈夫。普段は別の名前で隠蔽しておりますから。実態を」
「どんな名前で?」
「BL同好会ですの」
「よし。帰ったら家族会議な」
「失敬ですわね。このBLというのはブラック・ラビリンスというれっきとしたエロゲのタイトルですのよ。ちゃんとした異性愛ものですから腐ってはおりません」
「エロゲでも家族会議だよ! なにやってんだおまえ!」
「失敬ですわね! わたくしが興味があるのは主人公と武器屋のおじさまのカプだけですわ!」
「やっぱ腐ってるんじゃねえか!」
そんなことを騒いでたら警部さんから超怒られました。
おのれ。頼むから俺を巻き込まないで欲しい。