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こっくり少女と化や奇の類  作者: ハコオシ
4/4

#1ー4

「なんでわかったの?」

行方不明であった少女、上野莉理は開口一番、私たちにそう訊ねた。

「あなたが、上野莉理さん……?」

友梨がおずおずと訊ねた。私たちが上野莉理をしっかりと顔を合わせたのは、これが初めてである。

「そうだけど……」

その声には、警戒の色が感じられた。

「答えて。どうして私がここにいるってわかったの?あなたたちは何なの?」

上野莉理は重ねて尋ねてきた。緊張した空気が、部屋を覆っている。

こちらも訊きたいことはたくさんあるが、まずは私たちのことを話さなければ、話は始まらないだろう。

「私と友梨は友達で、同じ2年A級なの」

私は上野莉理に説明し始めた。「私たち、学校が終わった後とか休みの日に、占いをしてるの」

「占い?」上野莉理は首を少し傾げた。警戒心を抱く一方で、私たちに対する興味がわずかに沸いたのかもしれない。

「うん。訪ねてくる人の運勢とか占うんだけど、それだけじゃなくて、探偵業というか何でも屋というか、探し物の依頼とかも受けてるの」


「上野さんを探し始めたのも、依頼を受けたから」

「誰に?」上野莉理が訊ねる。

「ごめん。それは言えない。依頼主の希望で」上野莉理に対して説明をするとき、あくまで鈴の意向を尊重することを、私と友梨は事前に確かめておいた。

「言えないけど、でも、上野さんのことを本当に心配してる人」

誰か言わなければ、上野莉理の警戒心は解けないだろう。

それを彼女に明かすことは出来ないけれど、少なくともその依頼者――栗本鈴は、善意から彼女の捜索を私たちに依頼したことを伝えておきたかった。

「……わかった。でも、どうやって、私がここにいるってわかったの?」

依頼者については、上野莉理は一旦諦めたようだ。その代わり、今度は私たちが彼女を見つけた手段――すなわち『こっくりさん』について質問してきた。

美香も私たちのほうに顔を向けた。『こっくりさん』については、美香にもまだ話していない。これについては美香も気になっているはずだ。

――ここからが大切だ。丁寧に説明しないと。

「それなんだけど……、上野さんは『こっくりさん』って

、知ってる?」

「『こっくりさん』?」

突然出てきた、場違いな単語に、上野莉理は拍子抜けしたような声を出した。

「そう、『こっくりさん』。五円玉と文字を書いた紙で、いろいろ質問するあれ」

「知ってるけど……」

いきなり一見関係なさそうな単語が出てきたために、上野莉理は戸惑った表情をしている。

「さっき、私たちが占いをやってるって言ったよね?それ、『こっくりさん』を使ってやってるの」

ここで私は、横に立つ友梨を彼女に示した。

「この子、友梨が中心になって、私と、その時その時の依頼者の三人で『こっくりさん』をするの」私は説明を続けた。「依頼者が占いたいを『こっくりさん』に質問するって形で」

「へえ……」

上野莉理は疑いの表情を浮かべていた。

「その子が中心って、どういうこと?」

上野莉理は友梨に目を向けた。

「そのままの意味。占いの才能があるのが友梨なの」

私は答えた。実際に見てみないと理解してもらえないだろうが。

「……ほんとに当たるの?」

やはりすぐには信じてもらえないようだ。

「私が知っている限りでは、友梨がする『こっくりさん』は当たってる。全部が全部、はっきりと当てて見せる訳じゃなくて、時々出された答えが遠回りだったり、解りにくかったりするけど、結局は当たってる」

私は、上野莉理の目を見て、意識的にはっきりと伝えた。

「あ……いや……」

謙遜した友梨が、控えめに首を振ったけれど、私は畳み掛けた。

「上野さんがここにいるって分かったのが、何よりの証拠。」

納得したのだろうか、上野莉理は静かに一回頷くように顔を動かして、それ以上質問して来なかった。



「どうして、上野さんは学校に来なくなったの?」

今度は私が、上野莉理に質問した。

今回の一件の根幹。なぜ彼女は失踪したのか?

「それは……言えない」

上野莉理はしばらく沈黙したあと、そう答えた。

「何か危険なことに巻き込まれてるんじゃないの?」

私は食い下がった。

あの男たちのことが頭に浮かぶ。上野莉理は誰かに狙われているのではないだろうか?

「……言えない」

上野莉理は頑なに首を振った。

四人の間に沈黙が流れる。


「お願いがあるの」

上野莉理のいきなり口を開いた。私たち三人は、彼女を注目する。

「何?」美香が訊ねた。

「連れていって欲しいところがあるの。一緒に来て欲しいの美香だけじゃなくて、出来れば、二人も一緒に」

「えっ……どこ?」

美香が戸惑い気味に訊ねた。

「……交番」

上野莉理はポツリといった。

「交番?」

私は訊ねた。「どうして?」

「……話さないといけないことがあるの」上野莉理は言った。

「えっ、それは、私たちには話してもらえないの?」私は彼女に訊ねた。

あまりにも唐突で、不可解だ。

「……うん。これ以上、迷惑かけたくないから」

どうして、交番に行くのか?私のみならず、美香も友梨も抱いているであろう疑問をよそに、彼女は目を伏せた。

――上野莉理は何か、そういう悪いことにしてしまったのだろうか?

警察に話さないといけないということは、そういうこと――つまり犯罪とか、いけないことに彼女が関係しているということである。

私はこの上野莉理の発言に勘ぐってしまった。

――いや、彼女自信が悪いことをしているとは限らない。

上野莉理が、ストーカーとか、危険なことに巻き込まれていて、今初めて、警察に相談することを決心したのかもしれない。あの男たちのことを考えれば、この可能性の方が妥当である。

いずれにせよ彼女の意思を尊重するほかないようだ。

「いつ行く?」

私は上野莉理に訊いた。すると彼女は「今からいい?」と返した。

「今から……」

美香が驚いて言った。驚くのも当然だ。

「ごめんね、美香。いきなり家に来て、今までお世話になったのに」

上野莉理は美香に詫びた。

「何も話せないの。ごめん……」

その顔は申し訳なさのために(かげ)っていた。



この前の『こっくりさん』はこの事を言っていたのだろうか?

あの日の夜、私一人でやってしまった『こっくりさん』で、『こっくりさん』は上野莉理が「あさって」、つまり今日、美香の家を出ることを予言していた。

それだけじゃない。昨日、美香が襲われたことも……。

「交番って、どこの交番?」

荷物を持った結衣は、同じく荷物をまとめている上野莉理に訊ねた。

「……街の中心にある交番でいい?」

学生鞄を持った彼女は答えた。そんなに荷物は持ち込んでいなかったらしい。

「ちょっと、遠いけどどうする?歩いていく?」

結衣がさらに訊ねると、「バスで行こう」という返事が返ってきた。

私と結衣、美香、そして上野莉理の四人は、美香の家を出た。

「莉理……ほんとに大丈夫?」

美香の家の玄関の前、静かな空気が漂うなか、美香が上野莉理に声を掛けた。

「うん……ありがとうね、美香」

上野莉理が足を止めて、美香の方を向いて言った。

優しく微笑むその顔は、何かの秘密を独り抱えているような寂しい笑顔だった。

私たちは、中心街に向かうバスが止まる、美香の家から最も近いバス停に向かい、四人でバスに乗り込んだ。

――これで終わりなのかな……?

これで、この一件は終わりなのだろうか?行方不明になっていた上野莉理は確かに見つかったけれど、なんで莉理が行方不明になったのか、その秘密は明らかになることはなかった。それに、どうして莉理は交番に行くと言っているのか?

バスの座席に座った彼女は、鞄を胸の前に抱え、俯き気味に何も口を開かないで座っている。

上野莉理に何があったのか、何が起きているのか?何も分からないまま、バスは中心街に向かって走り出した。



バスは中心街の近づき、交番に最も近い停留所で私たちはバスを降りた。

この街で一番発展している中心街には、デパートや証券会社、大手商社の高層ビルが立ち並び、長いアーケードが覆う大通りにはいくつもの飲食店が連なっている。

中心街を十字に走る4車線の車道には、数えきれないほどの車が、大きな音を立てて行き来している。

交番は、その十字路にある。

方角的には、交番は北西側――「十」の字の左上の角に位置する感じだ。

バス停を降りて、交番の方へ向かう私たちは、十字路の横断歩道の南西の角で、信号が変わるのを待っていた。交番は私たちが今いる場所の向かいにある。

私と友梨が並んで前に立ち、後ろに美香と上野莉理が立っている。

――なにがあったんだろう。

歩行者用の信号の横に併設された、次に信号が青になるまでの秒数を表示する電光パネルの10秒刻みのカウントダウンを見ながら、私は考えていた。

結局、移動中、上野莉理の口から何か語られることはなかった。

あと10秒ほどで、信号が青になる。

交番で、上野莉理は何を話すというのだろう?

「えっ、莉理!」

突然、私と友梨の後ろの方で、美香の驚きの声が上がった。

私は声に振り返った。

私たちが見たのは、私たちの右手側にある、横の横断歩道を走っていく上野莉理の姿だった。その横断歩道の信号はすでに赤に変わっている。

「莉理!」

「あぶない!」

上野莉理を追おうとした美香を友梨が制止する。止まっていた車が、信号が青に変わったのを受けて、動き始めていたのだ。

上野莉理は横断歩道を渡りきって、交差点の反対側に到達していた。彼女は、私たちの目を盗んで、赤信号に変わる寸前か、赤に変わったがまだ車が動き出していない状態の横断歩道を駆け出していたのだ。

「莉理!えっ!?」

彼女の行動の意味がわからなかったのだろう、美香は横断歩道の手前で戸惑ったように右往左往していた。

だが、それは私たちも同じだ。

私は、交差点の向こう側に渡ってしまった上野莉理に目を向けた。前を走り抜ける車の間に見えたのは、上野莉理が、取り残された私たちに構わず、街の人混みのなかに消えていく様子であった。

――なんで!?

私は咄嗟に、彼女を追いかける術を模索した。

しかし、この位置、この状況では、彼女に追い付くことは出来ない。眼前の道路には無数の車が隙間なく往来し、例え信号を無視しても渡ることは不可能である。

「莉理!」

美香が上野莉理を呼び止めようと再び声を上げた。しかし、それは走り始めた車の騒音にかき消されて届かなった。



上野莉理が渡った横断歩道の信号がやっと青に変わり、私たちは反対側の歩道に渡った。

そして、すぐに私たちは上野莉理を探したが、すでに遅く、辺りに彼女の姿は見えなかった。

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