第73話 農民、穴の中に入ってみる
「あ、何だか、変な穴が開いてるな」
なっちゃんたちと別れた後、引き続き、『鑑定眼』を使いながら、平原を歩き回っていたら、草があまり生えていない区画へとたどりついた。
黒い土がむき出しになっていて、ちょっとした荒地のようになっている場所だ。
その黒土が広がっているところの、ちょうど真ん中のところに、ところどころ、大きめな穴が開いていたのだ。
「何だか、おむすびとか転がって行きそうな穴だな」
俺の顔の大きさぐらいはあるだろうか、それがまっすぐの穴になって、ずっと下の方まで続いていた。
ちょっとのぞき込んでみても、奥の方がどうなっているのかわからない。
本当に、童話に出てきたような、おむすびを投げ込みたくなるような穴だ。
周りを見ると、似たような穴がちょっと離れたところにもいくつか開いているようだった。
うーん。
これって、もしかして、さっき出会ったワームとかが掘った穴か?
そういえば、スキルに『穴掘り』ってのがあったし。
でも、さっきのワームは地面に潜るのと一緒に、穴を埋めて行ってしまったんだよな。
こんな風にずっと先まで穴が開いているのって、ちょっと不思議ではある。
と、他のゲームにあったイベントを思い出す。
「そういえば、ワームが掘った穴が地下ダンジョンになってるって仕掛けのもあったよな」
ひょっとすると、この穴、地下のどこかに通じていたりして?
まあ、普通に考えると、この穴の小ささだと、人間じゃ入っていけないだろうけどな。
これ幸いというか、俺の場合、別の方法があるし。
「穴の周囲を掘りながら、奥まで進んでみるか」
案外、ワームの掘った穴ってだけで、そのままワームに遭遇して終わりなだけかもしれないが、それならそれでいいし。
最悪、どこかで穴が崩れても、自前のスキルを使って、地上まで戻って来ればいいだろう。
生き埋めになっても、土の中で呼吸できるし、地上まで掘り進んでいくのも、ラースボアの時に経験済みだ。
ふふ、どこに通じてるのかわからない穴を進むのって、冒険っぽいよな?
まあ、ゲームじゃなければ、おっかなくてできないけど、こういうのを楽しめるのもVRMMOの醍醐味だろう。
よし、そうと決まれば、穴に沿って、掘りながら進むぞ。
俺は『爪技』スキルを使いつつ、穴を広げて、その中へと入った。
「おっ? 広いところに出たぞ」
しばらく掘り進んでいくと、大分深くまで潜った辺りで、大きめな横穴へと繋がった。
これって、もしかして、元からあった地下洞窟か?
途中から爪を使っても掘るの大変になっていったんだが、元々の穴が少しずつ大きくなっていたおかげで、何とか俺の身体が入る分の穴は開通させることができた。
最後の方はかなり硬い岩盤みたいになっていたようだし。
ともあれ。
おかげで助かったので、そのまま、大きな地下道へと降り立った。
昨日行った、採掘所の坑道よりも少し広いかな?
「これって、自然の洞窟なのか? それとも、ワームが掘った穴なのか?」
もし、これが掘った後の穴だとすると、相当に大きなワームがいるってことになるので、そっちに関してはあんまり想像したくないな。
この『PUO』を始めてから、毎日のように変なモンスターと戦っているし。
今日ぐらいはそんなのと、遭遇しないといいんだが。
「あ、『鑑定眼』に反応があった……てか、こんな光が差さないところにも植物が生えているんだな」
穴から降りると、そこには北と南の方にそれぞれ伸びている道があったので、まずは北へと向かう方の道を先に進んでみた。
そちらの方に、『鑑定眼』に引っかかる反応があったからだ。
ただし、『鑑定眼』の内容についてはわからない。
なぜなら、表示されているであろう文字が読めないから。
俺自身も、何となく、対象となる場所に草っぽいものが生えている、ぐらいしか感じることができないし。
とにかく、この洞窟、光が差し込まないため、ほとんど真っ暗なのだ。
正直、俺が目を凝らしてもまったく何も見えない。
ただ、それが土竜種の補正なのかは知らないが、視覚としては見えないけれども、洞窟がどういう風に広がっていて、どのくらいの空間になっているか、その形状などについては、ある程度は肌感覚でわかるようになっているのだ。
ただし、ステータスウインドウの文字も読めないので、『鑑定眼』に何が表示されているか、ってなると現状ではまったくわからない。
もしかしたら、このステータス画面が光ったりしてくれないかな、と思ったが、残念ながら、それは甘い考えだったようだ。
光がない場所だと、画面そのものが読めなくなるみたいだな。
いや、それはそれで危険だよな。
この手の洞窟だと、ステータスがわからなくなるってわけだし。
「やっぱり、ノリで、こういうとこに踏み込んじゃだめだな……」
少しずつ、暗がりに目が慣れてはきたけど、やっぱり、穴の中の様子については、種族補正の空間把握でしかつかめないな。
今度来るときは、ちゃんと灯りを持ってこないといけないなあ。
とりあえず、感覚を頼りに、『鑑定眼』の反応があった場所まで歩く。
洞窟の地面に生えている草だ。
折角なので、『鑑定眼』にも反応があったし、その草っぽいものを採取していくことにした。
うん?
触った感触だと、花っぽいものや、実のようなもののあるな。
ちょっとだけ、触れると毒を受けたりしないか心配だったけど、そういうことはなかったようだ。
この草に関しては、地上に出た後で改めて確認だな。
「まあ、これだけでも、無駄骨にならずに済んだかな」
もっとも、ただの雑草って可能性もあるけどさ。
「でも、どこから通じているんだろうな、この洞窟?」
どこか他の場所に入り口でもあるのだろうか?
そうでないと、俺みたいに、穴を掘れるスキルでも持ってないと、入ることができないものな。
ダンジョンとして、存在している以上は、運営側が用意したもので間違いないとは思うけど、いきなりで、随分変なダンジョンがあったもんだ。
洞窟に入った後も、ほとんどモンスターと遭遇してないし、やっぱり、不思議な感じがするしな。
いや、別にモンスター出てこいって話じゃないけど。
今、戦闘になったら、まったく見えないから、勘で戦わないといけないし。
まあ、自然の洞窟探検だったら、これが当たり前か。
そもそも、ダンジョンの内部に灯りが用意されている方がおかしいもんな。
「うーん……まあ、まだ現在位置は何となくわかるよな」
そっちも土竜種としての感覚なのか?
どの辺りから地下へと入ったのか、そのスタート地点から、今いるところまでどのくらい離れているかの距離感が何となくわかるのだ。
もちろん、道順が頭の中でマッピングされているわけじゃないけど、この洞窟はここまで一本道だから、これなら、元の場所まで戻るのも難しくなさそうだ。
最悪、天井を掘り進んで、地上まで戻ればいいよな。
穴の壁を触ってみると、硬い岩壁と何とか掘れそうな土壁があるようだ。
土壁のところなら、掘り進んでいくこともできるだろう。
「よし、もうちょっと先まで進んでみるか。延々と道が続いていたら、諦めて引き返せばいいだろ」
真っ暗だけど、不思議と怖くはないのだ。
なので、俺はもう少し奥へと進んでみることにした。




