第68話 農民、メールを確認する
ログインと同時に、例のぽーんが連続して起こったのだ。
そして、俺の元に届いたのは、フレンドコードを使って送られてきたメールの数々だった。
そこで初めて、昨日、『けいじばん』のチェックをした時に、メールに関しては目を通していなかったことに気付いた。
どうやら、この『PUO』の場合、ログインまでの間に未確認のメールが届いていた場合、こっちの世界に来たのと同時に、それらが一斉にステータス画面で開かれていくようなのだ。
これって、読み忘れ防止の措置なのかね?
そもそも、フレンドコード自体が、『じっけんちゅう』らしいので、どうすればいいのか、色々と試しているのかもしれないな。
十兵衛さんの話だと、死に戻った直後に、向こうでメールが届いたのが確認できたらしいし、それとの違いとかがどうなのか、とかもわからないし。
緊急性の高いメールとかもあるのか?
まあ、その辺の考察はさておき。
送られてきていたのは、色々な人からの報告のメールだった。
主なのは、昨日別れた後に、どうなったのか、に関するものが多いな。
テツロウさんからのメールには、教会でのことが書かれていた。
神父さんとは仲良くなったらしいが、牛乳などの乳製品を売ってもらえるようになるのはいつになるかわからない、って。
ハチミツも、この町の教会では作っていないので、ちょっと難しいようだ。
どうやら、大分離れたところの名産品らしい。
ただ、カミュが帰ってくるのを待っていたら、日が暮れてから、ドランさんやユミナさんたちもやって来て、そっちとは合流できたらしい。
ドランさんのお店で働くスタッフとして、店で扱う分のバターなどの受け取りは、ユミナさんでも許可されたとか、そっちの話にも触れられている。
後は、カミュが帰って来た後で、ハチミツの話にもなったみたいだけど、『担当者がうんと言わないと難しいから』ってやんわりと断られたみたいだな。
残念ながら、すぐには入手できないようだ。
それと、毒まみれの人が運ばれたとかどうとか、よくわからない話もあったけど、詳細がないので、何のことだかさっぱりだった。
その辺は、直接会った時にでも聞いてみることにしよう。
ユミナさんからは、お礼のメールが届いていた。
お店で『料理人見習い』として働けるようになったから、って。
昨日も、あの後で、店にある食材を使って、新しいうさぎ料理にチャレンジしていたのだとか。
本当は、夜もずっとログインしていたかったみたいだけど、ドランさんから燃料代が大変だから、ってことで消灯されてしまって残念だった、みたいなことも書かれてた。
うん。
やっぱり、こっちの常識とはちょっと違うんだよな、この『PUO』の世界は。
徹夜して、お仕事するって感覚はないんだろうな、たぶん。
とりあえず、今日も朝早くから、仕込みに挑戦しているから、またお店に来て試食して欲しい、ってことも書かれていた。
今日も、お昼は『大地の恵み亭』で決まりだな。
後は、乳製品とハチミツに関しては、テツロウさんのとほぼ同様のことが書かれていた。
そして、ペルーラさんからもメールが届いていた。
本当はログインしたら行ってみようと思っていただけに、少しびっくりした。
ただ、メールの内容は『アルミナからの許可待ちなので、弟子修行はもうちょっと待ってほしい』というものだった。
連絡自体はついたらしいんだけど、ちょっと事情があるようで、ファン君の許可をどうするかで、少し時間がかかっているらしいのだ。
下手をすると、新しく人員がやってくる可能性もあるので、さすがにそうなったら、俺とか十兵衛さんやヨシノさんの修行を先にやる、って感じのようだ。
とりあえず、こっちは返事待ち、と。
なので、さっきの話に戻るわけだ。
今日の午前中はペルーラさんの鍛冶修行ではなくて、サティ婆さんに頼まれた素材集めをやることで決定、って。
同様に、ファン君とヨシノさんからもメールが届いていた。
昨日はありがとうございました、ってお礼と、あの後で無事、収集系のクエストなどを終わらせることができた、って連絡だな。
まあ、その辺は、リディアさんも一緒だから、心配はしていなかったけど。
あの人が護衛している限り、変な野盗とかにファン君が狙われても大丈夫だろうし。
で、本当は今日合流して、一緒にペルーラさんのクエストを受ける予定だったんだけど、ファン君たちのところにも、俺のところに来たのと同じメールが届いていたらしく、追伸のメールには、『どうしましょうか?』って相談があったので、そのまま、クエストが始めるまではお互い自由行動でいいんじゃないか、って旨の返信をしておいた。
少しはお金も得られるようになったわけだし、改めて、町の中のお店を回ってみてもいいだろうしな。
「てか、メール多いな」
十兵衛さんからは、北の森を進んでいった先で、変な熊と会った、ってメールが届いていた。
いや、変な熊って何だよ?
内容が簡潔過ぎて、よくわからないぞ?
化けもんがいっぱい出て来て楽しかった、とも書いてあるけど、その行間に何が起こったのか、全然わからないのだ。
まあ、十兵衛さん、メールとか苦手だって言ってたから、これでも気を遣ってくれた方なんだろうな。
むしろ、俺、慌てて、返事を書いたし。
うん、次からは気を付けよう。
後は、ハヤベルさんからのお礼メールとか、リディアさんから、『食べ物』と一言だけのメールが届いていた。
まあ、ハヤベルさんとは、朝、サティ婆さんの家でも顔を合わせたから、その時にも話はできたんだけど、リディアさんのメールはよくわからない。
食べ物をどうすればいいんだろ?
欲しい、ってことなのかね?
謎のメールだ。
それと、クラウドさんとアスカさんからも、だな。
クラウドさんは、『泉の水を汲んでくる』クエストをやっていたらしいな。
例の、その水で身体を拭くときれいになる水だな。
何でも、その泉の水を使って、衣類を洗うと、それもきれいになるのだそうだ。
ステータスにある、装備品の汚れに関する部分の対策になる、ってこととかも書かれているな。
そういえば、俺も、服に関してはあんまり注意していなかったなあ。
身綺麗にしておかないと、バッドステータスもあるかも、って。
そっちも気を付けないといけないな。
今は、替えの服がないから……あ、そういえば、昨日、食堂でカオルさんが、下着の試作品は作れるようになったとか、って言っていたか。
今、カオルさん、仕立て屋さんで働いているんだよな?
そっちにも顔を出してみるのもいいな。
一方のアスカさんは、魔法がらみのクエストを受注したそうだ。
『魔道具に自分の魔力を込める』クエストらしい。
あれっ!? と思ったのは、その魔道具ってのが、肉屋さんにある、保存のための箱らしいのだ。
それって、確か、入れていると肉が腐らなくなる魔道具ってやつだよな?
何でも、この手の魔道具って、定期的に魔力を補充しないと使えなくなってしまうので、冒険者ギルド経由で、その手のクエストもあるのだそうだ。
なんか話を聞いていると充電っぽいよな?
分類上は、商業系のクエストに分けられるらしい。
一口にクエストって言っても、色々なジャンルがあるんだなあ、と感心する。
後は、俺の方で起こったことについても、報告のメールをみんなに返信しておいた。
とりあえず、ハヤベルさんと一緒で『薬師』のクエストが始まったことは伝えておいてもいいだろう。
暗号とか、そっちに関しては、表に出していいのか判断に困ったので触れていない。
後でサティ婆さんに怒られたら嫌だしな。
あ、そうそう。
ようやく、『けいじばん』経由で、ユウとも連絡がついたのだ。
メールも届いていて、なかなか会えなくて悪いな、ってことと、今、騎士団の見習い騎士として、周辺警戒とか、山賊を倒しに行くクエストの最中なのだとか。
いや、あのな。
オレストの町のクエストと大分違ってないか?
ラウラの話を聞いた時も思ったけどさ。
何か、ユウたちだけ、別のゲームをやってるような感じがするぞ?
ただ、話を聞いていると、けっこうな距離を行軍したり、野営とかもあるらしくて、ログイン時間が長くなるので、倍速機能を使っているのだそうだ。
おー、すげえ。
夜通しのイベントとかもあるんだな。
騎士とは言え、新米の見習いに対して、随分スパルタな感じはするけど。
まあ、それなりに充実してるみたいだし、楽しそうで何よりだ。
ゲームの中で会うのが楽しみだな。
と、まあ、こんな感じのメールラッシュを終わらせて。
改めて、採取に向かっているわけだ。
一日休んだせいか、昨日はまったく使えなかった魔法も、今朝になってからは、ちゃんと使えるようになっていたし。
やっぱり、日付けでリセットされるのかね?
体力の回復は、傷薬や教会の癒し、あとは、食べ物とかでも元気になったりとかもするらしいな。サティ婆さんのスープとか、その手の効能もありそうだし。
ただ、魔力の回復に関しては、ちょっとよくわからない、ってのが現状のようだ。
『けいじばん』では、『枯渇酔い』になった状態でも、しばらくすると、動けるくらいにはなるので、魔力は少しずつ自動で回復しているんじゃないか? っていうのが、検証している魔法職の人たちの意見だ。
ただ、『枯渇酔い』でもないのに、魔法が使えなくなるケースは見られないようで、昨日の俺の症状が何なのかは、まだわからなかった。
まあ、『岩砕き』を五連で使ったからなあ。
無茶な使い方をすると、発動はできても、身体への反動があるのかもしれないな。
鉱石を掘る時に試してみたかったんだが、情報が得られるまでは、なるべく避けた方が良さそうだ。
魔法が使えるので、そのまま、町の外へと向かう。
とはいえ、ソロでの外出はこれが初となるので、それなりには緊張しているけどな。
カミュとか、十兵衛さんとか、いざという時助けてくれそうな人もいないし。
よし!
油断せずに、気を付けて行こう。
『死に戻り』とか、嫌だし。
ともあれ、そのまま、町の東門を抜けて。
俺は、サティ婆さんに教わった採取場所へと向かった。




