第52話 農民、鉱石を配分する
「おいおい……セージュ、お前、またなのかよ?」
昨日のは、半分以上はカミュが原因だと思っていたんだぞ、とグリゴレさんが呆れたように、俺にぼやいてきた。
いや、俺に言われても困るんだが。
今、俺たちがいるのは、例によって、冒険者ギルドの応接室だ。
受付で、ファン君たちのギルドカードとアイテム袋を受け取った後、改めて、クエスト関連の報告をすることになったので、奥の部屋を使えるようにお願いしたのだ。
俺の声のトーンから、グリゴレさんもどういう内容なのか、何となく気付いてくれたみたいだけどな。
で、まず、取り立てて問題なさそうな分。
採掘所への行き来で倒した、モンスターに関してのクエストから報告を行なった。
これについては、ファン君とヨシノさんのクエスト達成として、すべて換算してもらった。
ぷちラビットとノーマルボアの討伐報酬とか、素材などを引き取ってもらって、それを換金してもらったり、という感じで、だ。
これだけでも、俺と十兵衛さんがファン君に貸していた分はすんなりと賄えたな。
何せ、ノーマルボアを数匹は倒していたからな。
そっちは、ほとんどがリディアさんと十兵衛さんの功績なんだが、いつまでも、こちらに対して引け目を感じられても嫌なので、さっさと相殺してしまうことにした。
報酬の残りはファン君たちの手元に戻して、と。
これで、服代などの借金は帳消しになったな。
やっぱり、ノーマルボア一匹で、15,000Nそこそこになるのは、なかなか美味しいのだ。
ただ、昨日より、買取り値が少し下がっているのを見ると、他のテスターさんたちも割と討伐して持ち込んでいるようには感じたな。
それなりに儲けられるのは最初だけかも知れない。
後は、俺の分の、サティ婆さんからの日常クエストとか、さっきのペルーラさんからの鉱物収集クエストに関しても、一応達成が出ていたので、そちらについても確認はしておいた。
こっちも、きっちりと達成分の一覧に追加されるらしい。
報酬に関しては、サティ婆さんの分は、昨日の宿代に変化していて、ペルーラさんの分も、職業クエストへ転用するので、冒険者ギルドでの受け取りとかはないのだそうだ。
この辺は、クエストの内容によってはよくあることなのだとか。
告知などを含めて、冒険者ギルドに一部業務をお願いするクエストについては、ギルドへお金を払う必要があるけど、個々での交渉などで発生したクエストについては、クエストの成否などをギルドへ報告するだけのものもあるのだそうだ。
前者は、ギルドの業務。
後者は、あくまで、どういう出来事が町で起こったかを把握するためのもの。
そういう風になっているらしい。
討伐系と収集系は、割とギルドが絡んでいることが多くて、日常系やその他のクエストは個々のやり取りで済ませたりすることが多い、と。
もちろん、冒険者としての達成件数には、後者もカウントされるため、今の俺たちのように報告に来ることも大切なのだそうだ。
そういう地道なことをすることで、強制クエストを回避できたりとかもするらしいな。
ちなみに、商業系は、商業ギルドが主体になっていることが多いそうだ。
冒険者ギルドは、手数料と引き換えで告知などをしているだけ、とのこと。
ラルフリーダさんからの領主依頼クエストは、個別案件にあたるんだと。
そう、今、問題になってるのは、そっちのクエスト絡みだな。
【領主依頼クエスト:モンスターの調査】。
例のラースボアの討伐も、こっち絡みに含まれたし。
だから、報酬については、領主権限でラルフリーダさんに一任されたのだ。
同様に、さっき倒したミスリルゴーレムについても、こっちに含まれるようで、話を聞いていたグリゴレさんがかなり渋い顔になった。
「いや、俺も一介の冒険者に過ぎないんだが……あんまり、この手の話は深入りしたくないぞ? まあ、セージュの担当みたいな感じになった以上は仕方ないんだが」
あの、人を疫病神みたいに言わないで欲しいんですが。
別に、俺も好きで変なことに巻き込まれているわけじゃないんだし。
ただ、生憎というか、この町の冒険者ギルドのマスターが他の町に出向いているらしくて、責任者に擦り付けることもできないのだそうだ。
まあ、そっちは町長に報告すればいいらしいけど、ギルドとしては、誰かが担当しなくてはならないので、なぜか、グリゴレさんにお鉢が回ってきたわけだ。
というか、そういう時こそ、ナビさんとかが対応すればいいと思うんだがな。
この手の命令系統とは、また別の立場なのかね?
そっちはよくわからないな。
「一応、リディアにも聞いてみたが、いまいちよくわからないんでな。とりあえず、実物を見せてもらえるか? なあ、セージュ、これも例のやつと同じで、場所が必要なら、ここじゃなくて、地下の方に行くが?」
「今回のはそこまで大物じゃなかったですから、この部屋で収まりますよ。別に全部出す必要はないですよね?」
「ああ。討伐部位の確認が必要だから、そのためのものだしな。ゴーレムだったら、核の部分があれば、討伐証明になる。そもそも、ジェイドのやつが確認済みなら、間違いもないだろうしな」
なるほど。
ゴーレムの魔核が討伐部位になるのか。
ゴーレムの場合、身体の一部を持ち帰っても、核が残っていると再生してしまうことがあるので、魔核以外では、討伐証明にならないのだそうだ。
魔核って、魔晶石のことだよな?
「わかりました。リディアさん、魔晶石とミスリル鉱石の一部を出せますか?」
「ん、問題ない」
リディアさんがそう言うと、テーブルの上に、魔晶石がひとつと、大きめのミスリル鉱石がひとつ取り出された。
やっぱり、必要量だけ取り出すのも自在なのだそうだ。
「いや……すげえな、この大きさのミスリルか…………ゴーレムの身体ってことは、それだけでもひと財産だぞ? もっとも、冒険者ギルドだと、規定の買い値でしか取り扱いができないけどな」
「あ、やっぱり、そうなんですか?」
ペルーラさんも同じことを言ってたよな。
グリゴレさんも同意見らしい。
「もうちょっと大きな都市とかの商会だったら、それなりの額で買い取ってくれるだろうがな。そもそも、ミスリルってのは、加工がものすごく難しいんだ。なので、武器とか道具になれば、価値が跳ね上がるんだが、加工前の鉱石となると、かなり買い叩かれる傾向にある」
加工するための費用が馬鹿にならないからな、とグリゴレさん。
一応、商業ギルドの方が少しは高く買い取ってはくれるらしい。
「冒険者ギルドとしても、ミスリル製の装備品については、確保したりもするが、鉱石の場合は、死蔵しているだけだからな。その辺は、ドワーフとギルドとの間に取り決めがあるんだよ」
「そうなんですか」
「ああ。だから、ミスリル製の物はあまり流通しないんだ。そもそも、その手の取引も見込んで、ドワーフに鉱山とかの管理を頼むケースもあるしな」
この町もそうだ、とグリゴレさん。
あ、そうだったのか。
だから、あの採掘所、あんなにわかりにくい場所にあったのか。
オレストの町の場合、あの坑道の管理者はペルーラさんとジェイドさんのふたりだけなのだそうだ。
この手の契約を、アルミナと結んでいる国は比較的多いらしい。
ミスリル製の道具については、アルミナも色々と制限しているらしく、それを踏まえた上で、交渉なりなんなりが行なわれているのだとか。
「なので、各国の採掘量とかを把握してるのも、ドワーフと鉱物種たちだな。一応、アルミナでは、共通の貨幣とかも作ってるし、そういう意味では、どこの国とも、それなりにはうまくやっていっているんじゃないか?」
へえ! 貨幣を作ってるのもドワーフさんたちなんだな。
そういえば、高額貨幣にはミスリル貨もあるって、前に聞いたような気がするし。
「何せ、一番安いミスリル貨で1,000,000Nだからなあ。そう考えると、この塊だけでも、もの凄い価値だってことがわかるだろ? あ、念のため言っておくが、通貨の偽造は死罪だからな。絶対にやるなよ?」
本気でシャレじゃ済まないから、と。
そもそも、特殊加工が施されているらしく、見た目だけ似せてもすぐばれるのだそうだ。
いや、別に偽造とかするつもりもないけどさ。
「で? 討伐は?」
どうなるの? とリディアさんが尋ねる。
あ、そういえば、そもそも、その話だったよな。
また少し話が逸れていたよ。
「ああ。これも町長に報告だな。この核については、預からせてもらってもいいか? 報酬に関しても、そっちの話が済んでからになるだろうな」
「わかりました」
一応、他のみんなにも確認した上で、返事をする。
まあ、グリゴレさんが持ち逃げしたりとかしないだろうから、それでいいだろうし。
「状況によっては、このゴーレムの討伐に関与したお前らには、後で町長の家まで出向いてもらうこともあるかも知れないな。その時は俺が付き添うから、よろしく頼む」
これも、ラースボアの件と同じような扱いになるようだ。
なので、確認が取れるまでは情報を出すのは控えてほしい、と。
「ファン君たちも、『けいじばん』とかに情報を出す時は気を付けてね。ちょっと、この手のモンスターがらみの話は、下手に漏れるとまずいみたいだし」
「わかりました。秘密にしておけばいいんですね? それと……『けいじばん』って何ですか?」
「あれ? ファン君たち、知らなかったの?」
あ、ファン君もヨシノさんも『けいじばん』の存在は知らなかったのか。
フレンドコードを教えた時に、一緒に説明しておけば良かったかもな。
というか、こういう時、説明書のないゲームって困るよな。
気付かないと放置しっぱなしになるから。
改めて、『けいじばん』について、ふたりに説明しておく。
「あ、そんな便利なものがあったんですね?」
「ジャンルごとに細かい情報なども載っていますね……これはいいですね」
「ん、初めて見た」
「あれ? リディアさんも?」
あれ? 実は、ゲームの中のNPCで『けいじばん』の存在を知っている人って少ないのか?
どうやら、グリゴレさんも知らなかったみたいだしな。
確かに、カミュやナビさんの他に吹き込んでいる人ってほとんどいなかったけど。
それとも、俺たちがこうやって伝えていくことで、利用者が増えるようになるシステムだとか?
まだまだ、謎が多いなあ。
ちなみに十兵衛さんは、面倒くせえ、って覗いてないみたいだけど。
この人、とりあえず、やってみる派の人だもんな。
ともあれ。
この場を借りて、採掘所がらみの素材をそれぞれに分配しておく。
俺と十兵衛さんは、工具の弁償があったので、その分は少なくなってはいるが、それでも、鉱石類がそれぞれのアイテム袋へと収まった。
ちなみに、リディアさんからは、ミスリル鉱石をもらっても仕方ないからいらない、って断られてしまった。
でも、かなりの功労者だからなあ。
俺がそう考えていると。
「ん、だったら、ごはんが食べたい」
あ、ごはんを奢ってくれればいい、ってことらしい。
リディアさん、かなり食べるみたいだけど、まあ、それでも、ミスリル鉱石と比べると、そんなに、だよな。
うん、じゃあ、それでいいか。
俺も少しお腹が空いてきたし。
そもそも、俺としては、逃げられないクエストもあるしな。
「わかりました。それじゃあ、今からごはんを食べに行きましょうか」
とりあえず、冒険者ギルドへの報告もそこそこに。
俺たちは、そのまま、『大地の恵み亭』へと向かった。
オレストの町がある大陸……中央大陸で、一番大きな鉱山地帯がアルミナ峡谷です。
そのため、希少鉱石の多くは、ドワーフや鉱物種たちが絡んでいます。
精霊金属系は『精霊の森』、魔樹系はエルフの街か、『グリーンリーフ』が多いですね。




