第43話 農民、坑道の中を歩く
「へえ、ここって、ダンジョンの一種なんですか?」
「たぶん。似たような場所は、他でも見かけた」
坑道の中を進みながら、リディアさんとそんなことを話す。
入り口付近こそ狭くて、隠されるようにされていた採掘所だけど、しばらく奥へと進むと、大分道が広くなって来たのだ。
と言うか、今も、複数の鉱物種さんたちが、せっせと穴を広げたり、坑道を下へと掘ったりと、新しい石が出る場所を探して作業を続けているみたいだし。
いや、このダンジョンだけでもけっこうな数のゴーレムさんが関わっているんだな、って思っていたら、実は彼らはジェイドさんが生み出した分身体というやつなのだそうだ。
鉱物種もドワーフさんと同様にいくつかの種族スキルがあるらしく、そのうちのひとつが、『分体生成』……要するに、『ゴーレム生成』なのだとか。
その辺は、リディアさんの通訳で、中で働いているうちの一体の分身さんから教えてもらったんだけどな。
いや、ジェイドさんにそっくりで、色々な色をしたゴーレムさんがいるのだ。
たぶん、素材自体が少し違っているんだろうけど。
入り口のゴーレムさんが、土とか泥みたいなものでできているのに対し、中で作業をしている人たちは、黒々とした身体を持つ人や、キラキラと輝く金属系統のボディを持っている人もいるし。
魔素の詰まった石、いわゆる『魔晶石』なるものを核として用意すれば、『分体生成』によって、鉱物種さんはたくさんの分体を生み出せるのだとか。
もちろん、身体となる素材も必要みたいだけど。
とりあえず、そういう訳なので、普段は温厚で大人しい種族ではあるものの、敵に回すとかなり怖い種族ってことで恐れられてもいるそうだ。
彼らの護りがあるからこそ、ドワーフという存在と、アルミナ峡谷が護られている、と。
ああ、そうそう。
リディアさんの通訳で、しばらく、鉱物種さんの言葉に触れていたところ、ファン君にもちょっとずつだけど、彼らが何を話しているのかわかるようになってきたそうだ。
たぶん、種族がドワーフだからだろうな。
『基礎ゴーレム語』なるスキルが生えてきたみたいだし。
ただ、自然とスキルを覚えたのは初めて見たので、へえ、こんな感じで新しいスキルって得られるのか、とは思った。
ファン君も俺同様、『ギフト』で能力を得ていたので、これで俺も新しいスキルを手に入れる可能性があるってこともわかったしな。
「そういや、俺も、『剣術』から、変な名前のもんが伸びてたな」
「そうなんですか? 十兵衛さん?」
十兵衛さんは十兵衛さんで、知らない間に、『剣術』からの派生スキルをいくつか覚えていたらしい。
『五段突き』とか、『フェイント』『サイドステップ』とかだから、たぶん、武技とかそっち系の技なのだろう。けっこう、えらい数があるみたいだけど。
というか、そっちは元から十兵衛さんが使っていた技が、ここまでの戦闘とかで定着してスキルとして表記された、って感じみたいだけどな。
わかりづらいリディアさんの話だけど、そもそもスキルってのはそういうものらしいのだ。
一回だけ偶然出せるものではなく、身体がそれを身につけた、しっかりと動きを再現できる。そういうレベルに到達して、初めて、それが武技、となるのだとか。
うん。
やっぱり、スキルを覚えたから技が使える、ってのは少しおかしな感じなのかもしれないな。
でも、ゲームとしては、それで当たり前だろ?
スキルが先にあって、それの補助で、新しい技術を使えるようになる。
それが『PUO』のシステムじゃないのか?
リディアさんに言わせると、俺たちみたいのが変わっているみたいだけど。
その辺は、ゲーム内の人と、迷い人で差があるのかね?
うーん、やっぱりどこかおかしな感じがするよな。
ただ、それはそれとして、俺自身も『土魔法』を使っているうちに、派生スキルを覚えることができたようだ。
ちなみに、今のステータスはこんな感じだ。
名前:セージュ・ブルーフォレスト
年齢:16
種族:土の民(土竜種)
職業:農民
レベル:5
スキル:『土の基礎魔法Lv.5』『農具Lv.1』『爪技Lv.5』『解体Lv.8』『身体強化Lv.3』『土中呼吸(加護)』『鑑定眼(植物)Lv.4』『鑑定眼(モンスター)Lv.4』『緑の手(微)Lv.1』『土属性成長補正』『自動翻訳』
『土の基礎魔法Lv.5』――魔技『アースバインド』
確か、『アースバインド』ってのはカミュも言ってたよな。
土魔法の基礎、とか何とか。
その『アースバインド』も分類上は、魔技というものになるらしい。
これって、武技の魔法版って感じのものだろ?
少しずつだけど、魔法のレベルもあがってきたし、いい感じだ。
ただ、まあ、残念ながら、『農具』と『緑の手』ってスキルに関しては、まだ手つかずになっていて、レベルは1のままだ。
『農具』はそもそも、まだ入手していないので仕方ないけど、こっちの『緑の手』ってのはどういうスキルなんだろうな?
使い方がよくわからないのだ。
一応、『緑の手』と口に出したりもしてみたが、まったく反応ないし。
そういう意味では、スキルとかに関しては不親切なことが多いんだよな。
どういうスキルなのかに関しての説明とかもないし。
魔技の『アースバインド』ひとつとっても、これ、地面に穴を掘ることもできるけど、他にも、その辺の土を空中へと移したり、何もないところから土の塊を生み出したりもできるのだ。
それぞれの使い方によって、消耗度も違うけど、一種類のスキルでも色々な使い方ができるというか。
そういうのは、カミュが使っていた水魔法でもおんなじだよな。
水を生み出すのにも、色々とパターンがあるって言ってたし。
もしかすると、だから、スキルの説明がないのかも知れないな。
使い手の創意工夫で、やれることが増えてくるとか何とか。
まあ、最初から教えてしまうと、ゲームとして面白くないって理由なだけかも知れないけどさ。
さておき。
スキルの話から、採掘所の話へと戻そう。
ゴーレムさんの話だと、ここで採掘するのには、いくつかの方法があるそうだ。
「方法その一、その辺に転がっている石を持っていく。ですね」
「でもよぅ、ファンの嬢ちゃん……いや、坊主か? ……ああ! 紛らわしいな! 嬢ちゃんでいいか。嬢ちゃんよ、そのやり方だと、くず鉱石が多いんだろ?」
「はい、そうみたいです。『自分たちにはいらないもの』だから、その辺に転がっているらしいですし」
「うーん……やっぱり、手に取ってみても、石の種類がわからないもんな」
「ええ、『未鑑定』状態ですね。私のスキルでも、種別が『不明』になってます。おそらくこちらは『鑑定眼(鉱物)』などが必要なのでしょうね」
ファン君が聞き取ってくれた、石を入手する方法のひとつ。
坑道内の床に落ちている石を拾う。
でも、これは要するに『外れ石』だから、ゴーレムさんたちも見向きもしていないってことだろう?
もしかすると、掘り出し物があるかもしれないけど、問題は、どの石がどういう石なのかの判別ができないことだ。
いくつもある『鑑定眼』のうち、適したスキルを持っていないと『鑑定』はできないらしい。
まさか、『鑑定眼(アイテム)』を持っているヨシノさんでも無理だとは思わなかったけどさ。
思った以上に、この『鑑定眼』って使用基準が厳しいのかも知れないな。
俺も『鑑定眼(植物)』でも鑑定できない木や草もあるし。
そっちにも何らかの条件があるのだろう。
となると、ペルーラさんのところに持っていくのも一か八かになる。
あんまりいいやり方じゃないよな。
「方法その二、ゴーレムさんたちの仕事のお手伝いをする、です」
ファン君によると、作業の手伝いをすることで、その報酬として、俺たちが望んでいる石を譲ってくれるとのこと。
うん、たぶん、これが基本の答えなんだろうな。
ペルーラさんの修行にどういう石が必要なのか、それはジェイドさんの分身のゴーレムさんたちの方が詳しいだろうし。
「方法その三、ぼくたちで、新しく石を採掘する、です」
「ん、ただし、許可の出せる範囲内で、って」
そして、第三の方法だ。
というか、この三つ目が当たり前って言えば、一番当たり前の手段だよな。
どっちかと言えば、二番目の方法だと、俺たちの力で、っていうよりもゴーレムさんたちの手を借りて、ってことになってしまうし。
ちなみに、この坑道も一応はダンジョンなので、奥に行くと、はぐれモンスターが現れることがあるそうだ。
この辺りは、ゴーレムさんたちが掃除したので、モンスターはいないらしい。
「なら、その三番目でいいんじゃねぇか?」
「あの、十兵衛さん、ちょっと問題がありまして……『素人がいきなり採掘をしようとしても難しいかも』ってゴーレムさんが言ってます」
何でも、『採掘』のスキル持ちならまだしも、無印の冒険者だと、自分たちと同じような作業をして、石が手に入るかどうかはわからないのだとか。
なるほど、知識と経験が足りてない、ってことか。
「ちなみに、向こうで『採掘』とかの経験がある人っています?」
いや、さすがに俺も鉄鉱石とかの採掘とかはしたことがないぞ?
だから、どうやるのかのイメージすらないし。
ただ、他の三人も似たような感じらしく。
「いやぁ、そりゃあ、専門のやつの仕事だろ。俺も刀を打つ作業ぐらいは見たことがあるが、その前の鉄を掘るなんてのは、さすがに知らねぇぜ?」
「ぼく、小学生ですし」
「私も完全に専門外ですね……」
まあ、それが普通だよな。
とは言え、こっちの世界だとスキルとかもあるので、一応ダメ元で試してみることにした。
二番と三番の方法で、手分けして作業する、って感じで。
ファン君とヨシノさんが二番で、俺と十兵衛さんが三番で、だ。
リディアさんは、あくまでも監督と護衛なので、見てるだけ、ということで。
「それじゃあ、頑張ってやりましょうか」
「おう」
「頑張ります!」
「しばらくしたら、集合ということで」
「ん、適当にしてる」
早速、俺たちは手分けして作業に取り掛かった。
武技や魔技は、型の一種です。
スキルを使う際の、基本の動きとか、そういうものです。
スキル自体はもっと応用が利きます。




