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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第2章 テスター交流スタート
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第42話 農民、採掘所の入り口を探す

「でも、ちょっと不思議だよな」

「えと、何が不思議なんですか、セージュさん?」

「いや、採掘所って、この手書きの地図を見る限り、そんなにオレストの町から離れてないところにあるみたいなんだけど、それだったら、テスターの誰かが存在に気付きそうなもんだと思うんだよ」


 地図を見ながら、俺が首を捻っているとファン君が尋ねてきたので、今思っている疑問について、口に出してみた。

 町の北西は、単なる森というより、山と森の中間ぐらいの感じで、きっちりと高低差もあるから、確かにこの辺りなら、採掘所っぽい場所もありそうなんだが、逆に言えば、そんないかにもな採掘のための場所とか、坑道っぽいところがあったら、見かけたらすぐに気付きそうなものだ。

 実際、この辺はまだ魔境はおろか、『迷いの森』からもずっと外側らしく、せいぜいモンスターが現れても、ノーマルボアクラスの相手ぐらいだったし。

 リディアさんに言わせると、まだ『森』にほとんど踏み込んでいないくらいの場所らしいし。


 町からもそれほど離れていない以上は、何らかの反応があってもおかしくないはずなんだけどな。

 『けいじばん』でも、まったく採掘所に関しては触れられていないし。

 もし、存在がわかっていれば、生産職のスレッドなんかで、話題になってると思うんだが。


「でもな、セージュ。おめえだって、さっきのエヌとかの話については、ほとんど触れてなかったじゃねえか。案外、もう見つけてるやつがいるかもしれねぇぞ?」

「まあ、それを言われると痛いんですけど」


 一応、この手のVRMMOの場合、一定レベルでの情報共有は基本だしな。

 そういう意味では、俺も色々と情報を隠匿しているし。

 ラルフリーダさんがらみのクエストは、成功失敗が絡んでいるので、そっちは仕方ないとしても、カミュと十兵衛さんとの衝突の件とかも吹き込んでないし。

 あ、そうだ。

 『解体』に関することとかもまだだよな。

 そっちは後で吹き込まないとまずいなあ。

 うーん、そう考えると、うっかり伝え忘れていることもありそうだ。

 てか、今やってるクエスト自体も、おそらく生産者だったら知りたい情報のひとつだろうし。


 問題は、これ、NPCに無断で広めていいかどうか、ってことだよな。

 カミュとか、ラルフリーダさんとか、グリゴレさんもそうだな。とにかく、こっちの世界のNPCと話せば話すほど、どんどん人間臭いというか、きちんとした人格とかを持っているって感じるし、そういう意味だと、何となく、俺の勘が嫌な予感を感じているんだよな。

 闇雲に、情報を広めていいかどうかについては。


 ペルーラさんの感じだと、たぶん、迷い人に大挙して来られるのがすごく嫌そうなんだよな。

 その原因とか作ったら、普通に嫌われるんじゃないか、って。


 だって、『大地の恵み亭』のドランさんとの間にも強制クエストが発動したろ?

 あれも、断れば、ドランさんの不興を買って、店自体が使えなくなるって話だったから、やっぱり、それぞれのNPCからの好感度とか、そっちのパラメーターなんかも隠されているような気がするんだよな。


 ゲーム慣れしていない、十兵衛さんやファン君、ヨシノさんたちは、大切な情報をわざわざ『けいじばん』に吹き込まないといけない理由がよくわかっていないみたいだけど。


 まあ、そっちは、妙なプレイヤー同士のトラブルを避けるための手段のひとつみたいなものだから、別にやらなくても、ソロで飄々と活動している人はいるから、あんまり気にし過ぎなくてもいいとは思うけど。

 このβテストの場合、テスターの全員がSZ社と契約を結んでいるって話だから、たぶん、このくらいのことで馬鹿みたいな荒らし行為に及ぶ人は少ないだろうし。


 さておき。


「リディアさん、この地図が示しているのって、この辺ですか?」

「ん、たぶん、そこ。鉱物種の反応がある」

「え……? 鉱物種?」


 リディアさんが指し示しているのは、ややきつめの斜面になってる場所の一角だ。

 確かにその辺りは、切り立った場所らしくて、木々のたぐいは生えてはいないけど、見た感じは土壁のような状態なので、洞窟とかそれらしいものはなさそうだけど。


「ん、触ってみる」


 そう言って、リディアさんが、その土壁の一角に近づく。

 その白い手が触れるか触れないかのところで、ガタンという音がして。


「えええっ!?」

「あっ、すごいです! もしかして、ジェイドさんみたいなゴーレムさんですか?」

「成程な。道理で、他の連中が気付かねぇわけだぜ。はは、こりゃあ、自力でたどり着くのは無理じゃねえか?」

「……もしかして、私たちも、リディアさんがご一緒でなければ、見つけられなかったのではないでしょうか?」


 土壁だと思っていた場所の一部は、ゴーレムさんだった。

 いや、何を言ってるかわからないかもしれないが、採掘所の入り口をふさぐ形で、土壁と同じ色をしたゴーレムさんが、その周囲と同化していたのだ。


 というか、動き出すまで、全然わからなかったぞ?

 えー、これ、地図だけ渡されても、立ち往生だったぞ、たぶん。

 もしかすると、それも含めて、『弟子修行のクエスト』ってことか?

 採掘所を見つけられなければ、そもそも弟子になる資格なし、とか。


「すごいですね、リディアさん。よくわかりましたね」

「うん? セージュはわからない?」

「ええ、全然気づかなかったですよ」

「能力持ってるのに?」

「え? 能力? …………あっ!? そうか!」


 あ! 『鑑定眼』か!

 そっかそっか。

 随分と難易度高いと思っていたけど、このゴーレムさんも鉱物種、つまりモンスターの一種ってことは、俺の『鑑定眼(モンスター)』のスキルで発見できたってことか。

 おそらく、リディアさんも『鑑定眼』みたいなスキルを使っていたんだろう。


「なに? セージュ、おめえ、そんな便利なもん持ってたのか?」

「はい。マナー違反になるので、人間相手ですとほとんど使えてませんでしたけど」


 まあ、十兵衛さんとは、初遭遇の時に使ってしまってはいるんだけどな。

 あの時は緊急時だったし、カミュの許可もあったから、ご勘弁くださいって感じだけどさ。


「そうだったんですね。セージュさんも『鑑定眼』持ちでしたか」

「あ、もしかして、ヨシノさんもですか?」

「はい。お恥ずかしながら、私も今、リディアさんの言葉でそのことに初めて気づきました。少し迂闊でしたね」


 盗賊シーフ寄りのスキルということで、ヨシノさんも『鑑定眼(アイテム)』と『鑑定眼(モンスター)』は取っていたのだそうだ。

 ただ、やっぱり、このスキルは得るのにかなりのポイントを消費した、とのこと。

 なので、全種類は取れなかった、と。


 へえ、やっぱり、色々と便利そうだものな。

 というか、全種類って、そんなに種類があるのか。

 俺、『ギフト』に決めたせいで、細かい部分まで一覧を見てなかったんだよな。


「もしかすると、ここ以外でも、似たような仕掛けの場所はあるかも知れないですね」

「つまり、フィールドとかでもスキルを使いながら移動した方がいい、ってことですか。なるほど」


 隠れている存在を見つけ出す、って使い方には気付かなかったな。

 もしかすると、使い方によっては、索敵みたいなこともできるのかも知れないな、この『鑑定眼(モンスター)』って。

 ただ、使いっぱなしだと、けっこう、しんどいんだよな、このスキル。

 俺の場合、『鑑定眼(植物)』も持ってるから、常時意識してたら、目に入った植物が全部鑑定モードに入るから、スキル使用による疲労とは別に、頭が痛くなってくるんだよな。

 これは、昨日、カミュと採取をやった時に気付いたんだけど。


 案外、『鑑定眼』って複数の種類を持ってると、厄介なスキルなのかもしれない。

 便利は便利だから、レベル上げはしておいた方が良さそうだけど。


「あの、この後はどうするんです?」


 穴の横に立っている茶色いゴーレムさんを見ながら、ファン君が聞いてきた。

 えーと、そうだよな。

 もしかして、このゴーレムさんと戦う必要があるのか?

 『お前たちの力を示せ』とか何とか。

 いや、でも、工房でジェイドさんと挨拶を交わした身としては、闇雲にゴーレムさんと戦いたくはないんだが。


「えーと……ゴーレムさん。俺たち、ペルーラさんの命令で採掘所に来たんですけど、入れてもらえませんか?」

「……………………」


 じっと見つめ合いながら、しばしの間沈黙が続く。

 と、リディアさんが頷いて。


「ん、『入っていい』って」

「えっ!? そう、なんですか?」

「…………………………………………」

「『ペルーラの匂いがする。だから良い』って」

「あの……もしかして、今、ゴーレムさんは何か話してるんですか?」

「ん。セージュたちはわからない?」

「はい、全然わからないですよ」


 俺が周りを振り返ると、他の三人も同様に頷く。

 やっぱり、リディアさんにしか、このゴーレムさんの言葉は通じていないようだ。


「そう。でも、許可は得た」


 だから、入ろう、とリディアさん。

 何でも、ここって、ペルーラさんとジェイドさんが護っている場所らしくて、そちらの許可がない場合は、この守護のゴーレムさんが入れてくれないのだそうだ。

 その場合は、もし、この場所を見つけても、ゴーレムさんとの戦闘になるとか。

 へえ、そういう仕掛けになってるのか。

 やっぱり、この『弟子入りクエスト』が始まっていないと、採掘所に入ることすらできないらしい。


 というか、さ。

 リディアさん、すごいな。

 この人がいなかったら、すんなり中へと進めなかったんじゃないか?

 さすがは、専業の冒険者というか。


 そうこうしていると、ゴーレムさんが少しどいてくれた。

 これで、採掘所へ入ることができそうだな。


「それじゃあ、中に入りましょうか」

「はい! こういうところに入るの、ぼく初めてです!」

「まあ、さっさと石を掘って、戻ろうぜ」

「中もモンスターは出るのでしょうかね?」

「ん、大丈夫。しっかり、護る」


 そんなこんなで、俺たちは採掘所へと足を踏み入れるのだった。

ゴーレム……鉱物種には擬態系のスキル持ちもいます。

ゴーレム+『擬態』=隠しダンジョン、です。

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