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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第2章 テスター交流スタート
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第38話 農民、ドワーフの工房へ行く

『そこを何とか、お願いできませんか?』

『あー、だめだめ、あたしも人に教えられるほどじゃないの。特に、同族の子にはね。素直に、アルミナへ行った方がいいって』

『それは、ぼくが幼いからですか?』

『それもあるけど、そうじゃないの。そもそも、迷い人のドワーフなんて、あたしが弟子に取るには手に余るわ、って話。アルミナ育ちで、基本的なドワーフの常識を知ってるなら、何とかなったかも知れないけどね』

『そう……ですか……』


「……何だか、取り込み中みたいですね」

「ああ、どうやら、先客がいるようだな」


 冒険者ギルドからで報酬を受け取った後、俺と十兵衛さんはドワーフがやっている工房へとやって来た。

 見た目は普通の家ともそれほど変わらないが、大きめの煙突のようなものもあって、その点で、何となく火を扱う工房のような印象を受ける。

 まあ、いつまでも外観ばかり見ていても仕方ないので、さあ、中に入って話をしようと思ったら、こんな感じで、工房の中から話し声が聞こえてきたのだ。


 十兵衛さんが言うように先客のようだ。


 詳しい事情はよくわからないが、どうやら、俺たちとは別の迷い人(プレイヤー)がドワーフの職人さんに弟子入りをしようとしているらしい。

 まあ、話の流れからすると、あんまり状況は芳しくないようだけど。


 ただ、ちょっと困ったのは、ここで『ごめんください』とか言って、中に入るのには少し厳しい感じの雰囲気なんだよな。

 中から聞こえてくるのか、高い女の子の声がふたつで、たぶんそれがドワーフの職人さんと、ドワーフのプレイヤーなのだろう。

 何となく、ちっちゃな子同士がけんかしているようにしか聞こえないぞ?


『ファン君、今日のところは下がりましょう。こちらの方も、迷惑で拒絶されているわけではなさそうですし』

『ええ、ごめんなさいね。あなたがあたしたちと同族だからこそ、あたしの一存では許可を出せないの。あなたたちの力で、アルミナにたどり着いて、そこで改めて話をしてちょうだい』

『……わかりました。本日はお時間を頂きまして、ありがとうございました』


 俺と十兵衛さんが立ち往生している、その前で、扉が開いた。

 そのまま、しょんぼりと肩を落とした少女が出て来て、危なくぶつかりそうになる。

 というか、向こうもまさか、扉の外に人が立ってるとは思わなかったんだろうな。


「あっ……失礼しました」


 ごめんなさい、と俺たちに対しても頭を下げてくるのはその少女だ。

 見た目はどう見ても、小学生くらい。

 そう言ってしまうとカミュと同じくらいなんだが、驚いたのはその衣装だ。

 なぜか、艶やかな赤い着物のようなものを着ていた。


 えーと……こっちの世界のドワーフって着物を着るのか?

 何だか、すごく違和感があるんだが。

 というか、ドワーフが女性限定種族ってことだから、ひげもじゃの女ドワーフかと思ったら、どう見ても、可憐な女の子にしか見えないぞ。


 その後ろに立っているのは、女性がふたりで、どうやら、このドワーフっ娘の同行者らしい。

 ひとりは、冒険者というよりも、向こうの世界の普段着という感じの服装に、その上から、鎧などを着込んでいる女性だ。

 年齢は俺よりも少し上くらいだろうか?

 肩ぐらいまでの長さの黒髪をまっすぐに垂らした、真面目そうな人だ。


 そしてもうひとりは、これまた目につく姿だった。

 何せ、上から下まで真っ白な衣装で統一されていたのだから。

 髪の毛も、単なる白髪ではなく、輝く雪のような白い髪で、肌の色も真っ白と言ってもいいほどの肌だ。

 腰までも届きそうな長い髪、どこか高級さを漂わせるドレス風の衣装、それらは一点の曇りもなく、ただただ、白く美しく映えている。

 それなりに長身で……たぶん、俺よりも高くて、大人の女性という印象も受けるのだが、それ以上に、その、白という印象は美しいと感じた。

 まるで、妖精のように儚げというか。

 いや、どちらかと言えば、目はこちらを見ているものの、ほとんど無表情なので、本当に生きているのか、少し不安になってしまうような、そんな感じだ。


「あー……いえ、こちらこそ、こんなところで立っていてすみません」


 工房の出入り口でお見合いのような状態になっても仕方ないので、慌てて、俺が身体を横にずらすと、その着物を着た女の子が声をかけてきた。


「あの、もしかして、あなたがたもテスターさんですか?」

「ええ。俺と、後ろのエルフの人、どちらもテスターですね。あなたたちも?」


 見た目は子供だが、十兵衛さんみたいな例もあるので、とりあえず、敬語で返すと、その着物の少女は、どこか嬉しそうな表情で頷いて。


「はい! 良かったです……ぼくもこういうゲームはあまりしたことがないもので、他の迷い人(プレイヤー)さんがどなたなのかわからなかったんです。そういった形で、話しかけてくださる方もいませんでしたし……」


 ホッとした様子の目の前の少女。

 簡単にお互い自己紹介したところ、名前をファン・ファーストリバーというそうだ。

 同様に、同行している黒髪の美人さんがヨシノさんで、白髪白服の美人さんがリディアさんというらしい。

 ヨシノさんは、ファンさんの従姉で、なので、ふたりとも家名は一緒で、ファーストリバーなのだそうだ。

 で、リディアさんは、こっちの世界の冒険者さんで、クエストの監督者として、昨日からふたりと一緒に行動してくれているのだとか。


 へえ、知り合い同士で、テスターに選ばれたのか。

 それに、最初のクエストの監督って、日を跨いでも継続することもあるんだな。

 どうやら、ふたりとも、与えられたクエストはまだ未達成らしい。


 一応、こっちも俺の簡単な素性と、十兵衛さんの紹介をする。

 ふたりとも、十兵衛さんの中身がお爺さんだって聞いて驚いていたな。

 まあ、見た目はエルフの美少年だからなあ。

 イメージとの落差みたいなのはあるだろう。

 しゃべり方も、けっこう、豪快な感じだしな。


「ファンさんの種族は、ドワーフなんですね?」

「あ、ぼくの方が年下ですから、ファンで結構ですよ? はい。ドワーフです。年齢も見た目のまま、小学生です」

「ファン君は、ちょっと事情がありまして……ですから、私が保護者として、一緒にテスターとして参加しているわけですね」


 詳しい話はご勘弁ください、とヨシノさんに謝られた。

 まあ、そうだろうな。

 普通に考えたら、このβテストで小学生が参加してること自体がおかしいもんな。

 特別な事情とかでもないと、まず、あり得ないだろう。

 昨日の、クラウドさんたちの話からも、テスターの多くは、別の職業を持っている社会人か、更に年上で、もうリタイアして、余生を楽しんでいる『施設』関係の人か、どっちかがほとんどだろうし。

 俺とかみたいに、アルバイトとして、高校生が参加しているのもそれほど多くないんじゃないのかね?

 まあ、ユウとか、ラウラも高校生だから、その辺はよくわからないけど。


 というか、ファン君、ぼくっ娘か。

 いや、ヨシノさんが君付けなので、そっちに合わせてみたんだけど。

 もしかすると、性別も男の可能性もあるか?

 さすがに、その辺は踏み込んでは聞きづらいけどな。


「実は……冒険者ギルドの方で、ぼくに合う装備がなかったんですよ。それで、なかなか町の外へ行けずに困っていたんです」

「あ、なるほど。確かに、その姿だとなあ」


 確かにファン君の場合、十兵衛さんやカミュとかよりも更に小さいもんな。

 ドワーフって種族自体が、確か『小人種』って話だし、それで小さいのかも知れないし、ファン君の実年齢が小学生ってことは、さらにそっちも影響しているかもだし。

 さすがに、冒険者ギルドといっても、このくらいの子供が冒険者として働くこととかは想定していないのかも知れない。


 うん?

 だったら、小学生をあえてテスターに選んだ理由ってのが謎だが。

 SZ社が何を考えてるのか、よく分からないよな。


「それで、こちらはぼくと同じドワーフさんの工房と聞きまして、こちらにぼくも弟子入りして、自分用の武器とか防具を作ろうとしたんですけど……」


 でも、それは断られてしまった、とファン君が落胆する。

 ドワーフであるなら、生産系のスキルとかも得意なので、装備を自作すれば、自分のサイズのものが作れるかと思ったのに、そもそも、"ドワーフだから"という理由で断られてしまった、のだとか。

 何でも、同族を教えるなら、本格的な弟子入りをしないといけないけど、この町にいる、というか、この工房に住んでいるドワーフのペルーラさんは、まだまだドワーフの中でも未熟なのだそうだ。

 要するに、勝手な判断で弟子を取れない。

 特に、同族の場合は、適当な加減で簡単な手ほどきをしても怒られるらしい。

 なので、どうしてもって言うなら、ドワーフがたくさん住んでいる場所まで行って許可を取ってくれ、ってことらしい。


 いや、それは厳しいな。

 外に出られなくて困ってるのに、外の町まで行ってくれって。

 確か、ドワーフの町って、アルミナって言ってたよな?

 この町から、南西にあるけど、カミュの話だと、大分離れてるんじゃなかったか?


「……なんだか、本末転倒な話だな」

「ええ。それで、ぼくも困ってしまいまして。やっぱり、子供には冒険者は無理なんでしょうか……?」


 うーん、やっぱり、こんなちっちゃい子が悲しそうにしているのは見てられないな。

 何とか、できることがあれば、協力したいんだが。

 そんなことを俺が考えていると。


「なあ、そっちの嬢ちゃん。あんたが、ここの刀鍛冶なんだろ? やっぱり、こっちの嬢ちゃんを弟子に取るわけにはいかねえのか?」

「えーと……そっちの子のお友達? それとも、お客さん? ……まあ、どっちでもいいけど。ええ、さっきも言ったけど、今のあたしじゃ同族の弟子はとれないわ」


 あれ?

 十兵衛さんが工房の中に入って、ドワーフの職人さんと話をしてるぞ?

 ていうか、いつの間に?

 まったく、気配とか感じなかったあたり、さすがと言えばさすがだけど。

 それに、まったく物怖じしてないし。

 エルフとドワーフって、こっちの世界だと相性とかどうなのかね?

 見た感じ、普通に話してるよな。


「うん? 同族ってこたぁ、俺とか、そっちのセージュとかなら弟子にしてくれるってのか?」

「セージュ、ってそこに立ってる人間の人? うん、まあ、あたしにも選ぶ権利はあるけど。弟子って程じゃない、簡単な手ほどき程度なら、別に問題ないけど?」

「えっ!? そうなんですか!?」


 その言葉に驚く。

 いや、そのドワーフの職人さんの見た目にも、だ。

 ファン君と同じくらいの背格好の少女が金槌を片手に、立っていたのだ。

 というか、俺とか十兵衛さんの方を見て、何だか不機嫌そうにしてるんだが。


「……というか、いきなり現れたあなたたちは誰? 迷い人は面倒だから、勝手に入らないで、って言ってたんだけど?」

「あ、すみません。俺たちは、武器屋のオーギュストさんの紹介でやってきました。こちらが、その紹介状です」


 何だか、いきなり機嫌が悪くなりそうだったので、慌てて持っていた紹介状を、そのドワーフさんへと渡す。


「ふーん、なるほどねえ……あの偏屈が紹介するなんてめずらしいわね。まあ、いいわ。そういうことなら、あたしにとってもお客さんだしね」

「あ、あの……もしかして、人間種なら大丈夫なのですか? ファン君ではなく、私なら、その弟子入りさせてもらえますか?」


 ふんふん、と頷きながら、オーギュストさんからの紹介状に目を通していたドワーフさんに対して、ヨシノさんも慌てて、そう尋ねかけた。

 そんな俺たちの顔を一通り見渡した後、ドワーフさんは、ふぅ、とため息をついて。


「わかったって。とりあえず、扉開けたまま、大声出されても困るから、みんなちょっとついてきて。そういう話は中でするから」


 他の人に集まって来られても困るから、とドワーフさん。

 まあ、俺と十兵衛さんは別に弟子入りに来たわけじゃないんだけど、何だか、話の流れがおかしくなってきたから、もうちょっと様子を見るとしようか。


 何はともあれ。

 俺と十兵衛さん、ファン君にヨシノさん、それにリディアさんも含めて。

 俺たちは、ドワーフさんに案内されるままに、工房の奥へと足を踏み入れた。

テスターのドワーフっ娘登場です。

ついでに、白いのもこっそり出てますが。

『PUO』のドワーフは小人種の一種なので、小柄で成長が遅い以外は普通の人間種と変わりません。

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