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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第2章 テスター交流スタート
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第37話 農民、エルフ剣士と冒険者ギルドに赴く

「よお、待ってたぜ、セージュ。そっちが、例の大型新人か?」

「はい、大型新人の十兵衛さんですよ。ラー……じゃなかった、例のやつをほとんどひとりで仕留めてしまった人です」


 冒険者ギルドに行くと、今日も受付のひとつにはグリゴレさんがいて、俺の姿に気付いて、歓迎してくれた。

 ただ、『ラースボア』の単語を出そうとした際に、慌てて止められてしまった。

 どうやら、守秘義務については、その言葉を他の誰かに聞かれる場所で発してもダメってことらしい。

 いや、危ない危ない。

 でも、昨日の時点で、聞いてた人もいるような気がするんだが、そっちは大丈夫なのな?

 とりあえず、基準がわからない以上は、余計なことは言わない方が良さそうだ。


「十兵衛ってもんだ。ただ、その『大型新人』ってのはやめてくれよ。俺もそれなりに、いい年なんでな」

「ああ、なるほど。エルフにしては若そうだが、そういう感じなんだな。それじゃあ、改めて、よろしくな、十兵衛。腕の良いやつが冒険者になってくれるのは大歓迎だ。俺はグリゴレ。冒険者の傍ら、ここのギルドで受付なんかの雑用もやってる男だ」


 それじゃあ、例の報酬の話だな、とグリゴレさんが続けて。


「セージュ、十兵衛、俺の後についてきてくれ。報酬の話とかは、別室の方でするからな」


 そのまま、俺と十兵衛さんは、冒険者ギルドの別室へと通された。

 どうやら、そこは応接室のような場所らしい。

 グリゴレさん曰く、受付で堂々とやり取りしにくい取引や、特殊な扱いのクエストなどの処理については、この手の密室で行われるそうだ。

 というか、割と応接室を使うケースは普通に多いらしい。


 まあ、そりゃそうだよな。

 誰が聞き耳立ててるかわからない場所で、報酬の話やら、クエストの成否の話やらやれないだろうしな。

 内容によっては、この手のゲームとかでもお約束な、冒険者ギルドでからまれるってイベントが多発しそうだし。

 なので、冒険者が望めば、空いている部屋を使ってもいいそうだ。

 今回のケースは、領主がらみのクエストなので、問答無用で、応接室へとご案内って感じになるらしいが。


 ともあれ、グレゴリさんと向かい合う形で、俺と十兵衛さんが座って。

 報酬の受け渡しなどに関しての話になった。


 まあ、そうは言っても、十兵衛さんに改めて内容を確認してもらって、報酬を渡すってだけだったけどな。

 俺の分は、後は素材だけだし、そっちの方もグリゴレさんの部下みたいな人が手伝ってくれて、俺と十兵衛さんのアイテム袋へと納めてもらった。


 いやあ、よく入ったよな、あのラースボアの素材が。

 半分はギルドに卸したから、ひとり頭、六分の一ずつなんだけど、それでもかなりな量だったはずだ。

 ただ、グリゴレさんに言わせると、もうすでに、俺たちのアイテム袋の容量を大幅に食っているため、これをどうにかしないと、あまり新しいアイテムを入れることはできないそうだ。

 さもないと、すぐにアイテム袋がいっぱいになってしまう、と。


 うーん。

 それはちょっと困るな。

 サティ婆さんに頼まれた素材とかもあんまり入らなそうだし。


「あと、十兵衛。話によれば、昨日貸した分の装備品を全部ダメにしたんだってな?」

「ああ。カミュの嬢ちゃんに見事にやられてな」

「はは、そりゃそうだろ。あいつ、腕に自信のある冒険者でも片手で捻るようなやつだぞ? 見た目で騙されるとロクなことにならないからな。おっ、そういえば、今日はカミュとは一緒じゃないのか?」

「それはそうですよ。監督は昨日だけですし」


 ああ見えて、いそがしいみたいだしな。

 そもそも、巡礼シスターってのがどういう仕事なのかも謎なんだが。

 俺も、そっちの宗教の話とか疎い方だし。


「なるほどな……はは、それじゃあ、十兵衛、お前のギルドカードをチェックさせてくれ。装備品なんかはそっちを確認した方が早いからな」

「ああ、これでいいか?」

「よしよし……えーと、どれどれ……? ああ、なるほどな。『初心者のロングソード』の方は、今修復中か。昨日、カミュが持ち込んでくれたんで、そっちを修理に回しているようだな。まあ、これなら、買取じゃなくて、修理代だけで済みそうだな。はは、良かったな」


 そう、グリゴレさんがカードをチェックしながら頷く。

 手に持っていた、虫眼鏡を大きくしたようなものでカードをのぞくと、そこにステータス画面みたいな表示が浮き出るのだそうだ。

 あの、虫眼鏡も魔道具なのかね?

 何でも、冒険者ギルドから持ち出し禁止のアイテムなのだとか。


「それと、『ノーマルボアの革鎧』については、『死に戻り』による紛失か……となると、こっちは弁償ってことになるな」

「で? 額はどのくらいだ?」

「ロングソードの修理費が20,000N、革鎧が30,000N、合わせて50,000Nってとこだな。まあ、このくらいなら、今渡した報酬で十分払える範囲だろ?」

「ああ、わかった。五万だな」


 そのまま、貸し装備の弁償分を払う十兵衛さん。

 十兵衛さんの報酬が200,000Nだから、残金は150,000Nか。

 まだけっこう残ってるよな。

 それにしても、あの革鎧、ノーマルボアの皮素材だったのか。

 たぶん、加工費用とかも込みだろうけど、討伐報酬よりも革鎧一個の方が高いのな。

 それでも、『ホルスンの革鎧』と比べるとまだ安いけど。

 いや、教会のホルスンってどれだけ高価なんだよ。


「まあ、弁償は当然として。で? 俺の武器はすぐに戻って来るのか?」

「あー、さすがに修理にもう少しかかるだろうな。どうする? あのロングソードが気に入ってるのなら、修理が終わるを待てばいいし、一応、元通りにする修理費は受け取ったからな。ギルドの倉庫から新しい武器を借りてもいいし、今の報酬で買えるものを探してもいいぞ?」

「そうだな……倉庫にある武器は昨日見たので全部だろ?」


 刀がねぇんだよな、と十兵衛さんがぼやく。

 確かに、俺が武器を色々と物色していた時も、日本刀のような片刃の剣はなかったよな。

 やっぱり、十兵衛さんとしては、刀がいいみたいで、グリゴレさんにも、日本刀の形状などについて、話をしてみたのだが。


「刃が反ってる剣ねえ……デザートデザートの方で、曲剣ってのがあったはずだが、たぶん、この町での入手は難しいぞ?」

「いや、曲剣とは少し違うんだよなぁ。せめて、太刀でも構わねぇんだが」

「あの、グリゴレさん、この町にはドワーフの職人さんがいるんですよね? その人に頼んで、作ってもらうってことはできないんですか?」

「おっ!? セージュ、この町に刀匠がいるのか!?」

「いや、あの、刀鍛冶かどうかは知りませんけどね?」


 ちょっと、この後、農具に関する相談もあったので、ちょうどドワーフの工房に行ってみようと思っていた、と十兵衛さんに伝える。


「おおっ! そいつは面白ぇじゃねえか。俺も一緒に行くぞ! 刀を打ってくれそうだしなぁ」

「まあ……確かに、ペルーラの工房だったら、相談するだけしてみてもいいとは思うが……だが、連中、けっこう気難しいぞ? そもそも、いきなり訪ねて行っても門前払いだろうしな」

「あ、それでしたら、武器屋のオーギュストさんから紹介状みたいなものをもらってますよ。一応、話ぐらいは聞いてくれるって言われましたけど」

「本当か!? おい、セージュ……お前、本当に迷い人か? 町長との件もそうだが、短い間で随分と顔が広くなってるじゃないか」


 まったく呆れたもんだ、とグリゴレさん。

 そもそも、オーギュストさんが他の鍛冶屋を紹介すること自体が珍しいのだとか。


 ふーん? 

 そういうもんなのかね?

 オーギュストさんに関しては、農具の話をしたら、申し訳なさそうな、悔しそうな感じで、うちじゃほとんど扱ってないんだとか何とか言われて、その流れで、ドワーフさんの工房を紹介されただけなんだけどな。

 そもそも、農具を買いに来る町民がほとんどいないから、商品にならないってだけだったらしいぞ?

 いや、畑を耕すのに使うと思うんだが、そんなに買い手がいないのかね?

 町の北側には立派な畑が広がってるから、俺も、それなりには農民がいるとばかり思っていたんだが。


 ただ、紹介してもらえた理由は何となくわかる。

 たぶん、条件は『武器屋で扱っていないものを買い求める』なんだろうな。

 ゲーム的に言えば、そうすれば、紹介状をくれるとかそんなところだろう。


「まあ、そうだな。オーギュストの店でも、十兵衛が求めるような、そんな剣は売ってはいないだろう。なら、ペルーラたちの工房の方が可能性があるな……もっとも、一から武器を注文するなら、それ相応の金がいるってことは覚悟しておいた方がいいぞ。ドワーフの持つ技術ってのは、それぐらい価値があるからな」


 なるほど。

 俺たちの持っている報酬を知ったうえで、グリゴレさんが注意してくれるってことは、今の所持金だと買えない可能性も高いってことか。


「どうします、十兵衛さん? 買えなければ、武器も防具もないですけど」

「はん、そんときはそんときだろ。いざとなりゃあ、この身ひとつでも何とかしてやらぁな」

「いやいや、十兵衛。その時はギルドまで来い。最低限の装備は貸してやるから」


 その辺の化けもんぐらいなら何とかなる、と息巻く十兵衛さんに、慌てて、それを思い止まるように説得するグリゴレさん。

 冒険者ギルドとしても、そんなことで、有望な新人を危険に晒したくないってことらしい。


 ともあれ。


「何にせよ、ドワーフさんたちの話を聞いてからですね。どうするかを決めるのは」

「だな。はは! 楽しみだぜ!」


 一刻も早く、ドワーフの工房へと向かいたがる十兵衛さんに、俺とグリゴレさんは苦笑する。

 やっぱり、年齢の割にはかなり子供っぽいところがあるよな、この人。

 そんなことを考えながら、冒険者ギルドでの話はお開きになったのだった。

ラースボアの件は、十兵衛さんにも口止め済み。

次はドワーフの工房です。

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