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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第2章 テスター交流スタート
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第28話 農民、テスター三人組と知り合う

「それじゃあ、セージュ、またな」

「はい。ありがとうございました、グリゴレさん」


 ラルフリーダさんの家から、元の畑道へと戻って来た後で、グリゴレさんとは、そのまま別れた。

 何でも、まだ冒険者ギルドでの仕事が残っているのだそうだ。

 俺たちから買い取った素材とかの処理とかも含めて、だ。


 あ、そうそう。

 ラースボアの残りの素材については、仕分けが終わったら教えるから、その後で冒険者ギルドまで取りに来るようにと言われた。

 正直、新しく受け取ったアイテム袋に全部収まるか不安な量なんだが、残念ながら、今回のラースボアの素材は『皮』としてはボロボロになっているため、今ひとつなのだそうだ。

 つまり、買い手がつきにくい。

 なので、冒険者ギルドとしてもあんまり在庫を抱えたくないんだろうな。


 そういう事情もあって、ギルドとしては買い取り額を安く見積もらざるを得なかったらしい。普通はあれだけの量の素材なら、もうちょっと価値がついてもおかしくはないそうだ。

 ただ、そうは言っても、だ。

 自分たちで別の手段で活用したりすると、もうちょっと儲けが出るとか何とか、その辺の裏事情もグリゴレさんがこっそりと教えてくれた。

 装備品のための素材としては、微妙な質だけど、何せ、巨大蛇の素材だけあって、一応はきちんとした加工品が作れるのだ。

 条件次第ではけっこうな値段になったりもするかもしれない、と。


 例えば、生産職の迷い人(プレイヤー)に売ったりとか。


 生産系のスキルを伸ばすためには、まず素材を加工して、品物として完成させないといけないので、そういう意味では、意外な需要が見込めるのだそうだ。

 ただ、そっちのルートは商業ギルドで確保しているわけもないので自分で頑張るしかないそうだ。

 まあ、当然だな。

 迷い人がこっちにたくさんやって来る前提での商売なんて考えているわけがないし。


 だからこそ、俺が足で稼げば、それで商売が成り立つかもしれないのだろう。

 さすがに、店を構えるためには商業ギルドの許可が必要だけど、個人どうしでの売買契約なら、そこまでは関与しないみたいだし。

 その分、価格などに関しても、商業ギルドが基準のラインを保証してくれるわけでもないので、注意しないと、適正価格から大幅にずれることもあるようだけどな。


 あと、これはちょっと別の話だが、結局、さっきのごはん代はカミュが奢ってくれることになった。


「ふふ、予想よりも儲けが多かったからな。これで、セージュにたかったりしたら、あたしに罰が当たるかもしれないし」


 まあ、1,000Nだから、ラースボアの報酬から見れば、あんまり気にならないだろう。

 こちらもありがたく、ご厚意に甘えておくことにする。


「それで、セージュはこれからどうするんだ?」

「ようやく、お金が手に入ったからな。ギルドカードもあるから、今度はきっちりと買い物とかできるだろ? だから、もう一度、町を巡ってみることにするよ」

「ま、それがいいだろうな」


 そう、カミュも頷いてくれた。

 本当、このシスターさんには町に来てから世話になりっ放しだ。

 おかげで色々な人とも知り合うことができたし、偶然なのか、実はそういうイベントだったのかは知らないが、結果として、複数のクエストを入手することができたしな。

 うん、本当に感謝してるよ。


「ありがとうな、カミュ」

「ふふん、ま、そういうのが人の縁ってやつだ。本当だったら、ナビとか、冒険者の誰かが担当するんだったんだろうが、セージュの場合、種族も職業もちょっとめずらしい部類だったんだろうな。あたしに割り振られるとは想定外だったからな」


 その分、あたしも楽しめた、とカミュが破顔する。

 結果として、お互いにメリットがあったってことで良さそうだ。


「ちなみに、カミュはこの後どうするんだ?」

「あたしか? そうだな、今日のところは教会の方の様子でも見に行くさ。何せ、外からのお客さんも多いだろうし、教会で無礼を働くようなやつもいるかも知れないだろ? そうなったら、あたしの出番だな」


 ふっふっふ、と物凄く悪そうな笑みを浮かべるカミュ。

 うん。

 やっぱり、カミュは怒らせちゃいけない相手で間違いないな。

 十兵衛さんを一撃で死に戻らせる程度の実力者だし。


「おーい、おーい! ちょっといいかー!?」


 そんなことをカミュと話しながら歩いていると、遠くから声をかけられた。

 声のした方を振り返ると、おそらく俺と同じテスターの人だろうな。いかにも冒険者、って感じの装備を固めた人たちが、こちらに向かって走ってくるのが見えた。

 声を出しているのは、一番若そうな男の人だ。

 それでも、俺よりはちょっと上そうだから、大学生とかそんな感じだろうか。

 ちょっとくせっ毛な感じの黒髪をした、盾と鎧で身を固めている剣士タイプ。

 ただ、やっぱり、こっちの住人と違って、鎧とかは着せられている感じのイメージが強いかな。

 いや、たぶん、俺も他の人から見たら、コスプレの冒険者なんだろうけどさ。


 その剣士風の男の人の後ろからついてきているのは、魔導士風の杖を持った女性の人と、口元にスカーフのようなものを巻いている、ちょっと見、忍者のような服装をしている男の人だ。

 どちらも、年齢的には、手前の剣士さんよりも年上というか、おそらくは社会人なんだろうな、という風貌をしている。

 何というか、前を走っている剣士さんに対して、やれやれという感じで付き合いで走ってきているというか。


 ただ、こちらとしては、呼び止められる覚えはないんだが。

 何の用だろうか?


「はい、なんでしょう?」

「いや、別に大した用じゃないんだが、『けいじばん』で有名になったカミュちゃんと一緒に行動しているテスターがいるって聞いてさ。見つけた時、嬉しくって、声をかけちゃったんだよ。あ、俺、テツロウって言うんだけどさ」


 おおう。

 何だか、朗らかなんだけど、ぐいぐい系の人だな。

 ただ、どこか人懐っこい印象も受けるので、そこまで嫌な感じじゃないし。

 あくまでも、好意的に話しかけてくれたってことらしい。


「おい、テツロウ君。そっちの彼が目を白黒させてるじゃないか。いきなり、興奮気味で話しかけられたら、普通はびっくりするぞ?」

「ごめんなさいね、私たちも、最初のクエストでパーティーを組んだ縁で、そのまま一緒にいるんだけど、たぶん、悪気はないのよ。ゲームが大好きで、ゲーム好きの人もみんな仲間って思ってる、ってだけでね」

「はあ、なるほど」


 その、テツロウさんとやらをフォローするふたり。

 何でも、その忍者風のスタイルの男性がクラウドさんで、魔導士風の女の人がアスカさんという名前なのだそうだ。

 話を聞いてみると、さっきまで俺がやっていた冒険者ギルドの最初のクエストイベントを、パーティーを組んで監督を受けて、それを三人で終わらせたのだとか。

 へえ、そういうのもあるんだな?

 あれって、初心者のソロプレイヤーのためだけじゃないのか。

 終わるまで、他のプレイヤーと会えないとかなんとか。

 でも、まあ、確かに言われてみれば、ソロの心得だけじゃなくて、パーティーを組んで戦ったりするのも、チュートリアルとしては用意されていてもおかしくないものな。

 相変わらず、情報不足で、どういう条件で選ばれるのかとかは、まだ検証が不十分でよくわからないみたいだけどさ。

 テツロウさんたちの他にも、『けいじばん』にパーティーに関する吹き込みとかも出始めたらしいので、そっちとも連携をとって検証を進めていく予定とのこと。


 あ、そっか。

 そういえば、テツロウさんとかって、どこかで聞いた名前だと思ったら、よく『けいじばん』で発言を残してる人だよな。

 俺、まだ最初の方しか、『けいじばん』を確認してなかったけど、それでも、他の人よりも吹き込んでいる回数とかが多いような気がするし。


「うーん……カミュちゃん、ってあたしのことか?」


 そんな中、ひとり戸惑うような顔をしているのはカミュだ。

 でも、見た目から考えると、普通に『カミュちゃん』って呼ばれるような歳にしか見えないんだよな。

 この町の人とか、カミュのことを知っている人の多くは、どこか敬意を持って話しかけているけど、たぶん、接点がなければ、そんな感じになる気がするぞ?

 そう、当の本人にも伝える。


「いや、だったら、カミュでいいって。『ちゃん』とか付けられても、そんなの柄じゃないし、お淑やかにするのなんて、あたしの趣味じゃないぞ?」

「あれ? もしかして、カミュちゃんって大人?」

「まあな。ええと……あんたテツロウって言ったか? 少なくともあんたよりは年上だよ。詳しい年は内緒だがな。その辺は、もうちょっと親しくならないと教えてやらないよ」


 ふふん、と挑発するようにカミュが笑う。

 同時に、乙女の秘密を探るんじゃない、とも。


「あー、いいんだ、いいんだ。別に、ストーカーみたいに詳しく知りたいってわけじゃないし。ただ、『けいじばん』でナビさんの他に発言してる人がめずらしいから、どんな人かな、って興味を持っただけだし。うんうん、こうやって出会えただけでも、俺にとっては嬉しくって嬉しくって!」


 握手して下さい、と満面の笑みを浮かべるテツロウさん。

 

「いや、まあ……握手ぐらいなら……これでいいのか?」

「はい! ありがとうございます!」


 というか、あのカミュがかなり困ったような顔をしているぞ?

 それでも、好意百パーセントのテツロウさんの態度には、ばっさりとやるわけにもいかずに、ちょっと面喰っているというか。

 ふふ、何となく、横で見ている分には面白いよな。


 まあ、せっかくなので、他のふたり……クラウドさんとアスカさんも同様に、カミュとお互い挨拶をかわしていた。

 やっぱり、『けいじばん』を見ていた人たちにとっては、金髪シスターこと、美少女NPCのカミュの存在って、それなりにインパクトがあるのだとか。

 ついでに、なぜか一緒に行動していた俺に対しても注目が集まっているとかいないとか。

 あー、それでか。

 冒険者ギルドとか、その後でラルフリーダさんの家に向かっている途中とかも、変な感じの視線を受けた気がしたんだよな。

 まあ、原因がカミュにあったってことで、それがわかっただけでも一安心だ。


「じゃあ、あたしも教会の方に行くぞ。セージュの監督も終わったしな。後は好きにすればいいしな」

「教会に行けば、カミュさんに会えるんですか?」

「カミュでいいっての……まあ、毎日いるわけじゃないが、暇な時はこの町の教会も覗きに来るさ。一応、あたしも巡礼シスターだからな。それであっちこっちの町へと行き来してるからな」


 そう言って、その場から別れようとして、カミュが何かに気付いたように、クラウドさんとアスカさんの方へと向き直る。


「あ、そうだそうだ。忘れるとこだった。クラウドとアスカだな? あんたらがらみで、ちょっと頼まれていたことがあったんだ。そのままの位置で立っていてもらってもいいか?」

「え……?」

「どういうことですか?」


 戸惑うふたりに対して、カミュが不敵な笑みを浮かべて。


「なに、ふたりとも合格ラインに達したって伝達があったんでな。ちょっと、ひとつばかり、スキルを授与してやるよ……ほら」


 カミュがそう言うと、ふたりの身体が光に包まれる。

 あ、これって、さっき俺が受けたのとおんなじだよな?

 『身体強化』のスキルの授与。

 どうやら、この町でも、『身体強化』の付与魔法が使えるのは、カミュだけらしく、ギルドの方からも、そっちの仕事も回されているのだそうだ。


「よし、終わったぞ。これで、ふたりとも、『身体強化Lv.1』が得られたはずだ」

「あっ! すごいです! スキルってこういうこともできるんですね?」

「おー、これは嬉しいな。ありがとうございます」


 自分のステータスを確認して、喜ぶアスカさんとクラウドさん。

 一方のテツロウさんは、ちょっとふて腐れた感じで。


「えー、俺はスキルもらえないのー?」

「いや、テツロウ、あんたは、もう『身体強化』を持ってるだろ? さすがにあたしでも重複でどうこうはできないぞ」

「うわ、やられた!? けっこう、重要そうなスキルだと思って選んだのに……しょんぼりだよ」


 どうやら、テツロウさんは種族とかスキルを自分で選ぶやり方だったらしい。

 それで『剣士』として、『身体強化』は重要そうだから、もう取得済み、と。

 まあ、確かに最初のイベント報酬でスキルがもらえるなんて、わからないものな。


「まあ、あんまりがっかりするなよ。そうだな……そういうことなら、テツロウがもうちょっと頑張ったら、あたしが別のスキルを授けてやるよ。だから、腐らずに、一生懸命、冒険者としての仕事に励んでくれ」

「えっ!? 本当!? ようし! 俺、頑張るぜ!」


 すぐさま、大喜びするテツロウさんに、カミュが苦笑する。

 てか、この人、俺より年上だけど、どこか子供っぽいのな。

 でも、やっぱり、憎めないというか。


 何にせよ、新しく他のテスターさんと知り合うことができたのは嬉しいな。

 目の前の光景を見ながら、そんなことを思う俺なのだった。

前話でチュートリアル編終了です。

ここから、セージュの勝手気ままな冒険が始まります。


まさかここまでで十万字以上かかるとは……。

『ちょこっと』よりはテンポアップで頑張ります。

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