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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第1章 チュートリアル編
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第20話 農民、大地の恵み亭を訪れる

「よし、ここだここ。それなりの飯を食わせてくれて、値段もそこそこ。それに『迷い人』にとっては、割と助かる飯屋だな」

「へえ……『大地の恵み亭』か」


 カミュに連れてこられたのは、冒険者ギルドからもほど近いところにある一軒のお食事処だった。

 木でできたシックな作りの店で、建物自体は立てられてから大分年月が経っているようにも見えるが、きちんと掃除とかはされているようだ。

 うん、清潔感はあるな。

 中々雰囲気の良さそうなお店だ。

 店内にはすでに食事している、この町の住人らしきお客さんとかもちらほら見えるしな。


 あ、そういえば、もうお昼過ぎの時間なんだよな、こっち側の時間だと。

 ちなみに、ステータスの項目には時計もきちんとあって、今何時かってのもわかるようになっている。

 ゲームの中の世界の時間と、向こうでの実時間の表記だ。

 何で、二種類もあるかっていうと、この『PUO』の場合、中で過ごした時間のコントロールができたりするからなのだそうだ。

 俺の場合、今は『一倍速』の状態なので、向こうの時間とのずれがないんだけど、『二倍速』とか『四倍速』とかの設定の場合、向こうとの時差が生じてしまうんだと。

 最初、それを聞いて、すげえって思った。

 一日で、四日分も楽しめるのかー、って。

 ただ、単純にそういうわけでもないらしく。

 あんまり、時間を加速し過ぎてしまうと、身体への……特に脳への負荷が大きくなりすぎるらしくて、『二倍速』の場合はプレイ限界は12時間、『四倍速』の場合はプレイ時間は6時間が限界なのだそうだ。

 要するに、いそがしくて、長時間プレイできない人のための措置ってことらしくて、普通は、なるべくだったら、そのままの時間で楽しんで欲しいとは言われた。

 元の身体で長い時間プレイするのが体力的にしんどい人とかも、短時間で一日分楽しめる配慮ってことらしいな。


 てか、その方法で、どうやって他のプレイヤーとの時間を合わせてるんだろうな?

 このゲームだとそういうことができるらしいんだが、本当だとすれば、すごい技術だとは思う。

 正直、俺程度の頭だと、全然理屈がわからないしな。

 何かすごい技術、って感想しかないぞ。


 ただ、その時間の帳尻ってやつも、一日単位でしかできないっぽくて、丸一日、一切ログインしなかった場合は、さすがに難しいらしい。

 まあ、そりゃそうだよな。

 たぶん、さっきカミュから説明を受けた『死に戻り』の件も、一日としてリセットされるから、それで再ログイン可能まで、一日とかそういう話なんだろうなとは思う。

 設定上は、身体の修復に一日かかるって感じで。


 まあ、それはそれとして、だ。

 いい加減、俺も空腹状態で歩くのがかなり辛くなってきているのだ。

 この、空腹のペナルティって、現実よりもきつくないか?

 とにもかくにも早く食事を取りたいぞ。


「おーい、おやじ、飯食わせてくれ。今日は、迷い人のお客さんを連れてきたぞ」

「おっ、カミュが誰か連れてくるなんてめずらしいな。おい、ジェムニー、ふたりを席に案内してやってくれ」

「はーい、では、お客さん、こちらへどうぞー」

「……えっ!?」

「うん? どうした、セージュ? ほら、せっかくジェムニーが案内してくれてるんだから、あたしらもついていくぞ」


 俺がその給仕の女の人の姿に驚いていると、カミュがそう言って俺を促す。

 とりあえず、カミュや、さっき店の奥の、ここからも見える厨房で肉らしきものを焼きながら応じてくれていた店主らしきおやじさん、それに周りに座ってごはんを食べているお客さんたちにとっても当たり前の光景らしいのだが。


 いや、だけどさ。

 その、給仕の人の身体って、水色をしていたのだ。

 ちゃんと女性物の服は身につけているんだけど、髪の毛とかも含めて、全身が透けるような水色というか、いや、実際少し透けてるよな?

 そんな身体なのだ。

 初めて目にしたら、びっくりすると思うぞ?


「いや、あの、ジェムニーさんって、もしかして、スライムさんか何かですか?」

「あ、うん。お客さん、粘性種と出会うのは初めてなんだねー。確かに、普通の町とかだと、あんまり住んでないしねー」


 びっくりした? と屈託のない笑顔を浮かべるジェムニーさん。

 なるほど、やっぱりスライムでいいのか。

 こっちの世界だと、スライムは粘性種って種族になるのだそうだ。

 成長するにつれて、変化へんげとか擬態が得意になって、今のジェムニーさんのように人型をとったりもできるようになるのだとか。

 うん。

 最初は驚いたけど、いかにもファンタジーって感じの種族だよな。

 こういうの見るとテンションがあがるなー。

 一応、ちょっと前にエルフにも会ったけど、中身が十兵衛さんだと、どっちかっていうと侍とか武士っぽいイメージが先行しちゃったしな。


「そうだな。本来だったら、粘性種が普通の町の中にいるのも、ちょっとあり得ないしな。この町の場合、ジェムニーがそっち関係のやつだから、ってのもあるし」

「え? そっち関係ってなんだ?」

「あー、お客さん、わたし、ナビだよー。二番のナビのジェムニー。だから、よろしくねー、『迷い人』さん」


 そうなのか!?

 いや、『けいじばん』では、そのナビさんって人の話とかもあったけどさ。

 俺が直接会うのは初めてだよ。

 へえ、目の前のスライムさんがナビさんのうちのひとりなのか。


「こちらこそよろしくお願いします。でも、あれ? ナビさんって、毛玉っぽい感じの見た目じゃないんですか?」

「うん、そういう子もいるよ? わたしは粘性種のからだを持ってるってだけー。この世界のあっちこっちにナビはいるけど、その特徴とか種族は、個体ごとに違うの」

「あ、そうなんですね」

「ふふ、ま、どのナビも、やることはあんまり変わらないさ。こっちの日常に溶け込みつつ、今だったら、『迷い人』のサポートをするってな。だから、スタート地点が別のやつらの近くにも、ナビはいるはずだぞ? このオレストの町は教会とかも込みだから、一番手厚いのは間違いないが」


 あ、なるほど。

 レア種族を得て、他の場所に飛ばされたプレイヤーにもそういう形で手助けしてくれる存在が用意されてるんだな。

 まあ、それはそうだよな。

 いきなり、変なとこからスタートで周りに助けになる者が誰もいなかったら、困っちゃうだろうし。

 特にこの『PUO』の場合は、事前情報がほとんどないしな。

 要するに、世界に散らばっているナビさんたちは、俺たちにとってのお助けキャラってことらしい。


 あれ?

 ってことは、このジェムニーさんにも何か役割があるのか?

 そう、カミュたちに尋ねると。


「ああ、ジェムニーの場合は、食事に関してだな。だから、あたしもあんたをここの店に案内したんだよ。ま、セージュ、あんただったら、他の店の料理でも問題なく口にできそうな感じだけどなあ」

「え? なんだよ、それ? 他の店の料理じゃまずいのか?」

「いや、ここの店でも、ジェムニーが用意した魔素料理以外は、正直、『迷い人』の口に合うかどうかってのは微妙らしいぞ? そんなことをエヌが言ってたからな」


 いや、カミュの言ってる意味がよくわからないんだが。

 食えない料理を出すのか? この町のごはん処って。


「ほら、さっき、セージュは町の外でモンスターの食材を狩ってきたろ? さあ、思い出してみな。さっき獲れた食材は何だ?」

「え……? さっきの……? あ! なるほどな! そういうことか……」


 あー、そっかそっか。

 俺が採って来たのって、ぷちラビットとボア系の蛇の肉だ。

 ということは、だ。


「な? わかっただろ? この辺のポピュラーな食材ってのは、ぷちラビット系のうさぎ肉やボア系の蛇肉だ。まあ、どっちも栄養的には問題ないよな。あたしらも普段から当たり前のように食ってるもんだし。ただ、『迷い人』にとってはどうなんだ?」


 うわ。

 確かに、俺の場合、どっちも問題ないな。

 野ウサギとかは、そもそもさばけるし、ジビエの食材だしな。蛇にしたところで、実家の教育方針やらで、肉を食ったりもした経験があるから、大丈夫だし。

 だけど、確かに、向こうの日本の食事情に慣れてる他のプレイヤーが喜んで食べられるかっていうと話は違うよな。

 カミュの話だと、この辺りだと、うさぎと蛇が重要なタンパク源ってことらしい。

 他のモンスターは、そこそこ森の奥に入らないとあんまり遭遇しないらしく、そういう意味では、この町の名物料理は蛇ってわけで。


 いや、そんなとこわざわざ地域色を出さんでもいいっての!

 まあ、別に、向こうに帰れば、美味い飯があるから、ゲームの中でも食事にこだわるつもりもないけどさ。

 だったら、空腹でのデメリットの方を何とかして欲しいんだが。

 まあ、ゲームの中で食事なんて、今までのゲームとかでも存在しないしな。

 やっぱり、新しい試みってのは難しいんだな、とは思う。


 待てよ?

 そのために、ジェムニーさんがいるんだよな?


「ジェムニーさんは、それ以外の料理が作れるってことか?」

「見た目はな。というか、空腹を満たす、毒にも薬にもならない料理が作れるってことだ。魔素から直接料理の形にしてな」

「うん、空腹用の回復アイテムって扱いだね」


 なるほど、よくわからん。

 

「まあ、言葉だけじゃよくわからないだろ? まずは、どういう料理かってことを見て、食べてもらった方が早いな。ジェムニー、とりあえず、今日のここのおすすめと、魔素料理、それぞれを持ってきてくれ、二人分な」

「はい、注文入りましたー。今、用意するから、待ってて」


 にっこりと営業スマイルを浮かべて、ジェムニーさんが奥へと引っ込んでしまった。

 一応、給仕をやりつつも、その『魔素料理』の注文が入ったら、彼女がそっちを作って持ってくるって形らしい。

 いや、そもそも、魔素料理って何だ、って話なんだが。

 それに、こっちの郷土料理かあ。

 そんなに、俺たちの口に合わないのかね?


「カミュ、こっちの地元料理って、あんまり美味しくないのか?」

「いや? だから、あたしらとしては普通に美味いっての。ただ、エヌの話だと、あんたらの世界って、料理に関しては進んでるんだろ? それと比べると微妙だって話は聞いたぞ?」

「うん? だったら、そのエヌさんに頼んで、味だけでも再現すればいいんじゃないのか?」

「うーん、何でも、まず情報が足りないんだと。それに、こっちの素材で同じような味を生み出すには、色々と不足しているものがあるそうだ。そもそものモンスターの肉にしたところで、改良か? 何か、そんなことをしないとどうしようもない、ってな」


 えーと?

 ちょっと、カミュが言ってることって、おかしくないか?

 ただ、まあ、できないっていうなら仕方ないか。

 そもそも、ゲームの中で美食を楽しむなんて、VRの使い方としてもまだまだ研究段階なんだろうな、と納得する。


 そんなことを考えながら。

 俺とカミュは食事ができるのを待った。

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