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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第1章 チュートリアル編
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第19話 農民、冒険者ギルドに戻る

「ふぅ、何とか、無事に戻って来れたな」

「まあ、幸いと言うか、ラージボアとかとは遭遇しなかったからな。ぷちラビットだけなら、今のセージュの体力でも何とかなったしな」


 門番の人にあいさつして、町の中へと入って、ようやく、ホッと一息つく。

 いや、安堵ってだけじゃなくて、少し身体が重いのだ。

 これが空腹状態でのペナルティってやつか?

 まあ、ラースボアとの戦いで、魔法とかも使ったから、今の俺のレベルとしては、けっこう消耗はしていたらしい。

 というか、その状態でも素材の採取が終わるまで、町へ帰還させてくれなかったあたり、カミュもスパルタな気がするぞ。


 そして、町に戻って来て、気付いたことがもうひとつ。


「あっ、他のプレイヤーっぽい人の姿もあるんだな」

「まあ、あんたの他にも、最初のクエストを終わらせたのが、ちらほら出始めたんだろ。てか、セージュの場合は、もう、十兵衛と会ってただろ」

「あ、そう言えば、十兵衛さんとは会えてたよな」


 何でだ?

 掲示板での情報では、クエストが終わったら、共通の世界へと移るって感じだったらしいから、もしかすると、最初のぷちラビットを倒した時点で、条件を満たしていたのかもしれないな。


「十兵衛さんもあの時点でクエストをクリアしてたってことか」

「いや、もしかすると冒険者ギルドの依頼を無視した可能性もあるぞ?」

「えっ!? そんなことできるのか?」


 あれ、チュートリアルみたいなもんだろ?

 そもそも、それを断ったら、冒険者ギルドから装備品を貸してもらえないんじゃないのか?

 そう尋ねると、カミュが首を横に振って。


「セージュの時も、例えば、『監督者なんていらない、俺も立派な冒険者だ!』とか何とか言えば、装備品の貸与と冒険者ギルドカードの交付、それだけで、ある程度自由に行動できたはずだぞ」

「へえ! そんなことができたのか」


 いや、さすがにそれは試したりしなかったけど。

 一応、腕に自信がある場合とか、ギルドの職員が能力を見て、これなら、ひとりでも大丈夫って感じた相手なら、そういうことも可能になるらしい。

 あー、確かに、十兵衛さんのプレイヤースキルなら、ひとりでも何とかなりそうだもんな。

 てか、森のところまで行って、あの巨大蛇といきなりやりあって笑ってる人だし。


「ふふ、確かに、十兵衛なら、あたしでも『勝手に行け』って判断したかもな。セージュと違って、サポートとかあんまりいらなそうだし」

「悪かったな、いかにも頼りなくて」

「はは! 拗ねるな拗ねるな。あんたはあんたなりに良いところがあるんだから、自信を持てばいいんだよ。少なくとも、解体に関しては、あたしも文句なしで合格を与えるしな」


 うーん。

 それはそれで、俺としては微妙なんだが。

 結局、農家で培ったことが役に立ってるってことだものな。

 ……おい、やっぱり、ゲーム会社とか諦めて、実家で農園を継げって言われてるような気がするぞ?


「まあ、最初のやつを無視したらしたで、そっちもデメリットはあるしな。ま、その辺は個人個人で決めればいいのさ。あたしらとしては、無鉄砲に町から飛び出しては、教会の世話になるようなことだけは勘弁ってとこだしな」

「教会としては、その方が儲かるんじゃないのか?」

「あのなあ……別に教会は金儲けの集団じゃないぞ。もちろん、モットーが『働かざる者食うべからず』だから、それなりに自分たちで自分の食い扶持は稼ぐってのは大事だ、ってことにはなってるけどな。正直、癒しに関しては、慈善事業もいいとこだよ。さすがに、一回500Nだと割に合わないんだよ」


 それをやるシスターも疲弊するしな、とカミュが嫌そうな顔をする。

 とは言え、救済措置のひとつなのでやめるわけにもいかない、とのこと。

 まあ、その辺はゲームの中とはいえ色々あるんだな。

 なまじ、AIがしっかりしてると、大変だよな。


 というか、神聖教会のモットーって、『働かざる者食うべからず』なのか。

 随分と、即物的な感じだよな。

 どっちかって言えば、うちの家訓に近いんだが。

 このアルバイトで金が入るってことになったら、あっさりと札幌まで出てくるのも許可してくれたしな。

 そうじゃなかったら、夏休みの間中、家の手伝いだったっての。


 それはさておき。


「カミュ、さっさと冒険者ギルドへ行こうぜ。少しずつ体に力が入らなくなってきたんだよ」

「まあ、飯食うためにも金がいるしな。よし、それじゃあ急ぐぞ」


 そのまま、俺たちは冒険者ギルドへと向かった。





「おっ、無事戻って来たか。はっはっは、まあ、カミュが同行したから、心配はしてなかったがな。な? 強かったろ、見た目と違って」

「はい、すごかったですよ」

「……だから、見た目の話はいいっての」


 冒険者ギルドの窓口に、グリゴレさんの姿を見かけたのでそのまま、その窓口へと進む。

 他の窓口では、可愛らしい受付嬢とかもいて、そこに俺の他にもテスターっぽい冒険者とか、そうじゃないこっちの世界の冒険者っぽい人たちが並んでいた。

 うーん。

 グリゴレさん、見た目はごついもんな。

 そういうので、受付の相手にも好みとかがあるのかもしれないな。

 まあ、俺としては、ちょうど空いているのはありがたいんだけどさ。


「で、どうだった? クエストはうまく行ったか?」

「ああ、まあな。それで、悪いがグリゴレ、ちょっと場所移すぞ、ここだと素材が出し切れないんでな」

「は? なんだよ、駆け出しのやつ相手に、そんなに無茶なことさせたのか?」

「いや、別にあたしのせいじゃないぞ? 色々と変なことに巻き込まれたんだよ。どっちかって言えば、セージュの運の問題じゃないのか?」

「え、俺のせいなのか?」


 いや、そもそも、ラースボアにしても、カミュが見に行きたいって言ったんじゃないかよ。

 別に俺がどうこうしたわけじゃないと思うんだが。


「まあ、とりあえず、素材倉庫でも、解体場でもどっちでもいいぞ。どっちにせよ、大変なのはグリゴレの方だしな」

「おい……あんまり脅すなよ。てか、そんなにか?」

「ああ。もっとも、セージュだけの手柄じゃないがな」


 そう言って、俺の方を見ながら意味ありげに笑うカミュ。

 そんな彼女を見つつ、グリゴレさんが軽くため息をついて。


「わかった。まあ、物を見ないとな。案外、何となくで、カミュに仕事を頼んで良かったのかもしれないしな」

「ああ、それは同感だな。あたしが同行してなきゃ、もうちょっと面倒なことになってたかもな。いや、むしろ逆か。セージュにとっては、そうじゃない方が、ごく普通で平凡なクエストになったかもな」


 そんなことを話しながら、カミュたちがギルドの奥の方の部屋へと歩いていくので、俺もその後をついていった。

 何となく、視線のようなものを感じたけど、まあ、気のせいだろうと放っておく。


 しばらく廊下を歩いて、着いた場所は『解体場』という看板がある部屋だった。

 中に入るとけっこう空間が下の方へと広がっていた。

 あ、なるほど。

 地下の方へと吹き抜けで空間が確保されているんだな。

 冒険者ギルドの建物だけ見ると、こんなに大きな部屋が隠されてるなんて気付かないよな。


「へえ、ここが解体場ですか?」

「ああ、駆け出しの冒険者はあんまり来る場所じゃないがな。そもそも、このくらいの高さが必要なだけの大型モンスターの素材とか、そういうためにある部屋だしな。もちろん、普通のぷちラビットとかも、ここで作業はするけどな」


 一応、サイズは大きい方に合わせてある、とカミュが笑う。

 ということは、ここに運び込まれる素材ってかなり大きなものもあるってことだよな?

 さっきのラースボアとかも余裕で入るくらいの奥行きも深さもあるし。

 普通に長い階段が下まで続いているというか。

 そのまま、しばらく階段を下りると、ようやく、下の地面へと着いた。

 いや、そもそも、こんなに地下を掘っているってのが驚きだ。

 オレストの町が、平屋建ての家ばっかりだったことも含めて、それとこの場所の光景とじゃ、大分イメージが変わってしまうんだが。

 

「よし、じゃあ、俺も腹をくくったぞ。何を出しても驚かないから、持ってきた素材ってやつを見せてくれよ」

「じゃあ、出すぞ」


 にこやかな笑みを浮かべるグリゴレさんに対して、カミュがアイテム袋の中のもの……そのうちのモンスター素材に関して、次々と出していく。


「まず、ぷちラビットからな」

「おっ、十匹以上狩って来たか。まずまずの成果だな」

「次に、ノーマルボアだ。こっちはセージュがひとりで倒した。それはあたしも目の前で見ていたから間違いない」

「わかった。そっちのクエストも完了ってことでいいな。はは、しっかり解体作業も終わってるじゃないか。これもお前がやったのか、セージュ? なかなかやるな。だが、ノーマルボアは一匹なのか? それなら、別に受付でも構わなかったんだが」

「いや、問題はこれからだよ」

「おい、まさか、ラージボアとかまで狩らせたんじゃないだろうな? いくらカミュが付いているとは言え、どう見ても戦いに不慣れな新米に無茶をさせるなよな」

「だったら良かったんだがなあ」

「なに……どういうことだよ?」

「これを見ろよ――――――ほらよ、っと」

「――――――はあああああ!?」


 何も見ても驚かないと言っていたグリゴレさんが素っ頓狂な声をあげた。

 まあ、それはそうだろうなあ、今までは一匹分の素材をひとつひとつ、ゆっくりと取り出していたカミュが、それだけはいきなり、いっぺんにその場に積み上げたんだし。

 普通は驚くだろうな。


「おい! カミュ! 何を狩って来たんだよ!?」

「ラースボアだ。何でも、ラージボアの特殊進化の蛇だとさ。な? 驚いたろ?」

「いやあ……さすがにこれは予想以上だな。ここまで大きい蛇なんて、俺もお目にかかったことはないぞ」

「たぶん、『グリーンリーフ』の奥とかだったら普通にいるだろうけどな。オレストの町の周辺じゃ、まず出てこない大きさだな」

「おい、まさか、カミュ、これもセージュがひとりで、ってわけじゃないだろうな?」


 さすがにそれなら、大型新人の誕生だ、とグリゴレさんが真顔で言う。

 いや、俺じゃないけど、大型新人っぽい人はいますよ?


「ほとんどの手柄は別のやつだがな。そいつとあたしとセージュ、その三人でとどめを刺したのは事実だな。それに、解体したのもあたしらだし」

「そうなのか……ああ、確かに、すべて解体作業が済んでるな……これは、驚きだ」

「どうする? とりあえず、セージュが腹を空かせてるから、飯のための分の金が欲しいんだが。報酬の計算とかはすぐできるか?」

「いや……これはさすがに、町長に確認しないとな。領主案件だろ、これ」

「まあな。じゃあ、そっちは時間がかかるとして、あたしらはそれが終わるまで、飯でも食って来るよ。その分だけ先にくれ」

「わかったわかった。俺のポケットマネーから先出ししとくよ」

 

 そう言って、カミュに数枚の貨幣らしきものを渡すグリゴレさん。


「よし、セージュ。とりあえず、飯代確保したぞ。もうちょっと計算には時間がかかるってことだから、先に飯を食って来ようぜ」

「ああ、少しゆっくりしてきていいぞ。色々と確認作業があるんでな」

「わかりました」


 とりあえず、グリゴレさんにそっちの確認は任せて。

 俺とカミュは、町の中にあるごはん処へと向かった。

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