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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第1章 チュートリアル編
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第18話 農民、採取を行なう

「そうだそうだ、そっちに成ってる実がミュゲの実だ」

「へえ、白くて綺麗な実だな」


 俺は近くに生えていた白い実を手に取ってみた。

 手のひらよりも少し小さめの、鈴のような形をした実だ。

 せっかくなので、『鑑定眼』のスキルも使ってみる。



【素材アイテム:素材/食材】ミュゲの実

 オレストの町周辺の森に生えているミュゲの木の実。わずかだが、自己治癒力を高める効果がある。そのままでも食べられるが、かなり酸味やえぐ味が強いので、食するためには工夫が必要だろう。素材としても使える。採れたてのため新鮮。



「へえ、自己治癒力を高める効果か」

「ああ、だから、この辺りの地域で傷薬とかを作る際に使うんだ。薬草系統の一種の果物だな。もっとも、そのままかじるとめちゃくちゃ渋いから、口の中が痺れるぞ」

「ふうん、美味そうに見えるのにな」

「ふふ、酸味と痺れがある実だな。おまけに鮮度が落ちると痺れがひどくなるし。まあ、使いどころは難しいが、薬の素材としては、なかなかのもんだよ。だから、クエストの中でも入手難度が少し高めなのさ」


 一回採ったら、すぐには生えてこないしな。

 へえ、なるほど。

 リポップが遅い感じの実なんだな。

 だから、最初のうちは、今、俺たちがいる場所のように、森の入り口からそれほど離れていない場所のものを採って来ればいいけど、それを繰り返していくうちに、どんどん採れる場所が森の奥になってしまうのだそうだ。


「まあ、そうは言っても季節がめぐれば、また採れるようになるけどな。一時期に採れる数に限度があるのさ。モンスターとは違って、すぐには増えないからな」


 まあ、それが当たり前だよな。

 山の恵みは乱獲しちゃいけないってのは、基本のことだし。

 このゲームの場合、取りつくしても、翌年はまた生えてくるって辺り、まだ向こうの自然よりはましな設定になってるようだしな。


「そんなわけで、クエストとはいえ、加減して採取しろよ? 素材の独り占めは色んなところから睨まれることになるからな」

「なるほどな。そういえば、カミュ、この辺の生えてる草とかの素材って、勝手に採っていっていいのか?」


 それなりにリアルに作られている世界ってことは、誰か持ち主とかいないのか?

 この辺の山の地主とか。

 そう聞くと、カミュは笑顔を浮かべて。


「ああ、この辺りは問題ない。だが、国によっては、当然、国家で管理してるところも多いぞ。ふふ、いいところに気付いたな」


 やっぱりな。

 勝手に木を伐採したりすると、それだけで罪になるところもあるそうだ。

 カミュ曰く、この辺は、主要国家がなく、国と国との境みたいな場所にあるため、それで、どこからも苦情なり何なりがやってこないんだそうだ。

 だからこそ、迷い人のスタート地点ってことなのかもな。

 生産系の職人とか目指しているプレイヤーにとっては、まず、素材を得るために国の許可を取らないといけないなんて、なんか、出だしからつまづいている気がするし。


「それに、付け加えるなら、魔境に近くなればなるほど、植物の繁殖性能が高くなるからな。実際、場所によっては素材がすぐに生えてきたりもするぞ?」

「そうなのか?」

「ああ。だからこそ、だな。魔境が魔境たるゆえんだ。こと、植物に関してだったら、ここ『グリーンリーフ』と無限迷宮の『大樹海』のふたつが、異常の代名詞だからな」


 植物の生長がおかしいって意味で、とのこと。

 まあ、とりあえず、この魔境の奥なら、素材を採っても短い時間でリポップするってことらしい。

 ほんと、ありがたい場所だな。


「それだけに、無断で深入りするんじゃないぞ。生息しているはぐれモンスターも、森の奥に行くにつれて強くなるし、そもそも無礼なやつは森そのものから嫌われるからな」

「えっ!? 森が生きているのか?」

「まあな。厳密に言えば少し違うんだが、そういう認識で間違いないぞ。少なくとも、魔境っていうだけあって、普通の森じゃあないんだよ」


 そう、真面目な顔でカミュが脅してきた。

 うん。

 何だかんだ言っても、カミュの実力は確かだから、その言葉にも重みがあるよな。

 無断で、っていうことは、もしかすると、どこかで許可を得られたりもするのかもしれないしな。

 最初のうちはあんまり近づかないようにしておこう。


 そんなことを話しながら、俺も『鑑定眼』を使いつつ、素材を採取していく。

 パクレト草やミュゲの実の他にも、いくつか名前持ちの植物を見かけたんだが、今日のところは、あんまり余裕がないから、クエストのためのものだけを狙うことにした。


 てか、さっきのラースボアの素材だけでお腹いっぱいだっての。

 あれ、クエストになかったけど、どのくらいの価値になるんだ?

 量的には、本当に全部引き取ってもらえるのか不安な量になったぞ、あれ。


 ちなみに、パクレト草は、黄色くて小さな花を咲かせる草だった。

 何となく、マーガレットというか、小さめの菊に近いか?

 それも、群生地を見つけたので、取り過ぎに注意して採取していく。



【素材アイテム:素材】パクレト草

 オレストの町周辺の森に生えている野草。小さくて黄色い花が目印。わずかだが傷を癒す効果がある。採ったばかりのため新鮮。



 パクレト草は、そのまま薬草のような効果があるらしいな。

 カミュに聞いたら、すり潰して、その汁を傷へと垂らしても、かすり傷くらいならゆっくりと癒えていくそうだ。

 当然ながら、そのまま傷に使っても、効果は薄いらしいが。


「そっちも、薬師がどうにかしないと、あんまり使い物にならないよな。まあ、町の周辺でも採れる素材なんて、そんなもんさ。もっとも、使い方次第では化けるものもあるかもしれないがな」


 詳しいことは専門家じゃないから、あたしも知らん、とカミュ。

 ただ、薬師には、それぞれ秘儀のようなものもあったりするらしく、意外な素材から、効果の高い薬を作ったりもできるそうだ。

 なので、入手難度だけで素材の価値を判断しない方がいいかも、とは忠告された。

 なるほどな。

 それにしても、森の中には色々な種類の草や木や木の実っぽいものがあるんだが、俺の『鑑定眼(植物)』が効かないものもけっこうあるようだ。

 雑草とかは、鑑定できないってことなのか?

 それとも、俺のスキルのレベルが低いからなのか?

 まあ、今日のところは関係ないから、後に回しておくけど、その辺は今後の検証の課題になりそうだな。

 ゲームを楽しんでいると忘れがちだが、一応、これもテスターのお仕事だしな。

 しっかり、給料が出る以上は、気になったところに関しては、後でまとめて報告しておかないといけないだろう。


 うん? そう言えば、報告は、ログアウトした後で施設の担当者にすればいいのか?

 それとも、さっき覗いた『けいじばん』に報告用のスレッドでもあるのか?


「なあ、カミュ」

「なんだ?」

「俺、この世界で気になったことを報告するのも仕事なんだが、それって、誰にすればいいとか知ってたりしないか?」

「はあ? そんなのあたしが知ってるわけないだろ? てか、それはあんたらの世界での話だろ? そこまで知るかよ。……まあ、そうだな、セージュ、もうひとつ注意しとくぞ。あたしは一応、エヌとの繋がりも多少はあるから、ここがどういう場所かってのもそれとなく聞いてるがな。他の町の連中とかに、そういうこと聞くなよ。下手すると、変人扱いされるからな」


 あ、やっぱり、そういう設定になってるのか。

 てか、カミュは説明系のNPCって扱いなのか?

 だから、ちょっとギリギリな情報とかも知ってるらしい、と。


「え、でも迷い人って、どこかから飛ばされてきたってことになってるんじゃないのか?」

「いや、そもそも、迷い人の存在自体が、それほど世界的には有名じゃないんだよ。知ってるやつは知ってるかも知れないが、普通の平民とか、その辺の冒険者くらいじゃ把握してないと思ってた方がいいぞ。オレストの町はちょっとそういう意味では、町の連中が他よりも迷い人に慣れてるってだけだからな」

「そうなのか!?」

「まあ、教会関係なら、あたしを含めて多少は知ってるやつもいるが、それだって、場所によってまちまちだしな。状況をわきまえずに好き勝手やったら、いきなり捕縛されることだってあるかも知れないしな」


 うわ、他の国とかに行くとそういうこともあるのか?

 確かにそれは、異世界っぽいけどさ。

 てか、それって、ゲーム自体もリアルに作ってあるから、プレイヤーの方もしっかりとキャラをロールプレイするように、って感じにも受け取れるんだが。

 どっちかと言えば、ゲームって認識を捨てた方が、楽しめそうな作りというか。


「そういうことなら、俺も気を付けないとな」

「まあ、セージュの他にも、そんな感じの認識のやつが多いなら、注意した方が良さそうだな。特に、スタート地点が異なる連中とか、な」

「あ、そっか。ユウのやつも騎士団の寮がどうとか言ってたもんな。どこの国とかは吹き込まれてなかったけど」

「騎士団か? だったら、それっぽい候補はレジーナ王国か、アーガス王国だろうな。デザートデザートは軍の中に騎士団はないし、『帝国』の方も騎士団って感じの組織はなかったはずだしな」

「へえ、けっこう、色々な国があるんだな?」


 今、カミュが言っただけでも四つか。

 どれがどんな感じの国とかまでは知らないけど。


「まあ、この辺りで関係してるのは、魔境を挟んで更に北にある『帝国』、西の方で、『死の砂漠』を抜けたところにあるデザートデザート、南の方に行ったところにあるアーガス王国、そのアーガスの西にあるドワーフや鉱物種が住むアルミナ峡谷、で、最後にずっと東の方へと進むと『精霊の森』、そして、あたしら教会の本拠地があるアニマルヴィレッジ。とりあえず、直接、オレストの町から向かえそうなのはそのくらいだな」


 うわ、けっこう色々あるんだな、選択肢。

 カミュの説明を簡単にまとめると。


 大陸屈指の軍事国家が北にある『帝国』。

 『死の砂漠』を含めた砂漠地帯をまとめているのが、砂の国『デザートデザート』。

 さっき騎士団の候補にもあがった、人間の王がまとめている『アーガス王国』。

 ドワーフたちの隠れ里、『アルミナ峡谷』。

 精霊種以外は立入禁止、『精霊の森』。

 神聖教会の本部がある、自由都市連合『アニマルヴィレッジ』。


 その辺りだったら、ここから次に向かうことができるそうだ。

 何だか、聞いてるだけでも面白そうだな。


「あれ? レジーナ王国ってのはどこにあるんだ?」

「アーガス王国から、更に東だ。教会本部から見て、大分南に行った場所だな。一応、海に面してる港もあるぞ」

「へえ、そうなのか」


 ただ、話を聞いている感じだと、大分遠いみたいだな。

 もし、ユウがそっちからスタートだとすれば、このゲームの中で会うのは大分先になりそうだ。

 ……というか、βテスト中に会えるのかね?


「まあ、その手の話も大事だがな、それよりも空腹の方が問題だぞ。もう、クエストに必要な素材は集め終わったんだろ?」

「ああ、それはばっちりだ」

「よし、じゃあ、後はこのまま、町に戻るぞ。帰り道も気を付けろよ。遠くにはぐれモンスターを見かけたら、なるべく遭遇しないようにルート取りをするぞ」

「わかった」


 そのまま、俺たちはオレストの町へと向けて、今来た道を引き返すのだった。

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