第17話 農民、戦いの後始末をする
【素材アイテム:素材】憤怒蛇の皮
オレストの町周辺の森で突然変異を起こしたラースボアの皮。その大きな皮は加工することで、色々なものを生み出すことができる。酸による損傷があるため、前面部分の皮は質があまり良くない。
【素材アイテム:食材】憤怒蛇の肉
オレストの町周辺の森で突然変異を起こしたラースボアの肉。鍛えられた肉は弾力性に富んでいる。そのため、加工が難しい素材。
【素材アイテム:素材】憤怒蛇の血
オレストの町周辺の森で突然変異を起こしたラースボアの血。そのまま飲むことで、強壮剤にもなるが、生臭いので注意。素材としての使い方は不明。
【素材アイテム:素材】憤怒蛇の骨
オレストの町周辺の森で突然変異を起こしたラースボアの骨。普通の蛇だと小骨程度だが、この蛇は身体自体が大きいため、素材としても使用可能。
「いや、何とか解体作業が終わったな」
「ああ、穴埋めの方もな。よく頑張ったな、セージュ」
そう言って、カミュが笑顔で肩をぽんぽんと叩いてきた。
いや、ほんと、よくふたりだけで、片付けたもんだよ。
これに関しては、俺も自分で自分を褒めたいよ。
まず、ラースボアの解体だが、手頃なサイズに切り分けて、そこから、ひとつひとつ解体作業を行なうってやり方で、全部を終わらせた。
切り分け作業をカミュが、細かい処理を俺が担当して、だ。
そして、それが終わった後はふたりがかりで土砂を元通りに片づけたのだ。
俺の土魔法だけだとお話にならなかったので、そっちはカミュが手伝ってくれた。
カミュって、土魔法も使えるのな。
土砂を整理して、穴へと戻して、俺も爪技を使って、整地をしたり。
あー、しんどかった。
うん。
やっぱり、十兵衛さんが抜けた穴はかなり大きかったぞ。
ただ、その苦労の甲斐はあってか、かなりの量の素材がカミュのアイテム袋へと収まった。
一応、これに関しては、十兵衛さんとカミュと俺の三等分ってことで落ち着いた。
やっぱり、ちょっと暴走をやらかしたとは言え、ほとんどのダメージを与えてくれていたのが十兵衛さんってのを考えると、勝手に横取りするような真似はできないよな。
そのことがはっきりとわかるのは、戦闘後の俺のステータスだ。
名前:セージュ・ブルーフォレスト
年齢:16
種族:地の民(土竜種)
職業:農民
レベル:3
スキル:『土の基礎魔法Lv.3』『農具Lv.1』『爪技Lv.4』『解体Lv.7』『身体強化Lv.1』『土中呼吸(加護)』『鑑定眼(植物)Lv.1』『鑑定眼(モンスター)Lv.3』『緑の手(微)Lv.1』『土属性成長補正』『自動翻訳』
びっくりしたことに、身体のレベルはまったくあがっていなかったのだ。
ラースボアって見るからに、強敵って感じだったんだが、その戦闘に関する経験値のようなものはほとんど入っていなかったというか。
まあ、俺は穴掘っただけだけどさ。
結局、穴掘りで使った、『土魔法』のレベルや、『爪技』のレベル、それに、ラースボアを倒した後の解体作業で『解体』のレベルがあがったくらいだな。
「やっぱり、直接戦ってないと、身体のレベルってあがらないのかな?」
「まあな。そっちに関しては、相手にとどめを刺さないと、迷い人風に言うなら、経験値か? それが入らないようになってるみたいだな」
カミュによると、攻撃なり、防御なりで接していないと『戦った』っていう形ではカウントされない、とのこと。
いや、それってどうなんだ?
「ええっ!? それだと、補助とかサポートに回ったやつが損じゃないか? そっちには経験値が入らないってことだろ?」
「いや、きちんとパーティを組んでいれば、話は別だったはずだぞ、確か」
「え? そうなのか?」
「ああ、今回のはあたしらの一方的な手伝いみたいな感じになったろ? そういう場合は、サポートして一緒に戦ったっていうよりも、自然現象とか、地形作用とかと一緒で、たまたまそういう風に作用した、って感じになるって言ってたかな」
あ、なるほど。
一緒に、ってわけじゃなくて、十兵衛さんが戦った時の外的要因として計算されてしまったってことか。
そっかそっか。
ということは、事前にパーティを組んだりするのって重要ってことだな。
いわゆる、辻ヒールとかって、まったく意味がないってことになるわけだ、経験値の計算の上では。
いや、よくよく考えると、辻ヒール自体が自己満足以外の何物でもないんだが。
「だから、今回のもあの場で十兵衛に確認した上で、パーティを組めば、そこからの経験値は得られたとは思うぞ。まあ、そんな形で得られた数値に意味があるのかは知らないけどな」
倒すって意味での経験とはまた別だろ、とカミュが苦笑する。
どうしても、ゲームとして数値化して計算すると、実際の『経験』とは差異が出てしまうと言うか、その辺まできっちりとリアルにステータスに反映させるのって、やっぱり難しいんだろうな。
いや、今のままでも十分ゲームとしては成立しているけどさ。
カミュはあんまりそういうのは好みじゃないらしい。
「ふふ、究極的に言っちまうと、そのレベルと強さの間には必ずしも因果関係があるわけじゃないしな。さっきの十兵衛みたいにな。レベル=強さってことなら、あたしと拮抗できるわけがないだろ? だから、あくまでもレベルなんて、目安程度にしかならないんだよ」
「なるほどな」
確かに、十兵衛さんのレベルって5だったもんな。
一方のカミュのレベルはかなり高いだろう。
黒塗りの桁数を信じるなら、軽く三桁のレベルってことだろうし。
それでも、十兵衛さんの動きは俊敏だったし、そういう意味ではいい勝負をしていたってことはカミュも認めているらしい。
「何せ、あたしは身体強化を使っていたからな。その分でも優位にあった。正直、身体強化なしであれだけ動けるってのは驚いたしな」
「あっ、身体強化か……そういえば、カミュ、それも聞きたかったんだが、俺のスキルの中にもその『身体強化』ってのが増えてるんだが?」
ステータスに、いつの間にか『身体強化Lv.1』が生えていたのだ。
思い出すなら、たぶん、この場に駆けつける前に、カミュにかけられた魔法が原因なんだろうなとは思うが、詳しいことについて聞いておきたいし。
「ああ、本当は、このクエストの監督が終わって、その上で、監督官が『こいつなら大丈夫』ってお墨付きを与えた場合に限り、クエスト終了後に授与される予定だったんだよ、この『身体強化』ってやつは」
「そうなのか?」
へえ、このクエストイベントの隠れ報酬みたいなものか?
スキルを与えてくれることもあるんだな。
というか、相手にスキルを与えることなんてできるのか?
「まあな。魔法屋で魔法を習得するのと同じ理屈だよ。さっきあたしが使ったのは『付与魔法』って言ってな。それを相手に使うと、魔法を覚えさせることができたりするのさ。まあ、誰でも使えるわけじゃないけどな。『付与魔法』にも種類があって、さっきのは『完全付与』だ。この使い方に限り、使った相手に魔法を覚えさせられるのさ」
だから、そこまでの『付与魔法』が使えるやつはそんなに多くない、とカミュ。
「いい機会だから教えてやるが、『付与魔法』の段階ってのが、まず自分に付与を与える『自己付与』、そして、相手に付与だけを与える『限定付与』、そこから更に使い方を修めることで初めて使えるようになるのが『完全付与』だ。さすがに、そこまでの使い方は一朝一夕じゃあ身に付かないからな。あたしにしたところで、それができるのは『身体強化』と『同調』ぐらいだしな」
「えっ? 魔法ごとによって違うのか?」
「ああ。それぞれの魔法で、それぞれ段階を踏む必要がある。だから、長命種でもなければ、たくさんの『完全付与』が使える魔法屋なんてありえないのさ。実際、魔法屋を営んでいるやつのほとんどは、エルフとかだしな」
へえ、なるほどな。
そのため、どうしても付与魔法の使い手ってのは増えないらしい。
というか、人間種なのに、付与魔法をある程度修めているカミュって、実はすごいよな。
「まあ、あたしの場合は、孤児院とかでガキどもの面倒とかも見たりしているからな。そっちはシスターとして磨かれた能力ってやつさ。別に誇るほどのもんじゃないよ」
「へえ、孤児院とかもあるのか?」
「この町にはないけどな。それぞれの管轄でひとつずつくらいは孤児院が立てられているんだよ」
何でも、カミュが属している神聖教会ってのは、国を越えて活動している宗教組織なのだそうだ。
世界規模の宗教っていうのか?
とりあえず、このゲームの世界のほとんどを占めているのが、その神聖教会って組織なのだそうだ。
実際、冒険者ギルドに対しても、色々と権限を使えたりもするらしいし。
「てか、教会の話はまた今度な。セージュ、あんたがこの町の教会を訪れた時にでも、そこにいるやつに話を聞けよ。さっきも言ったが、あんまりだらだらしてると、町に戻るのが遅くなるんだよ」
「あ、ちょっと待ってくれよ。せめて、その身体強化について教えてくれよ」
話が逸れたけど、そもそも、そっちのことが聞きたかったわけだし。
「そうだな、身体強化っていうのは、言葉の響きそのままだよ。『身体を魔法の力で強化する』ってな。まあ、『強化魔法』って言い換えてもいい。なので、スキルというよりも魔力を使って、身体の性能を引き上げる術って考えた方がいいな」
「あ、なるほど。魔力で、ってことか」
要するに、身体強化も魔法の一種ってことらしい。
さっき、俺が異常な速さで動くことができたのも、カミュがかけた身体強化のおかげってことらしい。
「まあ、さっきのはあたしの力だから、今のセージュが自分の使ってもあそこまでは強化できないぞ? そもそも、今のあんたの魔力であんな使い方をしたら、あっという間に『枯渇酔い』を起こして動けなくなるぞ」
「『枯渇酔い』? 魔力がなくても動けなくなるってことか?」
なんだそりゃ。
体力じゃなくて、魔力がゼロになっても、動けなくなるのか?
それって、普通のHPみたいなことがMPでも起こるってことだろ?
まあ、HPがなくなれば死んでしまうから、ちょっとは違うか。
「まあな。さっき、身体を魔素が循環してるって言ったろ? 体内の魔素が完全にゼロになれば、死に至ることもあるが、『枯渇酔い』ってのは、その前段階だな。身体がこれ以上魔素を失うと危険だって判断して、脱力して、それ以上魔法が使えない状態になるのさ。ま、言ってみれば、ストッパーみたいなもんだな」
あ、なるほど。
身体が持っている限界以上の力を出すと危険だから、それを防ぐための安全装置みたいなのが、その『枯渇酔い』ってわけか。
とは言え、ゲームとかだと、そのリミッター解除、とかもありそうだけどな。
「話戻すぞ。とにかく、身体強化ってのは、戦う上での基本であり、基盤でもある。それなりに腕に覚えのある冒険者だったら、大体は使って来ると考えていいぞ。まずは、これを自分なりに使いこなすのが、冒険者として、一皮むけるかどうかのところだからな」
「わかった」
まずは、この身体強化を鍛えていけってことらしい。
まあ、このスキルもカミュが俺のことを認めてくれた証みたいなものらしいし、そういうことなら頑張って鍛えてみようかな、うん。
実際、かなり役に立ちそうだしな。
さっきの速度で移動できるようになれば、かなり便利だし。
「それじゃあ、色々と聞きたいこともあるだろうが、さっさとやることやって町に戻るぞ。後は、収集系のクエストの採取だな」
「了解だ」
そのまま、俺たちは周辺での採取へと移った。




