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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第1章 チュートリアル編
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第16話 農民、『けいじばん』に驚く

「おおっ!」


 思わず声をあげてしまったが、この『けいじばん』ってすごいな。

 俺が目にしている項目の音声が流れるのか? これ。

 これも、五感をリンクさせてるからできることなのかね?

 ふむふむ。

 けっこう、面白いな。

 今まで、この『けいじばん』の存在に気付かなかったのは不覚だな。


 もうすでに、俺と同じくテスターの人が何人も書き込んで……じゃなくて、吹き込んでいるらしくて、俺も知らなかったような情報も色々あるし。

 とりあえず、オレストの町で他の誰にも出会わなかった理由はよくわかった。

 今、俺がやってる冒険者ギルドの『クエストイベント』が個々のプレイヤーだけの世界として、並行で処理されてるってことらしいのだ。

 てか、それ答えてるの横にいるカミュだし。

 そういうこと、知ってるんなら教えてくれてもいいんじゃないか? とは思った。

 まあ、聞かなかった俺も悪いんだけどさ。


 そもそも、カミュの場合、クエスト関係のNPCか、それに運営側の誰かが乗り移ってるかのどっちかって考えてたから、アルバイトの立場として、成功したい俺としては、あんまり下手なことを聞けなかった、ってのも大きいんだが。

 システム上の問題については、どうせ教えてくれないって勝手に思い込んでいたからな。

 でも、どうやら、カミュの中にも線引きみたいものがあるようだ。

 まあ、そうだよな。

 さっきのエヌって人とのトークもそうだけど、本当にまずいんだったら、完全に俺の目からは隠すだろうし、その辺も含めて、そこまで徹底的に隠すってわけでもなさそうだ。

 相変わらず、カミュがゲームの中の世界の人なのか、それははっきりしないけど。


 ……てか、ユウのやつも『けいじばん』に吹き込んでるのな。

 名前だけならいざ知らず、声まで聴けば、これがユウ本人だってのは俺もわかる。

 それにしても、スタート地点が、他の町の騎士団の寮、ねえ?

 オレストの町にいないんじゃ、俺が『クエストイベント』を終わらせたとしても、すぐに合流とかは難しそうだな。

 場所が違うってことは、ユウのやつはレア種族ってことか?

 後で俺の方も、『けいじばん』に何か吹き込んでおこうかな。

 少なくとも、ユウのやつに俺もテスターやってるってことは伝わるだろうし。


 あ、そうこうしているうちに、掲示板の方も大分発言が進んだな。

 と、カミュの追加のコメントを見つけた。



―――――――――――


62:カミュ

ここ見てるやつに、追加で警告な。

今さっき、あたしが、あんたらみたいな『迷い人』……プレイヤーから決闘を受けさせられて、『死合い』を演じる羽目になったんだが、それに関する注意事項だ。


あたしらのような、こっちの住人は、あんたらと違って、死んだら勝手に蘇るような救済措置はないんだからな。今回の場合はまあ、あたしも同意したから、その限りじゃないんだが、もし、こっちの住人を襲って、その命を奪うようなことがあれば、神聖教会として、あんたらに『危険生物指定』を下す措置を取ることになる。


で、この『危険生物指定』についてだな。

この指定を受けたものは、『神聖教会から敵性生物と見なされる』。

そのため、『神聖教会や冒険者ギルドなどからの協力が一切受けられなくなる』。

それに加えて、『教会本部から、刺客を送られることがある』。

ああ、そうそう、『賞金稼ぎの冒険者から狙われる』ってのもあるな。


まあ、ここまでがこっちの世界での『危険生物指定』なんだが、これだけだと、あんたらみたいに『死に戻り』ができる存在にとっては、警告にならないだろ?

だから、これに加えて、重い措置が取られることになる。

今、あんたら、身体に傷を負ったりした時、その痛みがある程度は軽減されるように処理が施されているんだが、その『痛覚軽減状態が解除される』。


加えて、あたしにとっては正直よくわからないんだが、『仮想現実での傷のダメージが現実にもフィードバックすることもある』そうだ。


必ずというわけではないらしいが、最悪そういうこともあるんだと。

だから、再度警告な。

もし、こっちの住人の命を奪ったり、それに準じた行為に及んだ場合は、それ相応の覚悟はしておけよ? 安全圏の中から、一方的にいたぶるなんてことはできないってことを認識しておくといい。

もちろん、あんたら迷い人同士の諍いでも、だ。


ああ、心配しなくても、真っ当に生きてる分には、教会は迷い人の味方だからな。

あくまでも、道を踏み外すんなら覚悟しとけってこった。


あと、ナビ、次以降の伝言板に移っても、警告は残すようにしとけよ?

ここだけだと、見ないやつの方が多いだろうしな。



63:ナビ

はい、了解しましたよ。

今後はチュートリアルでも、その説明を加えることにします。

他のナビたちにも周知徹底しますので、ご安心ください。



64:カミュ

やれやれ、これであたしの仕事は終わりだな。

この件に関する質問とかは、以降はナビに任せるぞ。

あたしの分は、あくまでも教会側の忠告として必要ってだけだからな。

さすがに、誰かが説明しないとまずいだろうし。



―――――――――――


「よう、お待たせ、セージュ。あたしの方は仕事が終わったぞ」

「あっ、そっか。てか、カミュ、今、俺の方でも『けいじばん』のコメントを聞いてたぞ」

「はは、だったら話が早いな。要するにそういう感じになる。まあ、あんたの場合は、目の前でずっと見てたから理解しやすいだろうがな」


 そう言って、シニカルな笑みを浮かべるカミュ。

 まあ、確かにな。

 要するにこの警告って、PK(プレイヤーキラー)対策も兼ねてるってことだろ?

 ゲームの世界の人たちを襲わない。

 プレイヤー同士がいがみ合わない。

 そのためのくさびってやつなんだろう。

 もし、PKなり、悪人プレイなりをするならば、それなりに覚悟が必要ってな。

 まあ、言われて初めて知った内容もあるから、そっちは少しびっくりしたけど。


「つまり、俺たち『迷い人』って、痛みとかも弱めてもらってたんだな?」

「まあ、そっちに関しては、あたしも詳しくは知らないよ。さっき、セージュもノーマルボアから水弾の直撃を受けて痛がってたし、元々がどのくらい痛いかなんて、さすがにわからないからな」


 痛みの感覚なんて人それぞれだろ? とカミュが首をひねる。

 まあ、そりゃそうだよな。

 俺にしたところで、さっきのエヌさんの言葉とか耳にしてなければ、痛みが弄られてるなんて思いもよらなかったしな。

 まあ、確かに、さっき穴を掘った時か?

 爪なり、他の身体の部分なりにそれなりに負担がかかってたはずなんだが、そんなには痛くなかったもんな。

 てっきり、それももぐら族の種族適性かと思っていたんだが、どうやら違ったようだ。

 純粋に痛み自体が弱くなってたのか。

 そりゃあ、死ぬような痛みなんて、誰だってリアルに体験なんてしたくないから、その手の処置をして当然の話なんだが。


「そんなことより、残ってる蛇の方を片付けるか。大体は終わったがまだ少し残ってるぞ。まったく……十兵衛のやつも、せめて、こっちの作業が終わってから、襲い掛かってこいよな。人手が減ったじゃないか」


 ぶつぶつとそんなことを愚痴っているカミュに頷きつつ、俺も蛇の解体作業へと戻る。

 というか、さっき命のやりとりをしていた相手に対しての憎しみとかは、あんまり持ってないんだな、カミュって。

 俺がそう尋ねると。


「あん? 今のはあくまでも決闘だろ? あたしも受けた以上は、お互いの同意があったってことだ。その結果をどうこう言っても仕方ないだろ?」

「あれ? ってことは、別に十兵衛さんには罰則とかを適用するつもりはないってことか?」

「まあ、警告する前だしな。そのきっかけを作った以上は責任がないでもないが、さすがにさっきので『危険生物指定』はやらないぞ。そうだな……罰として、痛覚軽減は解除するくらいは考えてもいいが」

「いや、それだけでも十分重いだろ」


 どう考えても、痛みが軽減されないってのは、向こうの日本で平和を享受してる俺たちみたいなのには、かなり堪えるぞ。


「でも、あいつの場合、それはそれで喜びそうな気がしないか?」

「あー……確かに、そう……かな?」


 血に飢えたというか、戦いに飢えた狼って感じだったもんな、さっきの十兵衛さん。

 自分よりも強いやつに会いに行く、って感じで。

 もしかして、カミュに戦いを挑んだのも、さっき俺たちが十兵衛さんとラースボアの一騎打ちを邪魔したせいで、欲求不満だったとかそんな感じも無きにしも非ずというか。


 というか、だ。


「それじゃ、罰にならないだろ」

「はは、まあな。ま、あの低いレベルであたしに切り札のひとつを使わせたんだから、そういう意味ではご褒美って感じでもいいな」

「へえ、切り札か。そういえば、最後の方は俺の目だと何をやったのかさっぱりだったんだが、それについては教えてくれるのか?」

「えー、やだよ。何が悲しくて、自分の切り札を解説しないといけないんだよ。てか、セージュ、一応警告しとくが、自分の持ってる能力とか、その使い方とか、気軽にペラペラとしゃべるんじゃないぞ。その手の情報なんて、知られたら対応されてそれで終わりだからな」


 そんなことは冒険者のイロハのイってことらしい。

 こと戦闘に関しては、自分の能力を知られるってのが命取りになるから、と。

 

 まあ、それは当たり前の話なんだが。

 でも、俺って、一応βテスターなんだぞ?

 能力とかスキルとか隠してばかりだと、検証とかもできないんだが。

 それでいいのかよ?

 さすがに、この手のメタな発言はカミュに直接ぶつけるつもりはないけどさ。


「そんなことより、やることが色々と残ってるぞ。この蛇の解体が終わったら、あんたが掘った穴も埋めたりもしないといけないし、そもそも、この辺りまで深入りしたんだから、せっかくだし、素材の採取とかもやっておきたいしな」


 うわ、やっぱり、この穴埋めないといけないのか。

 土砂を元に戻しても、元通りにはならないような気がするんだけど、その辺は仕方ないか。何にせよ、穴掘った俺に責任があるようだし。

 でも、そうなると、穴掘りも時と場合によるよな。

 さっきのは緊急時だったから、そういう時は躊躇するつもりはないけど。


「あ、そうだ。カミュ、この蛇の素材って、十兵衛さんの分はどうするんだ? あの人が一番の功労者なんだから渡しても構わないよな?」

「ああ、セージュがそのつもりなら、あたしはどっちでもいいぞ。はは、あんた律儀だな。現実的な冒険者だったら、全部自分のものにしそうなもんだが」

「そういうのは俺も嫌だよ。他人の手柄を横取りするようなまねはしたくないって」

「いいんじゃね? そういうお人好しのところは嫌いじゃないぞ」


 まあ、そんなことよりだ、とカミュが続けて。


「とっとと片付けないと腹減って動けなくなるぞ? こんな大物相手にするつもりもなかったし、本当は昼過ぎまでには戻るつもりだったんだしな」


 あ、空腹状態とかもあるのか。

 動けなくなるとかはちょっとまずいな。


「わかった。もう少し急ぐよ」


 カミュの言葉に頷くと、俺は巨大蛇の解体の続きへと戻った。

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